側頭葉性健忘については何度かこのブログでも話してきました。今回カテゴリーで独立させましたので興味がある人は目を通してみてください。
巷では、認知症と混同していることがとっても多く、本人や家族に説明してあげたくなることがよくあります。
新芽はきれいですね
この側頭葉性健忘の方の特徴は、前頭葉機能が健全に動いているにもかかわらず、記憶力がうまく機能していない、特に新しいことを覚えこむ能力に大きな問題があるということです。
普通の認知症は、記憶力障害が起きてくるころには、前頭葉機能がうまく働かない状態が先行して起きてきてしまっています。
だから、その失敗に対してなす術がない。または、その失敗を困った状況として切実にとらえることができない。
それに引き替え、側頭葉性健忘の人は、新しいことこそ覚えられませんが、表情はあるし、生活は意欲的だし、動作は機敏だし、細かい配慮はできるし、何よりもその失敗を恥らったり困惑したりします。
この働きはすべて前頭葉が機能した結果です。
認知症の人に対応したことがある人にとっては、側頭葉性健忘の人に会うと、とても不思議な違和感を感じるものです。
ボーとしていない、どころかイキイキしているのですから。
なのに、挨拶してちょっと経つと挨拶したことすら覚えていないのですから。
相談事例がありました。
63歳女性。去年末から、物忘れがひどくなった。日付が覚えられない。水道やガスや電気の消し忘れが目立つ。昨日のことをすっかり忘れてしまう。メモを渡してもそのメモをなくしてしまう。あたかも認知症のようですね。
前頭葉機能のうち、最も繊細、大切な注意集中・分配力のチェックを「かなひろいテスト」で行いました。
なんと、20歳代の力があります。
意味把握にややあいまいさが出ていました。
そして、他の二つの前頭葉検査にもやや陰りが見えましたけれど、それにしても原則的に考えると素晴らしい働きぶりといっていいと思いました。
このちょっとした陰りは、記憶力障害が起きた後で、失敗が続き自信を失っていくことが増えるたびに少しずつ、老化を加速させてしまうために起きてきます。
適切な説明が行われないと3年もたつと普通の認知症になってしまいます。老化が加速されると、前頭葉機能から低下が起きますから。
前頭葉機能が落ちてしまえば、記憶力障害がありますから、レベルは即中ボケということになります。
脳の後半領域の検査はMMSが実施されています。
5分後の想起、平成何年かと今日の日づけ、計算がマイナス1点。
MMSは30点満点中25点でした。
「文を書く」というテスト項目がありますが、一文字が2センチ×2センチくらいもある堂々とした字で、「脳の働きの検査をしていただいています」と2行にわたって、A4版白紙の短辺をいっぱいに使って書いてありました。
もちろん筆圧も強く、エネルギーの大きさに圧倒されるほどです。
認知症の人の場合は、弱弱しかったり、雑だったり、小さかったりでこのような印象を持つことはありません。
U保健師さんは、生活歴を聞き取っていました。
平成14年 脳動脈瘤手術。後遺症の可能性と脳動脈が足りないといわれたが、今年受診して指摘されるまで本人家族ともに忘れていたと。趣味の書道は続けていた。
(このように聞き取った時には、後遺症はなかった。生活はイキイキとしていたと理解しなくてはいけません。U保健師さんも「表情といい、しゃべり方内容ともにしっかりしていて、『普通の認知症とは違う』と確信していた」とのことでした)
平成23年 同居の実母の認知症がひどくなり介護負担が大きくなった。自分の脳動脈瘤の手術の時にお世話になったことを感謝しているためにどうしても世話をしたいと。書道教室がなくなった。
平成24年 12月ごろより物忘れがひどくなる。
平成23年の実母の認知症悪化や書道教室消滅を、脳機能の老化加速の「きっかけ」として考えたくなりますが、もしそうならば一番に低下していくのは前頭葉機能でないとおかしいのです。
前頭葉機能が万全である以上、認知症ではないことがはっきりしています。
記憶の入力障害のみ。これを側頭葉性健忘というのです。
脳機能という物差しをあてることで、「何か違う」と直感的に感じることの説明が簡単にできてしまいます。
脳機能テストができるならば、テストで客観的に測ればいいのですが、テストができない場合には、前頭葉の働きを教条的ではなく具体的に理解することが、とても大切なことになってきますね。