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敬愛する友人近江正人さん、「野の文化賞」受賞!

2017-01-18 09:45:54 | アート・文化

 近江正人さんの詩集『北の種子群』が「野の文化賞」を受賞した。県内の詩の賞にどんなものがあるか知らないが、この賞の重さは十分に理解している。北国に生きる者の意気や志しを降り積もった雪の静謐、緊迫感と広がる青空の伸びやかさを背に、鋭くおおらかに歌い上げた詩人真壁仁を記念する賞だ。これまでの受賞者、民俗学者の武田正、詩人の木村廸夫、星寛治、齋藤たきち、民話研究家烏兎沼宏之、彫刻家鈴木実、東北学の赤坂憲雄、置賜方言研究の菊地直、長井レインボープランの生みの親菅野芳秀、演劇界からは大原蛍・・・ざっと見るだけで、山形の文化の最先端を網羅する錚々たる名前が続く。この素晴らしい賞を近江正人さんが受賞した。

 近江さんとしてはこの詩集は7番目のものだそうだ。学生時代から詩作に打ち込んでこられた。僕とは演劇を通してお付き合いいただいている。以前は高校演劇の先輩として大いに勉強させてもらった。新庄からわざわざ3時間の道のりを厭わず菜の花座の舞台をも見に来ていただき、毎回書き送ってくださる暖かくも鋭い批評が団員のやる気を大いに引き出してくれている。

 受賞作『北の種子群』は過去6年間にわたって詩誌等に書いてこられた作品をまとめたものだ。様々なテーマがそれぞれに工夫された表現で仕上げられている。近江さんの暗く辛かった幼時の思い出から、今の時代に鋭敏に突き刺さる秘めたる闘争宣言にいたるまでどの作品も心と頭に響く言葉の世界を提示してくれている。詩人ならではの感性が拓く世界、例えばこうだ。

  ・・・

  花は「咲く」のではなく「裂く」のだ 

  閉じてきた古い心身を裂き 

  真新しい虚空に香ばしく生まれ変わる

  そのとき花たちはみな かすかに悲鳴を上げる

  生きて産まれることは つらく 痛い

  ・・・・

  (「北の種子群」より)

  ・・・

  いのちとは

  息をする血のことだという

  息の血が 命 になった

  産まれて初めて 息を吸いこみ

  最後に

  大きく吐き出して 息絶える

  借りたものを返すように

  人生 けっこう生々しくて

  息苦しくて せつなくて

  ため息 息切れ 虫の息

  息せき切って 青色吐息 

  寝息 鼻息 息張って

  息を殺して 息を呑み

  肩で息して 息詰まる

  ・・・・

  (「息ものたち」より)

 ・・・

  だからぼくの目と足は 雪と緑と朝靄でできた

  小さな国モガーミの 凹んだ大地の底に在る

  この国の憲法は 唯一 人と争わないこと

  厳冬のあとの春陽と命の再生を信じること

  信じて みんなと哀しみ歓びを共にすること

  ・・・・

  (「盆地国モガーミから」より)

 どれも一部の抜き書きで近江さんからすれば片腹痛いところだろう。この引用から少しでも感じるものがあったなら、ぜひ直に本書を開いてみてほしい。

 近江正人という人間を晒しきったこの詩集。ここから読み取れるのは、北の大地に生き、そこに自らの着地点を定めて、混迷する時代を撃っていこうという静かだが揺るぎない意志だ。3番目の引用にそれが強く読み取れる。そして、凛と立つ誠実な姿勢とその眼差しの温かさ。これが近江正人さんなのだと思う。

 地域の偉人松田甚次郎を題材にした舞台『土に叫ぶ人』は、新庄市民上げての盛り上がりで迎えられ、斎藤茂吉賞、山形県芸術文化祭大賞を受賞した。近江さんの作・演出の作品だ。地域をこよなく愛し、自分のよって立つ足元を広く深く耕しつつ思索を続ける近江さん。掘り下げたその先に、きっと日本に、世界に達する智慧の煌めきが生まれ出ることだろう。

  

コメント
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