無意識日記
宇多田光 word:i_
 



最近の曲が時間軸方向に独自性を発揮してるのと対照的な作風が、空間軸方向に凝りに凝りまくった2004年の『EXODUS』だわね。

こちらは時間軸方向には比較的オーソドックスな作りにしてあるが、同時に鳴らされてるパートの数がやたらやばい。特に象徴的なのが『Animato』で、一体何声ミックスしてるのか途中でわからなくなってしまうほど。よくこれだけの声部を組み合わせて自然に聴かせてるよな。その密度たるや恐るべしとしか言いようが無い。

『君に夢中』はその『Animato』を彷彿とさせると話題になっているが、恐らく編曲面ではかなり異なる作風になっているかと思われる。『EXODUS』の頃のヒカルは(Utadaは)自分で編み出したフレーズを丁寧且つ大胆に編み込んで作編曲していた訳だが、現代のヒカルは楽曲の大まかな流れ(コード進行)だけしっかり作ってそれ以上の細かい箇所はコ・プロデューサーたち(小袋成彬やA.G.Cook)と楽器演奏者達(ギタリストのベン・パーカーJr.など)に任せているようにも思える。昔より更に監督然としているというか。そのアレンジの方向性故に、作編曲者としてヒカルが個性を出すには、時間軸方向に独自性を封じ込める作風にシフトしてきたともいえるかも。

『EXODUS』はヒカルを(Utadaを)含めてたった4人でその殆どの曲をレコーディングしたそうで。1人はコ・プロデューサーの照實さん、もう2人は恐らくスタジオでの技術面担当だったようだから、最終盤にティンバランドが加わって『Exodus '04』や『Wonder 'Bout』などが制作されたとはいえ、それまでの曲はほぼヒカルの出す音のみで出来ていた。だからあたしゃ未だに「いちばん好きな作風」はその『EXODUS』なのだが、故にあのアルバムを聴き込んだ身としては、思い込みも多大に含めて、ヒカルの曲にヒカル以外の人の作った音が入る事に過剰に敏感になっている。

3年前の前作『初恋』では、しかしながら、とうとうヒカル単独で作った曲が『残り香』1曲のみになるところまで来ていた。次のアルバムは、このまま行けば全曲他アーティストや他プロデューサーとの共同制作になりそうだ。この感染症禍下だと他人とのコラボレーションがやりづらくもしかしたらヒカル単独の楽曲が増えるのではないかなと当初予想しそうになっていたのだが、ここまで来てもそうなる気配は無い。英国の再感染拡大を背景にしても他の人たちとのコラボレーションを大切にしている。ニューヨークにもわざわざ足を運んだ。もしかしたら東京でも誰かとレコーディングしているかもわからない。次のアルバムは今まででいちばんクレジットが賑やかな1枚になるかもしれないね。

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メロディの安心感と対比されるのは、サウンドの現代性と歌詞の進化、そして何より独特の曲構成である。特にこの2年のシングル曲はどれもその点が凄い。

ただ、最もぶっ飛んでいる『誰にも言わない』が最もスルーされている為、その点がクローズアップされづらい感はあるのかなと。特にこの曲は、歌詞は扇情的だがメロディが非常に落ち着いていて優しく押し出しが弱い。サラッと聴いているとサラッと流れていってしまう。その上、曲構成を印象づけるのに重要な役割を果たせるミュージック・ビデオが存在しない。これが結構大きい。

『Time』などは、エディット・バージョンとはいえ曲構成と編集がしっかりと対応しているから、ああここがヒカルの無限増殖する場面だなとか連想がはたらきやすい。『One Last Kiss』なんかは2度のブレイクであからさまに画面が止まる。音と絵が記憶の中で結び付いている。

もし『誰にも言わない』にMVがあったら、人気は変わっていたのか。曲自体は変わらないのでドラスティックなものではないかもしれないが、曲としての印象には変化があったかもしれないね。


『君に夢中』に関しては、現行多くの人がドラマ映像と共に聴いているので「ドラマのあの場面のあの台詞とこの歌詞」みたいな組み合わせで記憶に残っている筈だ。なので、同曲のミュージック・ビデオはそれをどう上書きしていくかという話になってくる。新井順子プロデューサーの宇多田ヒカルガチ勢ぶりをみれば、ドラマ制作スタッフがMVの制作にも名乗りを上げるかもしれない。ヒカルを神と崇める吉高由里子のノリからしたら、ドラマ出演陣がキャストとして参加してくれるかもしれない。これは決して荒唐無稽ではなく、過去にヒカルも2004年に『誰かの願いが叶うころ』のミュージック・ビデオを制作した際タイアップ相手である「CASSHERN」の出演者の皆さんが同曲のミュージック・ビデオに参加してくれていた。勿論映画とMVの監督が同一人物というのが大きかった訳だが、兎も角有り得ない話ではないのである。あたしとしては佐久間由衣あたりを主役にしてスピンオフドラマ仕立てで迫るのもいいのではと妄想したりもするが、まぁいちばんセンセーショナルなのはヒカルが御芝居することですかね。『Can You Keep A Secret?』なんかを思い出せば、うん、できるできる。(楽観的)


まぁロンドンに居るヒカルがあれやこれやというのは難しいが、『君に夢中』のフルコーラスも恐らく、『誰にも言わない』ほどではないにしても、『Time』や『PINK BLOOD』並の独特の曲構成を持っている筈で、それをスピンオフドラマ仕立てで演出してくれたら皆の頭にその曲構成の妙が残りやすいだろう、という話でしたとさ。いやMVが作られるかどうかすら不明なのに随分先走りましたな!

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