アールブリュット作家 犬塚弘さんを訪ねて。犬塚さんにお話を伺いつつ酒瓶の絵まで書いてもらったところで、いったん犬塚さんとは分かれてクルマで雲仙市へと移動。犬塚さんが日常を過ごしている南高愛隣会の施設を訪ね、作品制作の環境を見てみることにする。
犬塚さんは西郷地区にあるグループホームで暮らしており、日中は生活介護施設「わくわく」で過ごしている。午前中は仕事として、全地区の各施設へ弁当の配達を行う。昼食を食べた後、午後はレクリエーションなどでゆったり過ごし、入浴・休憩後16時前に送迎を利用して西郷のグループホームへと帰る。「わくわく」での滞在時間は長いながら、犬塚さんはここでは絵は描かない。ここは絵を描くほかにも楽しみがあることに加え、絵は自分の空間で描きたい気持ちが強く、創作の場とここは別と捉えているそうである。
その創作の場が、絵画レクリエーション施設「ふたば工房」で月2回、土曜日の午後に行われるアートクラブである。「わくわく」の活動の一環で毎回13名ほどの参加があり、犬塚さんは欠かさず参加している。参加者は共同スペースでそれぞれ自由に絵を描き、犬塚さんは一緒に書いたり別室の個室を利用したりしているそうである。犬塚さんはここが創作の場所との意識があるようなので、現在ひと部屋を専用アトリエに整備中。部屋には犬塚さんの絵や酒瓶を飾る予定という。
ほか、共同スペースや階段の壁面には犬塚さん以外の方の作品が飾られ、こちらも独特の造形に見入ってしまう。ベーコンやフルーツパフェなどをコンパクトに描く人、機関車を細かい部品まで精緻に描く人、四角い色パネル模様を描き組み合わせた人など。ベーコンの絵の方は自傷他害の傾向があったそうだが、絵を書き始めてからほぼなくなったそう。さらに会が製造する菓子のラベルに氏の絵が使われ、収入が得られ出すと本人と家族にもさらに変化が出てきたという。絵のスキルが自尊心と自立に結びついたようで、犬塚さんに続く好例となるのを期待したい。ちなみにアートクラブの参加者にとって、犬塚さんの絵は「真似できない存在」なのだとか。
最後に、グループホームの犬塚さんの部屋も訪れてみた。2階の1室に暮らしていて、部屋にはアルバムがいっぱい積まれているのが目に入る。見せてもらうと酒蔵巡りをした際の記録で、壱岐などの蔵や働く人、同行した南高愛隣会の方と撮った写真が多数貼られていた。写真のほか新聞や広告も目立ち、同行者や思い出を記録するために犬塚さんが独自に選んでいるようだ。またこの施設の人に聞いたところ、色紙はこの自室で書いているそうである。出会った方へ送るメッセージは、やはり自らが一番落ち着く場所から、気持ちを込めて贈っているのだろう。
今日のミッションはここで終了、明日は犬塚さんと懇意にしている酒蔵巡りにご一緒します。