今年は秋に、神奈川県のラーメンガイドの仕事をする予定になっていることは、以前に記したと思う。すでに9月も終わりに近づくのだが、まだ仕事の依頼が来ないので、少々心配。とはいえ日頃のリサーチは怠ることなく進めておいて、突然依頼が来て無茶な締め切りを設定されても(笑)、涼しい顔で受けられるようにしておかなければならない。
地元のラーメン屋の食べ歩きはもちろん、書店で今出ているラーメンガイドをチェックするのも重要な事前準備、と駅前の本屋を覗いてみると、ラーメンガイドの発注元である版元が刊行している神奈川のグルメガイドシリーズに並び、つけめんの店ガイドがあった。神奈川だけでなく東京や千葉、埼玉も掲載されており、つけめんだけで1冊になっているガイドは見たことないから珍しい。開いてみると、ざるに大盛りの中華麺と小鉢のつけだれの写真が、どの店も延々と並んでおり、ビジュアル的にバラエティに富んだラーメンガイドより、ちょっと単調かも。
つけめんといえば、以前訪れた新杉田の『だて屋』で、名物にしていたことを思い出す。前に行ったのは梅雨明けすぐの暑い日で、自分は汗をかきながらラーメンを平らげる横で、つけめんをするするとすすっている客がいたものだ。今日も朝から蒸し暑く、お昼には前回の宿題となったつけめんでさっぱりいくのもいいな、と書店から歩いて5分ほどのところにある店へと向かった。
カウンターに腰を下ろしたら、メニューを見ることなく即「つけそば」を注文。ついでにサイドオーダーも前回と変えてみようと、前に頼んだメンマ飯の「だてめし」ではなく、「チャーシュー丼」もお願いした。昼時ということもあり、店内はそこそこ賑わっており、聞くとはなしに耳に入ってくる客の会話には「連チャン」「大箱」との単語がぽつぽつ。店の隣は大きなパチンコ店のため、合間に寄って昼飯を済ませる客が多いようだ。
その客層に気を使ってなのか、この店はランチタイム禁煙どころか、分煙にもしていないのが難点である。手打ち麺が自慢で、客席の一角にガラス張りの製麺室を設けているほどなのに、以前ラーメンを頂いたときには横の客からタバコの「煙害」を被り、せっかくの手打ち麺もうまさ半減どころか、激減に感じたものだ。今日は幸い、周囲には喫煙する様子の客はいないようなので、とりあえずひと安心。
だて家のチャーシュー丼。細切れのチャーシューに味が染みる
すると常連客らしきひとりが「つけそばの大盛りは、何玉分?」と、店の人に聞いているのが耳に入ってくる。大盛りはどうやら、普通のラーメンの麺で2玉分あるようで、普通盛りでも1.5玉相当はあるらしいから、結構なボリュームだ。これはチャーシュー丼が余計だったか、と心配するも遅し。先に小鉢に入ったつゆ、続いてざるに盛られた麺が運ばれてきた。つゆは普通のラーメンのつゆなのが面白く、ネギのほかメンマや刻んだチャーシューなど、きちんと具も入っている。そしてざるの上に山型にこんもりと盛り上がった麺は、ざるそばやざるうどんを食べたときよりも、はるかに存在感があるように感じる。
まずは軽く麺をひとたぐりして、つゆをさっとくぐらせてズルリ。手打ちで腰があり、モッチリした歯ごたえの麺が、つゆのおかげで甘みが豊かに感じられる。麺はキリッと冷やしてあるのに対し、つゆは温かいため、冷熱の対照が味のポイントになっているよう。そして具がしっかり麺にからむため、たぐるごとに具も味わえるのが、ラーメンとまた違った点だ。濃い目の味付けのつゆのおかげもあり、どんどんとすすれてしまう。
つけそばの麺は腰があり、ほのかな甘みも
つけめんは厳密に定義づけすると、正統派のラーメンのカテゴリーに入らない異分子との説がある。でも、先日店じまいしてしまった東池袋の名店「大勝軒」のおかげで知名度があがり、麺料理のひとつのジャンルとして確立していることは間違いない。ほかにもタンタンメンや油そばも、同様にラーメンマニアや評論家の間では、カテゴリーにまつわる議論が白熱しているようだが、まあ難しいこと言わず同じ麺料理ということで、ラーメン屋で食べられてうまけりゃいいんじゃないだろうか。近頃はスープの味や具に様々な研究がなされて、味がより多様化しているラーメンの一方で、つけめんは麺そのものの味をシンプルに楽しむ、という点では、日本人好みの麺料理といえるだろう。
今日のところはタバコの煙の被害にあうこともなく、ざるに大盛りの麺を最後まであっという間に頂けた。これまた味が良くしみた濃い口のチャーシュー丼も、ちょうどいいサイズで軽く平らげて、難なくごちそうさま。やや辛目のつゆに、そば湯ならぬラーメンのゆで汁を足して飲むと、これがマイルドになって締めにはいい。
今後ラーメンガイドの仕事の依頼が来たら、この店は普通のラーメンでなく、つけめんを紹介してみようか、と迷うところである。でも掲載候補の店にリストアップするにはやっぱり、店内はフルタイム全面禁煙にしてもらいたいところだけれど。(2007年9月8日食記)
PS・ふと気がつくと、このカテゴリーは100投稿目です。ブログをはじめてちょうど2年ほどで到達、ということで自分で自分におめでとうございます