豊川稲荷の参道にはいなりを扱う店がズラリ並び、多種多彩な創作いなりが目白押しだ。気になったものだけでも七色いなりにわさびいなり、名古屋めし系の味噌カツいなりにひつまぶしいなり、テイクアウトではいなりコロッケに焼きいなりにいなりバーガー、さらに洋風ラクレットいなりにスイーツ系のいなりシューなんてのも。
初めはあれこれ食べ歩いてみようとしたものの、どれも名を聞いただけで何となく味の想像がつき、ぐるっと回ってシンプルなもので実力のほどを図りたくなる。表通りの賑やかな呼び込みにも少々しんどくなり、みやげ物や観光飲食店がない路地へ。観光客どころか、下手したら地元客にも無縁そうな鄙びた構えの「道頓堀いなり」を、あえて選んでみた。
店頭のケース内の日焼けしたサンプルによると、いなり寿司4つで520円と相応なしつらえ。殺風景な店構えをくぐると店内は輪をかけて殺風景で、窓にカーテンが固定されなんだか薄暗い。鉄板焼きの店らしく、色褪せた品書きにはほかお好み焼き、焼きそばなども。これは質実剛健、日和った変わりメニューないのがローカルな店らしい。
客の姿はほかにないが、おばちゃんは愛想よく、いなり寿司を頼むと炊飯器から炊いたご飯を丼によそい、厨房へ。酢飯を作り詰めている様子で、ややしたら細長い俵型のいなりが行儀よく並んで運ばれて来た。揚げの中身はご飯のみ、ほのあったかい柔らかめの酢飯に、揚げから軽く甘いつゆがからみ、ほっとする味わい。酢も甘さも控えめで、あ、これでいいかも、と納得の、家庭の味らしいいなりである。
通りは観光客など誰も通らず、さっきまでの参道の喧騒がうそのように静か。そういえば今日は初午、これで縁起がつけられただろうか。