トシの読書日記

読書備忘録

享楽と退廃の日々

2009-07-22 16:43:16 | ま行の作家
村上龍「限りなく透明に近いブルー」読了



「コインロッカー・ベイビーズ」を読んだのなら、これも読まねば片手落ちとばかりに買ってみました。

言わずと知れた村上龍のデビュー作であり、芥川賞受賞作でもあります。


この間の太宰ではないんですが、これも「うーーーん」とちょっと唸ってしまいました(笑)この作品のテーマというか、意図が見えてこないんですねぇ。内容は、相当どぎついです。もしかしたら、こういった今までにはあり得なかったような小説を書いて、読者と当時の文壇の度肝を抜いてやろうと企んだという実験作なのかも知れません。それならそれで本書を読んだ自分も「あーびっくりしたぁ」と言っていればいいわけで、あと感想もなにもないと言ってしまえばいいんですが、やっぱり、どうもそれだけではないと思うんです。というか、芥川賞を獲るくらいの作品なんですから、まさかそんな訳ないですよね(笑)


主人公であるリュウ(僕)、その恋人のリリー、友人のヨシヤマ、カズオ、オキナワ、レイ子、モコ、ケイといった面々が繰り広げる饗宴。酒とドラッグとセックス。こういった描写が延々と、というかだらだらと続いていきます。昼間も、前の晩の酒とクスリが抜けきらず、朦朧としていて、それを治すためにまたニブロールとか、そういったクスリをがりがりと噛み砕き、そうして夜になるとまた酒、ドラッグ・・・・。ちょっと読んでいてうんざりしました。


そんな中で、主人公であるリュウの時折見せる感覚の鋭さ、見る物、考えることに対するはっとさせる描写がかろうじて本書の魅力ではないかと思います。

この小説の一番最後の部分、そこにその鋭さが集約されている気がします。少し長いですが引用します。


「影のように映っている町はその稜線で微妙な起伏を作っている。その起伏は雨の飛行場でリリーを殺しそうになった時、雷と共に一瞬目に焼きついたあの白っぽい起伏と同じものだ。(中略)これまでずっと、いつだって僕はこの白っぽい起伏に包まれていたのだ。
血を縁に残したガラスの破片は夜明けの空気に染まりながら透明に近い。
限りなく透明に近いブルーだ。僕は立ち上がり、自分のアパートに向かって歩きながら、このガラスみたいになりたいと思った。そして自分でこのなだらかな白い起伏を映してみたいと思った。」



何をしていいかわからない。何をやりたいのかわからない。この閉塞的な状況の毎日の中で、リュウは限りなく透明に近いブルーのガラスのようになりたいと思うわけで、このへんの比喩は具体的には何を指すのかよくはわかりませんが、何らかの希望がきらめいていることは確かだと思います。



蛇足ですが、解説に綿矢りさの名前を見つけ、ちょっと「あの人は今」的な気分を味わってしまいました(笑)

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