脳機能からみた認知症

エイジングライフ研究所が蓄積してきた、脳機能という物差しからアルツハイマー型認知症を理解し、予防する!

物忘れーその3 側頭葉性健忘①

2013年06月08日 | 側頭葉性健忘症

側頭葉性健忘については何度かこのブログでも話してきました。今回カテゴリーで独立させましたので興味がある人は目を通してみてください。

巷では、認知症と混同していることがとっても多く、本人や家族に説明してあげたくなることがよくあります。
新芽はきれいですね
P1000029この側頭葉性健忘の方の特徴は、前頭葉機能が健全に動いているにもかかわらず、記憶力がうまく機能していない、特に新しいことを覚えこむ能力に大きな問題があるということです。

普通の認知症は、記憶力障害が起きてくるころには、前頭葉機能がうまく働かない状態が先行して起きてきてしまっています。

だから、その失敗に対してなす術がない。または、その失敗を困った状況として切実にとらえることができない。

それに引き替え、側頭葉性健忘の人は、新しいことこそ覚えられませんが、表情はあるし、生活は意欲的だし、動作は機敏だし、細かい配慮はできるし、何よりもその失敗を恥らったり困惑したりします。P1000048

この働きはすべて前頭葉が機能した結果です。

認知症の人に対応したことがある人にとっては、側頭葉性健忘の人に会うと、とても不思議な違和感を感じるものです。

ボーとしていない、どころかイキイキしているのですから。
なのに、挨拶してちょっと経つと挨拶したことすら覚えていないのですから。

相談事例がありました。
63歳女性。去年末から、物忘れがひどくなった。日付が覚えられない。水道やガスや電気の消し忘れが目立つ。昨日のことをすっかり忘れてしまう。メモを渡してもそのメモをなくしてしまう。あたかも認知症のようですね。

P1000047脳機能検査が行われていました。

前頭葉機能のうち、最も繊細、大切な注意集中・分配力のチェックを「かなひろいテスト」で行いました。
なんと、20歳代の力があります。
意味把握にややあいまいさが出ていました。

そして、他の二つの前頭葉検査にもやや陰りが見えましたけれど、それにしても原則的に考えると素晴らしい働きぶりといっていいと思いました。
このちょっとした陰りは、記憶力障害が起きた後で、失敗が続き自信を失っていくことが増えるたびに少しずつ、老化を加速させてしまうために起きてきます。
適切な説明が行われないと3年もたつと普通の認知症になってしまいます。老化が加速されると、前頭葉機能から低下が起きますから。
前頭葉機能が落ちてしまえば、記憶力障害がありますから、レベルは即中ボケということになります。

脳の後半領域の検査はMMSが実施されています。

P10000465分後の想起、平成何年かと今日の日づけ、計算がマイナス1点。
MMSは30点満点中25点でした。

「文を書く」というテスト項目がありますが、一文字が2センチ×2センチくらいもある堂々とした字で、「脳の働きの検査をしていただいています」と2行にわたって、A4版白紙の短辺をいっぱいに使って書いてありました。
もちろん筆圧も強く、エネルギーの大きさに圧倒されるほどです。

認知症の人の場合は、弱弱しかったり、雑だったり、小さかったりでこのような印象を持つことはありません。

U保健師さんは、生活歴を聞き取っていました。
平成14年 脳動脈瘤手術。後遺症の可能性と脳動脈が足りないといわれたが、今年受診して指摘されるまで本人家族ともに忘れていたと。趣味の書道は続けていた。
(このように聞き取った時には、後遺症はなかった。生活はイキイキとしていたと理解しなくてはいけません。U保健師さんも「表情といい、しゃべり方内容ともにしっかりしていて、『普通の認知症とは違う』と確信していた」とのことでした)

平成23年 同居の実母の認知症がひどくなり介護負担が大きくなった。自分の脳動脈瘤の手術の時にお世話になったことを感謝しているためにどうしても世話をしたいと。書道教室がなくなった。

平成24年 12月ごろより物忘れがひどくなる。

P1000049平成23年の実母の認知症悪化や書道教室消滅を、脳機能の老化加速の「きっかけ」として考えたくなりますが、もしそうならば一番に低下していくのは前頭葉機能でないとおかしいのです。

前頭葉機能が万全である以上、認知症ではないことがはっきりしています。
記憶の入力障害のみ。これを側頭葉性健忘というのです。

脳機能という物差しをあてることで、「何か違う」と直感的に感じることの説明が簡単にできてしまいます。
脳機能テストができるならば、テストで客観的に測ればいいのですが、テストができない場合には、前頭葉の働きを教条的ではなく具体的に理解することが、とても大切なことになってきますね。


物忘れーその2 脳の老化の順序

2013年06月08日 | 側頭葉性健忘症

DSM-5で物忘れがなくなったといっても、認知症に物忘れはつきものです!
だから、元気にイキイキ生きている方でも、物忘れに起因する事件を起こすたびに「もしかして、これってボケはじめ・・・」と不安になるのですよね。

散歩道の花たち(マロニエ)
P1000017とっても簡単に説明してしまいましょう。

普通の認知症は、脳の老化が加速されたものです。
もともと老化の道筋をたどっているということは、体の一部である以上、脳といっても例外ではありません。

ところが、脳が正常に老化していく場合と、脳の老化が加速されるときには、はっきりと違いがあります。

それはできなくなっていく機能に違いがあることと、老化が加速されるときにはできなくなっていく機能に順番があるということの2点です。
だから、その2点だけチェックすれば認知症への道に立っているかどうかすぐにわかります。

P1000020鍵は前頭葉機能。
そもそも前頭葉機能は脳の司令塔、自分らしさの源です。
どのように状況を判断し、どのように行動を決断し、注意を集中したり分配したりしながら目的に向かって進んでいくか、すべて前頭葉の働きです。

正常老化の人たちの大きな特徴は、前頭葉機能は年齢とともに、継続的に緩やかに低下のカーブを描いていくだけです。
つまり若い時のようにテキパキできないし、発想もわかないけど、あくまでも「若い時のように」であって、結構内心は「この年齢ならこんなものか」と認めている程度の前頭葉機能の低下はあるということです。
何しろ徐々に低下していますから、対応は可能なのです。その人らしさは失われません。

もちろん年齢相応の記憶力低下は当然のことですが、脳機能検査上では想起(思い出すことができる)や見当識(時や所や人がはっきり理解できる能力)は衰えません。
これは百歳の方でも正常老化であれば、当てはまります。

一方、脳の老化が加速し始めたら一番に起きてくるのが前頭葉の機能低下です。

唐種オガタマノキ
P1000024それは年齢相応というような生易しいものではなくて、司令塔が働くなるわけですから「自分じゃないみたい」と思うしかないような状態です。(小ボケの始まり)

つけ加えるとそれが3年も続くと、「それがどうした!」とほとんど無自覚になっていきますよ。(中ボケ突入)

もちろん徐々に進んでいくものですから、多くの人は老化が加速し始めて半年もたつとそのように思い始めるようです。
その頃の、もう一つの生活上の変化は、実は記憶力障害ではなくて「意欲がなくなる」「やたら居眠りをする」ということなのです。司令塔が働かなくなるから当然ですが。

そしてそのあと。                      シャリンバイP1000035

記憶力障害が出て来ます!
その時こそ、前頭葉の出番のはず。
「この状況をどう乗り切るか」、「次に打つ手は」、「いっそ謝ってしまおうか」、「あれが原因だろう」「今度はこう工夫しなくては」etc.
(ま、たまには頭真っ白なんてこともあるでしょうけど、持ち直せますよね。)

頭がクルクル回らなくては状況が乗り切れません。この状態こそが前頭葉が働いている状態です。

ところが
老化が加速されていると、その前頭葉が出てこられないのです。
どうしていいのか、頭が真っ白(そしてそのまま)。
打つ手も思いつかないし、子供のように手をこまねいていたり、いっそプンプン怒り飛ばしてしまおうというような行動に出ることもあります。

月桃
P1000028お判りでしょうか?

記憶力障害が起きても、つまり少々の物忘れが起きてちょっとした事件になっても、それが結構繰り返されても、自分らしく処理できるなら、それは正常老化「歳のせいで・・・」と笑って過ごせばいいのです。

残念ながら、確実にその頻度は増加していきますけど。

エイジングライフ研究所ではこう言います。
「物忘れ 反省と工夫が利けば 歳のせい」


ブログ村

http://health.blogmura.com/bokeboshi/ranking_out.html