ウマさ特盛り!まぜまぜごはん~おいしい日本 食紀行~

ライター&編集者&散歩の案内人・上村一真(カミムラカズマ)がいざなう、食をテーマに旅をする「食紀行」を綴るブログです。

ローカル魚でとれたてごはん…甲府 『まぐろ家 じん』の、マグロブツとのど焼

2017年06月23日 | ◆ローカル魚でとれたてごはん
内陸の山国である甲斐国の藩主・武田信玄公は、アワビの煮貝が好物だったと伝えられている。駿河侵攻の際、駿河湾でとれたアワビを味わったのがきっかけといわれ、栄養価が高いため軍用食に採り入れた、醤油漬けにして一昼夜かけて運ぶと甲府へ着く頃にちょうど味が染みた、などのエピソードは有名だろう。そんな海なし県ゆえの海産物への憧憬は、信玄公のみならず土地の人々もまた、同様。山梨県民の魚好きは、古くからかなりのもので、高級珍味の煮貝の所以にあるように魚介類が貴重だったことが、その根底にあるのだろう。

中でも特に珍重された魚介といえば、マグロだ。江戸期には甲州の商人が、駿河湾沿岸にマグロの買い付けに行っていたとの記録が残っており、遠路はるばる運ばれたマグロは大変ありがたがられてきたという。現在も県民一人当たりの寿司屋の数が日本一、マグロの消費額は都道府県別で2位にランキングされるなど、数字の上での裏付けもある。立地ゆえの独自の食べ方も発達しているといい、焼津や清水といった近場の水揚げ地とはまた違った、山国の熱いマグロ食文化とはいかなるものだろうか。黄昏の甲府駅に降り立ったら、駅前に鎮座する信玄公の像に挨拶していざ、繁華街へマグロ攻めの出陣である。

甲府の街は横丁や路地が随所に形成されており、そのひとつ「ちょうちん横丁」には、いささかディープな佇まいの店が軒を連ねている。紅色にぼんやり灯る提灯が下がる通りの中ほどには、きらびやかな電飾の店頭とともにズバリ「甲州マグロ家」の行燈。お目当ての「まぐろ家 じん」で、扉をくぐると「いらっしゃい!」の声が、なぜかカウンター席から飛んできた。親父さんはお客と一杯やりつつ、客にオススメの品を説いたり、マグロのうんちくを話したり、オーダーが入ると厨房へ向かいと忙しい。これが甲府のマグロ料理屋のスタイル? と、少々驚いてしまう。

店のスタイルも独特だが、品書きのマグロ推しもなかなか凄い。「マグロ七変化」と題し、目肉にカマに頬肉に尾の肉、鍋に鉄板焼きに果ては餃子やピザまで、様々な部位と調理法が羅列されている。定番のマグロブツもネギみそ和え、キムチ和え、マヨ和えと多彩で迷うというか、味の想像がつかず頼む上で戦々恐々というか。ブツは定番のシンプルなのにして、あまり聞かない部位「のど焼」を少々冒険した品として選んでみた。品書きには甲州のローカルグルメの鳥もつ煮もあり、マグロのモツ煮はないものの、レバニラ仕立てとのメニューが載っていた。ホルモンもしっかり、食材として使い尽くしているようだ。

ビールとともに先に出されたブツをひとかけら口にした途端、身のうまさに思わず驚愕。歯に触るスジはまったくなく、程よい締まりがやわやわと崩れた後に、淡白かつ後味がまろやかに甘い。キン、ととんがった赤身の味の主張を受ければ、脂の甘さはむしろないほうが自然に感じるほど。山国で食べる海の魚の刺身は思えない、凛とした気品にあふれた味わいである。ご主人いわく、いいマグロはそのまま何もつけずに食べてこそ真価が分かるとか。試しにワサビも醤油もつけずに食べると、素のままの味が実にきめ細かく感じられる。

甲府のマグロのレベルの高さは、背景に歴史が古いこと、水揚げ地から遠いため鮮度が厳しく問われることなどが挙げられる。赤身の味の良さも、当地でマグロを食べる頻度が高いため、高価な大トロ・中トロよりもお客の舌がシビアだからなのだ。また推察するに、水揚げ港からの輸送時間も、味にいくぶん寄与していたのではないだろうか。マグロは中〜大型魚のため、身の熟成にいくぶん時間がかかる。そのため駿河湾から甲府へ着いた頃が、熟成のベストタイミングだったのかも知れない。煮貝と同様、輸送距離が旨味の醸成に関係があるのなら、内陸の魚食文化において理にかなった点といえなくもない。

ブツでビールが空いた頃合いに、のどが焼きあがって運ばれてきた。口の下の付け根にあたりで、味は瑞々しく淡く、よく動くところだけに歯ごたえがシコシコと心地よい。骨にへばりついた茶色の身がトロトロと滑らかく、アラならではの味の濃さ。カマや兜焼きのいいとこ取りで、それらの相場からしたら驚きの価格でもある。赤身やカマは、よそではこんな値段じゃ出ないでしょう、と笑う親父さん。「七変化」と称して無駄なく使うのは、マグロ一本あたりの歩留まりを良くして、各品を安くする狙いもあるという。水揚げ港でも食べないような部位まで使う姿勢は、山国だけに無駄にせず食べ尽くす流儀もあるように思える。

親父さんによると、この二品に使っているマグロは、鳥取から買い付けた本マグロだそう。この季節は日本海で水揚げされるものが、質が良いという。元来、甲府で食べられていたマグロの種類は、キハダマグロが主流だった。江戸期には駿河湾で数多く漁獲された種で、水揚げ後はすみやかに人手と馬を駆使して、主に富士西麓の「中道往還」を経て甲府へと運んでいたという。険しい山道ながら最短距離のため、沼津から甲府まではわずか一昼夜。標高の高い場所を通るため気温が低く、時間との勝負だった生魚の運搬には適していたのだそうだ。今は流通網が発達したから、全国からいい生マグロが入るようになりありがたい、と親父さんは胸を張る。

カウンターに腰を据えた親父さんとのマグロ談義が盛り上がり、壁に貼られた短冊から「マグロの鎧酒」を追加。頭あたりの皮を炙って燗酒に浸した、骨酒やアラ酒の類のワイルドな酒だ。やかんから豪快に注ぎ、ダシで茶に染まったのをキュッといけば、ほのかな苦味の後に皮目の甘さが広がり、なんとも奥行きのある後味がいい。「皮酒だとイマイチな名前だから、身の外側を包む『鎧』にしたんだよ」うちのオリジナルだからね、と自慢げな親父さんのうんちくを肴に、のど焼きの骨をしゃぶり香ばしい鎧酒をあてて、を繰り返す。ひょっとするとこの鎧酒も、マグロを丸ごと使い尽くす一環からの発想なのかも知れない。

甲府おさかなてくてくさんぽ3

2017年06月23日 | てくてくさんぽ・取材紀行
甲府さんぽ、甲府の地魚といえば、マグロ。全国屈指の消費量を誇り、ハレの魚のためレベルの高さがすごい。ちょうちん横丁の「まぐろ家 じん」は、甲州まぐろ家との行燈にあるように、水揚げ地にもない各部位のオリジナルな料理が面白い。マグロブツに合わせたのは、骨酒や兜酒ならぬ「マグロの鎧酒」、その正体と詳細とは?

甲府おさかなてくてくさんぽ2

2017年06月23日 | てくてくさんぽ・取材紀行
甲府さんぽ、駅周辺の市街は路地横丁が多いのが特徴で、東京オリンピックの際に繁華街として形成された所以がある。駅から1分のところの「ちょうちん横丁」は、11店のディープな店が構えており、コンパクトなはしご酒が楽しめるゾーンである。

ターゲットはもちろん、地魚。では行ってみましょうか。

甲府おさかなてくてくさんぽ1

2017年06月23日 | てくてくさんぽ・取材紀行
かつて新宿から普通夜行が走っていた際、18きっぷの旅での早朝着時にお世話になった、上諏訪駅露天風呂。足湯になってから使ったことがなく、列車待ちで「一浴」。源泉なので結構熱く、体も汗ばんでくる。

トレイン&ホームビューはいいが、列車待ちの客に覗かれながら露天風呂入っているようで、少々落ち着かない?