スピノザの『エチカ』と趣味のブログ

スピノザの『エチカ』について僕が考えていることと,趣味である将棋・競馬・競輪などについて綴るブログです。

第二部定理七備考&現在の悲しみ

2019-02-09 19:14:57 | 哲学
 僕が立てたい問題に見合うような形でチルンハウスEhrenfried Walther von Tschirnhausとスピノザのやり取りを再構成した部分までは,スピノザは肯定します。チルンハウスは否定する部分もあるのですが,それはチルンハウスが問題にしたかった部分そのものと関係するのであり,僕が示した論理構成そのものには納得する筈です。スピノザとチルンハウスの分岐点はこの先にあります。
                                      
 第二部定理七でスピノザは,観念ideaと観念されたものideatumは秩序ordoと連結connexioが同一であるといっています。このことは一般的に妥当しなければなりません。すなわち,すでにみたように,神Deusの無限知性intellectus infinitusのうちには,僕たちには認識するcognoscereことができない観念があるということをスピノザは認めなければならないのですが,その観念についてもこの定理Propositioは妥当しなければならないのです。このことはスピノザがこの定理の論証Demonstratioを第一部公理四にのみ委ねているということから明白でなければなりません。この公理Axiomaこそ,第一部定義六に示される無限に多くの属性infinitis attributisのすべてにおいて成立しなければならない筈だからです。
 実際にスピノザはこれを認めています。第二部定理七備考では次のようにいっているからです。
 「我々が自然を延長の属性のもとで考えようと,あるいは思惟の属性のもとで考えようと,あるいは他の何らかの属性のもとで考えようと,我々は同一の秩序を,すなわち諸原因の同一の連結を,言いかえれば同一物の相互的継起を,見いだすであろう」。
 つまりスピノザは,思惟の属性Cogitationis attributumの下での原因causaと結果effectusの連結と秩序は,延長の属性Extensionis attributumの下での原因と結果の連結と秩序に同一であるということだけを認めているわけではなく,それ以外の属性の下でも原因と結果の連結と秩序は同一であるということを認めています。チルンハウスはしかし,スピノザがそこでいいたかったことを,さらに広げて解釈するのです。ただし,僕はチルンハウスの解釈にも妥当性があるということは認めます。

 たとえそれが悲しい出来事であったとしても,そこに何らかの喜びlaetitiaを発見するようにすることは,そのこと自体と別に,さらに人生にとって有益な事柄を生じさせる契機となり得ます。過去に生じた悲しみtristitiaを現在の喜びに結び付けることを習性としていくと,今度は現在の悲しみを未来の喜びに結び付けることができるようになってくるからです。
 たとえばとても寒くて冷たい雨が降る日に,バスに乗ってスーパーに買い物に出掛けたとします。必要なものを籠に入れレジに並びました。するとレジで並んでいた前の客が支払いに手間取り,とても時間を要してしまいました。ようやく自分の順番になったので自分の支払いを終え,買ったものを詰めて帰りのバス停に行くと,すぐにバスが来て乗車することができました。
 ここにはひとつの悲しみとひとつの喜びがあります。というか,人が悲しみを感じ得る要因と喜びを感じ得る要因がひとつずつあります。悲しみの要因は不必要にレジで待たなければならなかったことであり,喜びの要因は停留所に着いたらすぐにバスが来たことです。しかるにこのふたつは結び付けることができます。すなわち,もし前の人がスムーズに支払いを終えていれば,バス停に到着するのはもっと早くになったでしょうから,そこでバスを待たなければならなかった筈だからです。すると,仮定によればこの日はとても寒くて冷たい雨が降っていたのですから,その待ち時間はとても辛いものになったでしょう。スーパーの中は暖房が効いて暖かいですから,レジで並んでいる方がずっとよかったことになります。よってこれは全体を通すと,前の人が支払いに時間をかけてくれたので,暖かい場所に長くいることができ,寒い場所でバスを長く待たずに済んだということになるのです。これで悲しみを感じる要因は喜びを感じる要因に結び付けられ,かつその原因causaとして認識されることになりますから,実質的に悲しみの要因は消滅しているといえるでしょう。
 これは過去の悲しみを現在の喜びと関連付けている例です。ですがスーパーに買い物に行くのが日常なら,今度は現在の悲しみを未来の喜びに関連付けられるかもしれません。
コメント
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