漂着の浜辺から

囁きのような呟き。

サイクロンの渦を抜けて・・・7

2010年08月25日 | W.H.ホジスンと異界としての海
 「おれの言うことを心に刻んでおけ」とついに彼は重々しい口調で言いました。「十二時間以内にあいつはおれたちを飲み込むぞ!」
 彼は私に向かって首を振りました。それから付け加えました――
 「十二時間以内に、なあ坊やよ、お前もおれも、それからこの船に詰め込まれている他のみんなの魂も、冷たい場所に落ちてるかもしれんな!」そして荒々しく眼下の海を指さすと、私の方を見て悪戯っぽくニヤッと笑いました。
 我々の見張りの時間は夜の八時から十二時まででした。けれども、ひっきりなしに吹きすさむ激しい風を除けば、見張りの間には特に注意すべきことはありませんでした。風はまさに生きの良い疾風といった感じで、我々の誰もが望んでいたように、船はトップスルとフォアスルによって、極めて順調に進んでいました。
 午前零時に私は仮眠を取りに下に降りました。四時になって目覚めた時、私は事態が一変していることに気づきました。空は曇っており、海は訳の分からない状態で、盛り上がってきてはいましたが、風はほとんどありません。しかし最も私の目をひいたもの、そして前日の航海士の警告がもたらした不安感に引き戻したものは、その空の色でした。空は見渡す限り一面、むせかえるような陰気なオレンジの色彩に輝いていて、あちらこちらに赤い筋が入っていました。この輝きはとても強烈で、波が光を超自然的な方法で捕らえ、反射し、不器用に積み重ねたかのようで、その輝きと陰気なきらめきは、動く巨大な液体状の炎の山のようでした。目の前の光景のすべては、目を剥くような、異様な壮観さを持っていました。
 私は自分のカメラを手に、船尾桜へと上ってゆきました。そこで私は航海士と出会いました。
 「そのうちそんな小さな箱なんて、欲しいとは思わなくなる」と彼は言って、私のカメラをコツコツと叩きました。「棺桶の方が、ずっと役に立つって思うようになるぜ」
 「それじゃ、いよいよ?」私は言いました。
 「見なよ!」」と彼は答えて、北東を指さしました。
 私はさっと彼の指さした方向を見ました。そこには巨大な黒い雲の壁が、北から東まで、水平線を七度ほどに渡って覆い、天頂に向かって十五度ほどの高さに聳えていました。その巨大な黒い雲塊は気が遠くなるほど圧倒的でした。実際、それは厚い水蒸気の塊というよりは、海上に聳え立つ巨大な黒い崖の連なりのように見えました。