ウマさ特盛り!まぜまぜごはん~おいしい日本 食紀行~

ライター&編集者&散歩の案内人・上村一真(カミムラカズマ)がいざなう、食をテーマに旅をする「食紀行」を綴るブログです。

町で見つけたオモシロごはん101…神谷町 『ダイニングバー侍』の、オムライス

2007年09月26日 | ◆町で見つけたオモシロごはん

 仕事の打ち合わせで神谷町にやってきて、東京タワーを窓から臨むオフィスで打ち合わせが終わったのが、11時半過ぎ。界隈で飯を食うか、日比谷線で仕事場がある銀座に戻ってから食うか、非常に迷う時間である。神谷町はほとんど下車したことがなく、食事処の見当がつかないけれど、せっかく知らない町に来て、ファーストフードやチェーンの店で昼飯、というのも味気ない。
 とりあえず駅に向かい、駅に隣接するオフィスビルの地下飲食店街をぶらぶらと物色。簡素な喫茶店や小ぢんまりした居酒屋などが多く、店頭のランチメニューは「カレーセットコーヒーつき」とか「ほっけ焼き定食」といった感じ。いずれも、ビルに入っている会社の社用に使われる店のようで、値段は安いがいまひとつ個性もないので、どうも食欲がそそられない。

 今から銀座に戻ると12時過ぎと、ちょうどランチタイム戦争のど真ん中に突入してしまう。干物や地酒の店あたりで、いっそ居酒屋ランチでもいいか、と決めかけたところで、フロアの最奥にダイニングバーらしき店を見つけてひと安心。店頭にはランチメニューのボードがあり、パスタなど軽食メニューがいくつか揃っているようでありがたい。
 大きな木の扉を押し、照明をアンダーに落とした落ち着いた雰囲気の店内へ。すぐ左にあるしゃれたバーカウンターと、その後ろにズラリ並んだ、種類豊富なアルコール類が目をひく。黒服の店員に案内されて、奥のフロアのテーブル席に着くと、壁にかかる大きなビジョンが迫力モノ。夜はMTVとか映画とかワールドスポーツとか流すのかもしれないが、今は民放のニュース番組が流れ、のどかなお昼時、といったムードである。

 オーダーを取りにくるのと同時に運ばれてきたのは、お冷ではなくミネラルウォーターのボトルだ。ラベルには「侍」と描かれていて、店名である『ダイニングバー侍』にちなむ、店のオリジナルのよう。オーダーはパスタのセットにするつもりだったが、テーブルにあったメニューを開いたところ、写真のオムライスがうまそうなのでこちらに決定。店の選択のためにうろうろして空腹が激しかったので、「大盛りで」と追加した。
 普通、オムライスといえば薄焼き卵でライスをアーモンド形にくるんだのが思い浮かぶが、ここのはケチャップライスの上に、オムレツがポン、とのっかっているものが運ばれてきた。ケチャップライスのオレンジ、卵の黄、その上にかかるケチャップの赤と、色彩鮮やかでなかなか食欲をそそる。

 スプーンでオムレツをすくってみてびっくり、卵がとても軽くフワフワに柔らかい。オムレツの命は、何といっても卵への絶妙な熱の加わり加減。しっかり火が通ってだし巻き卵みたいになっては、食感がゴワゴワといまひとつだし、かといって断面から流れ出すほど生っぽいのも、少々気持ちが悪い。それが、このオムレツはひと口分すくっても、中身がドロリと流れ出すことなく、ピッタリぎりぎりのタイミングで固まっている。舌触りもさらりと軽く、まるで洋菓子のスフレのような食感。魅惑的で、優しさあふれる味わいである。上にかかるトマトケチャップのキリッとした酸味が、絶妙なコントラストで、思わず頭がシャキッ。優しい味と刺激が対象的にやってくる、メリハリの効いた味わいである。
 ケチャップライスのほうも、オムレツなしでこれだけでも充分おいしいほどで、昔懐かしい洋食屋のピラフを思い出す。ただ、大盛りにしたところ本当に量が多く、オムレツを平らげたところでかなりお腹いっぱいになってしまった。ケチャップライスは食べられるだけ食べて、残りはごめんなさい。大盛りを注文して残すのは、仁義にもとるので、恐縮仕切りである。


卵がふわりと、見事な加減に仕上がっている

 時計を見るとちょうど12時を回り、昼休みになった会社員がぼつぼつやってきて賑わい始めた。やはりOLが多いようで、居酒屋ランチが多いこの地下街で、この雰囲気の店はありがたい存在なのかも。カウンター越しのアルコール類が気になるから、今度は神谷町の打ち合わせを夕方にして、帰りに寄ってカクテルを一杯、もいいかも。席を立ち、目に入った大型ビジョンは、タレントがわんさか出てくるお昼のバラエティー番組に、映像が変わっていた。(2007年7月18日食記)