スピノザの『エチカ』と趣味のブログ

スピノザの『エチカ』について僕が考えていることと,趣味である将棋・競馬・競輪などについて綴るブログです。

チルンハウスの誤解④&第三部諸感情の定義一四

2019-02-05 18:58:46 | 哲学
 誤解③で示したように,僕はチルンハウスEhrenfried Walther von Tschirnhausがスピノザの哲学でいう共通点という語の特殊な意味を誤解していたとは考えにくいと思っています。しかし,チルンハウスが何も誤解をしていなかったということはそれ以上にあり得ません。というより,何らかの誤解があったのは確実であると考えなければならないでしょう。そうでなければ誤解①で示したⅠの部分には誤りがあるという誤解②の僕の説明が成立しなくなってしまうからです。この僕の説明は正しい筈ですから,共通点について誤解したというのでなければ何かほかに誤解があったといわなければならず,それを特定する責任が僕にはあることになります。
                                     
 僕の考えでいえば,チルンハウスはおそらく無限知性intellectus infinitusについて誤解を犯していたのです。チルンハウスは神Deusの知性,すなわち無限知性と人間の知性には共通点はないといっていたのでした。そしてたぶん,共通点がないものは実在的に区別されなければならないということをチルンハウスは理解していたと僕は想定します。共通点について誤解していなかったということは,このことも意味しなければならないからです。してみるとチルンハウスは,無限知性すなわち神の知性と人間の知性との間の区別distinguereは,実在的区別であると解していたことになるでしょう。
 実際にはこの区別は様態的区別です。なぜなら神の知性も人間の知性も同じように思惟の様態cogitandi modiですから,それらは実在的には区別され得ず,様態的にのみ区別することが可能であるからです。このとき,僕はチルンハウスは,人間の知性は思惟の様態であるということは認めていましたが,神の知性が思惟の様態であるということは認めていなかったと考えるのです。そしておそらくチルンハウスは,神の知性は思惟の様態ではなく,思惟の属性Cogitationis attributumそのものであると解していたと考えるのです。
 思惟の属性と思惟の様態の区別は実在的区別であるという考え方は,スピノザの哲学の中でも否定することはできません。

 このときに母が僕に対して言ったことは,一般論としていうなら暴論であったと思います。この話の契機となった自殺をしてしまうのは論外でしょうが,止むを得ない事情で親より先に死んでしまう子どもというのはいくらでもいるであろうからです。ただ母が,最大の親不孝は親より先に死んでしまうことであると思っているということは小学生の僕にも理解できました。そしてこのことはこれ以降,ずっと僕の胸に焼き付いていたのです。もちろんこれは僕にだけ強く印象に残ったのであって,もしかしたら母はこのようなことを僕に言ったことを忘れてしまっていたかもしれません。
 僕は社会的成功という観点からは早期の段階でドロップアウトしました。ですから会社で出世をするとか,社会的な名誉を獲得する,あるいは大金を稼ぐといったことは一切ありませんでした。結婚することもありませんでしたし,孫の顔を見せることもありませんでした。社会一般からみれば僕は実に親不孝な子どもであったことになるでしょう。けれどもこうして妹と一緒に母を見送ることができて,母が思うところの最大の親不孝者にはならなくすんだという気持ちにはなることができました。僕もⅠ型糖尿病で,おそらく平均寿命ほどには長く生きることはできないと思います。それがいつになるのかは分からないにしても,とりあえず母を見送ることができたのは,僕にとってもそうですし,たぶん母にとってもよかったのだろうと思うのです。
 このような僕の気持ちは,『エチカ』では安堵securitasといわれ,第三部諸感情の定義一四に示されています。
 「安堵とは疑いの原因が除去された未来あるいは過去の物の観念から生ずる喜びである」。
 スピノザはこの感情affectusはある事物の出現に対する疑念dubitatioが晴れることによって,希望spesから生じる喜びlaetitiaであるといっています。ですが僕の考えではこの説明は不十分です。というのも希望と不安metusは表裏一体の感情だとスピノザはみているのですから,希望から生じるというのは不安から生じるというのと同じだからです。したがって,希望が実現する喜びが安堵であるように,不安が解消される喜びもまた安堵だというのが適切でしょう。
コメント
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