ウマさ特盛り!まぜまぜごはん~おいしい日本 食紀行~

ライター&編集者&散歩の案内人・上村一真(カミムラカズマ)がいざなう、食をテーマに旅をする「食紀行」を綴るブログです。

ローカル魚でとれたてごはん95…大洗 『えんやどっと丸』の、戻りガツオのつくりにサワラの煮つけ

2011年05月22日 | ◆ローカル魚でとれたてごはん

 

 水戸からのバスを下車して大洗港方面へ歩いていくと、大きな真っ赤な太陽が出迎えてくれた。といっても日の出や黄昏ではなく、港に停泊するフェリーの船腹に描かれたイラスト。苫小牧を結ぶフェリー「さんふらわあ」の大きな船体は、首都圏にあり交通や物流の拠点でもあるこの港のシンボルに見える。 

大洗の近海は、沖合を親潮と黒潮がぶつかる海域の南端にあたり、魚種も漁獲量も豊富な漁場である。潮の流れが複雑かつ、プランクトンが豊富な栄養価が高い海域のため、脂がのり身が締まった魚が揚がるのも特徴だ。フェリーが奥にそびえる漁港の岸壁には、小型の漁船がずらり。30トンほどの漁船による沿岸小型底引き網が主流で、シラスやシラウオを狙った船引き網、鹿島灘ハマグリを漁獲する貝桁網、ヒラメやカレイを狙う底引き網や刺し網など、漁獲や漁法は幅広い。

 

 

鹿島灘に面した大洗漁港。外海に面しているため風があると波が荒い

 

漁港に隣接する荷捌き場ではおばちゃんたちが数人、アジをおろす作業を続けていた。アジは旬で脂がのっているとのことで、巻き網ではなくシラス漁の網にかかるという。シラスをとらえる先端の布袋の手前あたりの、目のやや粗い部分にかかるそうで、朝から立ちっぱなしでさばき続けているのよ、と笑っている。

大洗の季節ごとの主な漁獲を挙げると、春先と秋口のシラス、4~6月の鹿島灘ハマグリ、9~10月の戻りガツオ、11~翌2月のアンコウ。特にシラスは3~5月が漁期の春シラス、8~10月に漁獲される秋シラスとも評判が高く、港に隣接する大洗漁協婦人部の食堂「かあちゃんの店」では、これらの時期に生シラス丼を求める客が行列をなす。北関東自動車道が全通してからは、クルマでやってくる群馬や栃木からのお客が増えたとも。

 

 

小アジはフライ用にさばかれる。右はかあちゃんの店で人気の生シラス丼

 

かあちゃんの店は海鮮かき揚げ丼、日替わりの刺身定食も定番メニューで、昼食をいただくつもりで行ってみたが、すでに行列が店をぐるりと囲んでいる。そこで港の東側の大洗マリンタワー方面へと移動。もうひとつの話題の食事処「えんやどっと丸」を訪れた。海外のデザイナーによるモダンな設計の店内は、カウンターを奥に配したスタイリッシュな雰囲気。

デザイナーズレストランといった感じのこの店、インテリアだけでなく、ご当地食材を極力使用しているのも大きな特徴だ。大洗魚市場の入札権を持っており、その日買い付けた魚を日替わりで焼き物、煮魚、刺身で提供している。この日の煮魚は大洗港水揚げのサワラ、刺身のカツオは大洗沖の戻りガツオ。天ぷらは天然のクルマエビほか、野菜や調味料も大洗や茨城県産を使用するこだわりようだ。

 

 

和ダイニングのようなえんやどっと丸の店内。サワラは肉厚でこれだけで満腹に

 

刺身のサンマは旬だけに、脂がビッチリのって舌の上でトロリ。カツオは刺身で、厚みがありもっちりとした食感。旬でとれて間もない鮮度の良さのおかげで、血の匂いや臭みがなく、スッキリクリアな味わいがいい。

常磐沖のカツオは、初ガツオから戻りガツオまで長い期間味わえ、脂ののった初秋の戻りガツオはたたきにせず、刺身で味わうのがおすすめという。また味噌汁のシジミも涸沼産で、エキスが染み出た滋養あふれる汁の香りにむせかえるほど。

そして煮物のサワラは大振りの切り身が分厚く、箸をかけると純白の身がほっくり身離れがいい。口の中でハラリと適度にほぐれ、しっとり瑞々しい。濃い甘さの煮汁にからめると旨みが立ち上がり、煮汁の濃さに負けない存在感。煮汁を多めにからめてご飯にのせてかっこむと、飯が進む進む。サワラはイワシの巻き網に入り、3~4キロから5キロオーバーの大物もとれるとも。

 

この日は大洗磯前神社に近い大洗シーサイドホテルに宿泊、夜も地魚の宴となった。薄造りのヒラメは口に吸い付くようにモチモチと柔らかく、淡麗さもあって優しい味わい。縁側の塩焼きはトロトロの脂がもったりと強い。茨城県のヒラメは晩秋から冬にかけてが旬で、常磐ものの天然ヒラメは築地でも評価が高い。

そして少々季節には早いが、走りのアンコウ鍋も出された。いわゆる「七つ道具」のうち四つほどの部位が入っており、正肉は白身魚の中でも極めて淡白で、コロリとした身がホクホク瑞々しい。骨がついた部位は弾力があり、プチっと勢い良く骨離れがする。アンキモはほんのりオレンジのを口にすると、もったりしたコクがチーズのような味わい。

 

 

 

大洗シーサイドホテルの地魚料理。左上から時計回りに、アンコウ鍋、

ヒラメのハラス焼き、ヒラメの薄造り、戻りガツオのたたき

 

 

大洗の底引き網漁は比較的浅い海域で操業しているため、深海に生息するアンコウの漁獲はそれほど多くないが、シーズンにはアンコウの町としてPRしており、町内にはアンコウ料理を提供する料理屋が数多い。お昼には旬の秋シラスをあいにく食べ損ね、夜のアンコウはやや早かったので、再訪の季節はアンコウの真冬かシラスの春先か、迷うところ?(2010年10月食記)

 

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■大洗の、震災と原発事故の漁業への影響と現状

 

大洗町は2011年3月11日の東日本大震災の際、最大で4メートル20センチが観測された津波に襲われた。人的被害はなかったものの、大洗漁港をはじめとする漁業施設は大きな損害となった。

さらに東京電力福島第一原発の事故の影響で、茨城県沿岸で漁獲された水産物の放射性物質が問題となる。4月4日に北茨城市沖で漁獲されたコウナゴから、1キロあたり4080ベクレルの放射性ヨウ素131が検出。翌5日に県より、沿岸11漁協にコウナゴ漁自粛要請が出された。

これを受けて大洗町では、コウナゴを含むすべての漁を中止した。大洗漁港では3月から4月にかけて、コウナゴにシラスとシラウオ、漁が最盛期を迎える。大洗漁協のサンプル調査では基準値を超える放射性物質は検出されなかったものの、シラスとシラウオもコウナゴと同じ深度で網を引くため、漁が見合わされることになった。

こうした漁業者側の自粛に加え、「茨城の魚は危ない」という風評被害も追い討ちをかける。銚子魚市場で茨城県産の魚がすべて、取扱停止となった件はまだ記憶に新しい。

その後、水産庁や県内各漁協による主要漁獲の捕獲調査で、放射性物質が継続して規制値を下回っていることを受け、5月9日に大洗漁協は2ヶ月ぶりに漁の再開を決定。シラスやシラウオの船引き漁の操業開始により、漁港が賑わいを見せ始めている。