ウマさ特盛り!まぜまぜごはん~おいしい日本 食紀行~

ライター&編集者&散歩の案内人・上村一真(カミムラカズマ)がいざなう、食をテーマに旅をする「食紀行」を綴るブログです。

旅で出会ったローカルごはん116…ヒョニネバーベキューポッサムとロータリーソコプチャン

2009年07月04日 | ◆旅で出会ったローカルごはん

 

 3日間のソウルの食べ歩き旅行で、冷麺やら屋台料理やら水産市場めぐりやら、わずか7食プラスアルファの限られた食事機会において、かなりいろいろな料理を味わうことができた。そんな中でも特に印象に残ったのはやはり、焼肉。肉の種類から料理法にいたるまで、日本のそれとは異なる食習慣と奥行を感じさせる。
 オーソドックスな焼肉は、2日目の昼食に明洞の「福清」で味わったけれど、これ以外に味わった2軒はいわば変化球。それだけに、これぞソウルの焼肉の真髄とばかり、強く印象に残ることとなった。
 
 その1軒目は、ソウル初日の夕食で訪れた、『ヒョニネバーベキューポッサム』という店である。チャングムパークから市街に戻り、中心部の鐘閣駅で下車。黄昏時に、飲食店のきらびやかなネオンがぽつぽつと灯る清進洞をやや入ったところに店はあった。
 店頭では、何やらホイルに巻いて串に刺した塊を、炭火焼にしているのが目をひく。中に入ると、店内はまるで場末のホルモン焼き屋のように狭く、3、4卓しかない小さなテーブル席は、地元のお客ですでに満席。おばちゃんがニコニコと愛想よく指差した先には、えらく急な階段が据えられていて、落下しないように注意して登ったところに、中2階のような座敷が。階下を見下ろせるオープンな席なのはいいが、木造の柵が低く頼りなげで、酔っ払って寄りかかったら落っこちてしまいそうだ。

 

店頭では豚の三枚肉をホイル焼きにしている。右はロフト?から見下ろした店内

 店名にもなっている、店の売りであるバーベキューポッサムを注文、あとはキムチジョン、玉子巻きもお願いして、まずは韓国ビールのCASSで乾杯。するとすぐに大きな鉢入りのワカメスープが運ばれてきた。これはデフォルトでついていて、肉をしっかり食べる前に海草をいっぱいとり、バランスをよくするという仕組み。ワカメスープというよりは、大盛りワカメの汁浸しというぐらいワカメがたっぷりで、これは体によさそうだ。
 続いてたっぷりのキムチに各種薬味、そして皿に大盛りのローストされた肉が運ばれてきた。薬味は唐辛子と玉ねぎ、サムジャンと呼ばれる味噌、エビの塩辛のセムチョの4種で、キムチにはなんと、生ガキがのせられている。これらと一緒に、こんがり焼けた肉をバリバリ食べるとのことで、まずは焼きたて熱々の肉だけでいただきます。

 ひときれ箸でつまむと表面がこんがりとキツネ色、断面の脂は白く、肉はほんのりピンクの、絶妙な熱の通し具合に仕上がっている。 ひとかじりすると、カリッと香ばしい食感の後、ひたひたなぐらいジューシーな肉汁がジュッ。まさに肉のうまみのみが凝縮しており、これはうまい。
 ポッサムとは一般的には、ゆでた豚肉をキムチで巻いて食べる料理である。使っている部位は三枚肉、韓国でいうサムギョプサルで、脂がきつめなためにさっぱりしたキムチと一緒に食べる。その肉をこの店では、ブロックのまま炭火であぶることにより、食べやすい程度に脂を落としてある。肉は下味はつけずにホイルと半紙で巻き、表面をあぶった後に直火で焼いて脂を落とす。この焼き方のおかげで、うまみを封じ込めて逃がさないという訳だ。

 
 

上左がポッサムに使うキムチ。小振りのカキも一緒にいただく。上右が玉子巻き、
下左が玉ねぎ醤油でいただくキムチジョン。鐘閣から入ったところにある

 続いてはポッサムの流儀に倣い、添えられたキムチで肉を巻いて、カキをのせてひと口。ポッサムに使うキムチは、漬け込んであまり味がこなれていないほうがよく、この店でも、料理を出す前に手早く仕上げた、軽めのキムチを用意してある。カキの潮の香りが浅漬けキムチのマイルドな辛味で洗練され、肉にアミノ酸のうまみがプラス。これは日本人好みの味だ。
 カキと同様に、薬味のエビの塩辛はしょっぱさに魚の香りがさらに加わり、より日本人向けの風味。強烈なのが味噌プラス青唐辛子で、ガツンと衝撃的辛味のおかげで汗がブワッと噴出してくる。肉のうまみも、辛味の刺激でより強調されるのがいい。
 カキにタコにキムチが入った、やわやわのお好み焼きといったキムチジョンや、だし巻き卵といった玉子巻きは、刺激が少なくホッとする味。どことなく家庭的な味に感じたのは、店のおばちゃんの愛想よさのおかげかも。 店を後に、まだ慣れない韓国語でお礼を述べると、「アニョンヒガセヨ!」とニコニコ。店頭で振り返ると、おばちゃんの顔のイラスト看板もニコニコ笑っている。

 そしてソウルの変化球焼肉の店もう1軒は、最終日のソウル最後に食べたご飯となった。この日は朝からあいにくの雨で、ホテル向かいのロッテデパートで免税店を巡り、デパ地下で買い忘れのお土産を買い、午前中はなんとなく買い物で過ごした。午後はキッチンパフォーマンスの「NANTA」を鑑賞に行く予定で、その前に早めの昼ご飯を食べておくこととなった。
 名残惜しいソウル最後のご飯も、案内人にお任せして、明洞からタクシーで10分ほどの西大門へ。駅から警察署のそばに広がる飲食店方面へと歩き、『ロータリーソコッチャン』という店へとやってきた。ソは牛、コッチャンはモツのことで、つまりコッチャン(牛ホルモン)焼き専門店である。

 ちょうどランチタイムのため、比較的広い店内は地元のお客で満席で、通された奥寄りのテーブルへ向かう途中、見るとほとんどの客がチゲ鍋を注文。昼食時の、この店の人気の品で、みんな真っ赤に煮える鍋と汗だくで格闘している。席に着くとさっそく、おばちゃんがメニューを片手にテーブルにつき、てきぱきとお勧めの品を説明、オーダーをどうするか仕切ってくれる。
 自分たちもキムチチゲと、お目当てである「モドゥムコッチャン」という、ホルモン3種盛り合わせを注文した。ハツ、ミノ、コプチャン(小腸)に、玉ねぎとニンニクが添えてあり、鉄板で豪快に炒めていただく、この店の人気の品である。

 先に運ばれたキムチチゲは、煮立っているのにテーブルのコンロに置かれ、さらに火にかけられる。ぼこぼこに泡だって煮えたところで、そろそろいいか、と手を出すと、店のおばちゃんが飛んできて「まだ」。たまにやってきては、煮え加減を見てくれるなど、なかなか親切だ。
 ようやくオーケーが出て、おばちゃんによそって出された。キムチは1年以上熟成させた、特製のものを使っており、豆腐にしっかりと辛味がしみている。ほかの具は白菜、厚切りの豚の首肉とシンプルで、見た目は辛そうだが食べてみると辛味よりも、発酵したキムチの酸味のほうが強い。席が鍋に近く、煮えた湯気の唐辛子の刺激のおかげもあり、どんどん汗が出てきてしまう。
 おばちゃんの勧めによると、キムチチゲの仕上げはご飯を入れるのではなく、ラーメンとのこと。それも生麺の中華麺ではなく、なんと袋麺のインスタントラーメンだ。おばちゃんが持ってきた袋めんは、スープの粉がついておらず、キムチチゲの締め専用の麺なのがすごい。食べてみると、いわゆるキムチラーメン的な味で、辛さもあってするする入ってしまう。

 

辛く熱く煮えたぎるキムチチゲ。仕上げはインスタント麺を入れて

 キムチチゲを半分ほどいただいた頃、隣の空いたテーブルのコンロで、丸い鉄板の上で大盛りのホルモンが炒められ始めた。周囲をぐるりと、やや長めの半筒状の肉が囲み、中央に赤っぽい肉、その上に玉ねぎとニンニクがどっさり盛ってある。
 見ると平たいの、厚いの、丸いの、白いの、赤いのと、さまざまな部位があるよう。「くるりと筒状なのがコプチャン(小腸)、やや丸まった厚手のがハツ、柔らかいのがミノ」と、仕上げに各部位をハサミでバチバチ切るおばちゃんに教えられる。

 程よく火が通り、こちらのテーブルへと鉄板が移され、おばちゃんのオーケーも出たのでいざ、いただきます。つけダレは醤油ベースのものと、胡麻油に塩を加えたものの2種があり、胡麻油のを片手にまずはコプチャンから。弾力のある歯ごたえが特徴で、内側にトロリと脂がたっぷりついており、かみしめるとジュッ、とほとばしるほど。脂の甘みと胡麻油の香ばしさとコクがよく合い、なかなかうまい。
 ミノとハツはあまり見分けがつかないが、サクサクと軽やかなのがハツ、ややコリコリするのがミノのよう。こちらはおばちゃんに勧められ、塩だけでいただくと、うまみがより感じられる。ホルモンから出た脂で、玉ねぎとニンニクがいい感じに焼きあがってきたので、添えていただくとガツンと刺激が強烈。個性が強いホルモンの、うまみをより引き出してくれる。
 
 ここも付け合わせがたくさん用意されていて、葉野菜を合えたサラダ、豆もやしの和え物やキムチ、なんとレバ刺しにセンマイが付いている。レバ刺しは鮮やかな紅色できりっと角が立ち、見るからに鮮度がよさそうだ。日本のよりもくせがなく食べやすく、歯ごたえがしゃきしゃきと弾力があり、フルフルと甘みがたっぷり。
 これも胡麻油と塩のつけダレの相性が抜群で、ホルモンとともに、小振りの石釜で出されたご飯と一緒にかっ込むと、パワフルなコリアめしの醍醐味、といった感じである。

 
 

切る前は大振りのモツがいっぱい。レバ刺しとセンマイ刺しは突き出しでつく。
下左は水を足して「おこげ湯」になった石釜ごはん。地元のお客が多い店

 この石釜のごはん、ちょっと面白い食べ方がある。中身をいったん別の器に出し、釜にこびりついたご飯の上からお冷をかけ、ふたをしてやや待つ。石釜の熱でお冷がいい塩梅に温もった頃合でふたをあけると、香ばしいおこげ湯「スンニュン」のでき上がりである。自分のは、おばちゃんが水の量やふたをする時間を指示してくれ、ほかの人よりうまくできたでしょう、と少々自慢げだ。
 スープをすすり、さっきのキムチラーメンもいただき、ご飯はホルモンやニンニクをのせ、レバ刺しも一緒にかっこみ、さらに付け合あわせのキムチやコチュジャン、ジャコものせてかっこみ。添えて食べたいものがあまりに多いため、石釜のご飯をすっかり平らげてしまった。

 昨晩いただいたプロカンジャンケジャンは、あの店のカンジャンケジャンを食べるためにソウルへやってくるお客がいるそうだが、このモドゥムコッチャンを食べるためにもういちどソウルへ来たい。それぐらいのインパクトだった。
 さまざまな韓国ローカルごはんを、ひたすら食べ歩いた3日間も、これにて無事に終了。19時30分の羽田行きの金浦空港発の便に乗るため、早めの夕食は空港ターミナルでになりそうだ。財布の中のウォンは、空港までのタクシー代を払えば割といい具合に使い切れそうだ。残った小銭で、フードコートで名残のCASSビール、肴は韓国風海苔巻きの「キンパプ」でちょうどかも?(2009年5月12日食記)