「概要」
七つの会議を舞台にしたドラマ、ミステリー仕立てのビジネス現代小説。
「BOOK」データベースより
トップセールスマンだったエリート課長・坂戸を"パワハラ"で社内委員会に訴えたのは、年上の万年係長・八角だった。
いったい、坂戸と八角の間に何があったのか? パワハラ委員会の裁定、そして、役員会が下した不可解な人事。急転する事態収束のため、役員会が指名したのは、万年二番手に甘んじてきた男・原島であった。
どこでもありそうな中堅メーカー・東京建電とその取引先を舞台に繰り広げられる生きるための戦い。だが、そこには誰も知らない秘密があった。筋書きのない会議(ドラマ)が今、始まる。
"働くこと"の意味に迫る「クライム・ノベル」(主人公が何らかの理由で自ら進んで犯す犯罪小説)。
「登場人物」
◎東京建電
宮野和弘: 製造畑を歩いたプロパー社員で、初めて社長に上り詰めた。
村西京助: 親会社ソニックから出向した副社長。
ソニックに残った梨田常務と同期で、二人でトップを歩いていた。
北川 誠: 営業部長。すべては会社のためと汚い営業も辞さず、甘えたサラリーマン根性
の部下は完膚なきまで叩き潰してきたモーレツ管理者。
坂戸宣彦: 営業第一課長。 原島課長の7歳年下の最年少課長で、営業部のエース。
パラハラ委員会にかけられ、人事部付となる。
原島万二: 40歳半ばの課長になった今までの人生で、いつも名前のとおりの万年二番手。
八角民夫: 北川部長と同期だが万年係長。北川の弱みを握っていると言われている。
会議では居眠りし、営業部の主であるかのように偉そうに振る舞うところもある。
浜本優衣: 古参の営業課員。経理の新田に騙され、寿退社と偽り退職する。
退職前に会社のコーナーに無人ドーナツ販売コーナーを設ける。
佐野健一郎: 社内政治に奔走した挙句、営業部次長からカスタマー室長に左遷させられる。
飯山孝実: 経理部長。最後に子会社の社長となる。
加茂田久司: 経理課長。
新田雄介: 経理課長代理。家庭にも会社にも不満を持ち、閉塞感の中で
「いつも悪いのは相手のほう」と怒りを募らせせていく。
浜本優衣と不倫し、大阪の営業担当に左遷させられる。
稲葉 要: 製造部長。北川部長とライバル的立場にある。
◎ソニック
梨田元就: 常務取締役。過去の不正が明白になり、子会社に出向となる。
「あらすじ」
心に残るポイントのフレーズに『』を付けた。「七つの会議」には太字に下線を引いた。
(第一章 居眠り八角)
大手総合電機ソニックの子会社東京建電では、毎週木曜の営業部定例会議で北川部長は目標未達の各課の業績を追及する。
北川にとって、目標とは絶対に守らなければならない"掟"である。目標未達の課に次は頑張れと言った優しい思考回路は持ち合わせなく、衆人環視の中で徹底的に叱責し追い込みぎりぎりと締め上げていく。時代遅れのモーレツ管理職だと陰口をたたかれている。
白もの(家電製品)を扱う営業二課の原島課長が振るわない実績を責められる一方、ホールセール(卸売)担当の営業一課の坂戸課長は自信に満ちた表情で成果を発表する。
しかし、坂戸にも思うに任せない部下がいた。万年係長の八角である。一旦、出世の街道から反れて脇道に入ってしまえば怖いものはないとばかり、北川が主催する会議の席上でも北川の弱みを握っているのか、八角は堂々と眠るときもあるが、営業部の主であるかのように他の課のことでも口を出すほどで、頭はよく口も達者である。 坂戸は時々八角の執務態度を叱責するが、平気で反論するし、罪悪感はゼロであるので、坂戸も少しは諦めていた。
それに反して、坂戸はとにかく馬車馬のごとく働くことで知られた努力家であった。
その坂戸が、ある一件から、気に入らなければ八角を呼びつけ叱るようになった。言葉使いも以前のように年上だからと遠慮したものでなく、完全に目下の部下に対するものに変った。年度末になり職場は戦場のような忙しさになり、坂戸が八角を怒鳴っている回数も多くなった。
そんなある日、八角が坂戸をパラハラで訴えた。周囲は坂戸に同情的だったが、パラハラ委員会の裁定は黒で、実際に処分を決める役員会でも同じ裁定で、人事部付に異動された。
北川から原島に坂戸の後任として一課をやってくれと内示が出た。その場で、あれほど坂戸の業績を褒めていたのに、北川は坂戸を庇わないし、坂戸に対する慰めの言葉も聞けず、原島は北川に不信感を抱いた。
歓送迎会の二次会で、原島は課長代理から人事案は北川が出したと聞き、信じられないと思った。そこへ坂戸が遅れて来た。坂戸は退職を考えていると言うので、原島は、身の振り方は君が決めることだが、君が会社にとって必要な人材であることに変わりないと励ました。
新課長に就任した原島は、部下一人一人と1時間余り面談した。
15名の部下の最後を八角にして、彼の身上書の経歴に視線を落とした。同期入社ではトップで係長に昇格していた。何故か、昇格してからの評価は惨憺たるもので、最初の課長の八角評は辛辣を極めた。その課長は、親会社ソニックの常務取締役の梨田である。
梨田は、今後の成長分野として期待している住宅設備関連のテコ入れにハッパをかけられてソニックからおくられてきた。
梨田の売り方はモラルもへったくれもなく、ごり押しし、高齢者をターゲットにして強引な訪問販売を仕掛けた。八角もそれに従ったが、ある時、無理矢理に購入させられた人から自殺者を出した。そのため、八角は販売方針に反論した。その結果、八角はダメ係長の烙印を押され、仕事から外された。
組織に理不尽な一面を見た原島は、八角に会社を辞めようとは思わなかったのかと聞いた。
八角は『期待しなけりゃ、自分が裏切られたと憎んだり悔しく思うことはないと気付いた。それからは、辛く苦しかった会社が気楽なものに見えて来た。』と言った。
原島が、坂戸のパラハラを訴えた理由を聞くと、とにかく許すわけにはいかなかったのだ、知らないうちが華だと言う。 原島は上司として会社での出来事を聞く権利があると、言いたくない八角から無理に聞くと、少しずつ語り始めた。
その内容は、「会社と言う組織の醜悪な舞台裏に他ならなかった」(具体的な事象は第六章に後述)。
その舞台裏を支えるのは、誰でもない自分である。『精一杯頑張れば、何とかなるさ、お前の人生を切り開くのは、お前自身だ』、亡くなった父が晩年言っていた言葉が脳裏によみがえった。
2/4に続く