ツァーヴェは体を捻り、ベッドから這い出た。靴を履いて立ち上がったが、体が頼りない感じで、足元がやや覚束なかった。足が縺れないように気をつけながら歩き、ぐるりと視線を這わせた。明るい部屋の中には、母の姿はない。母のベッドは空だった。きっと隣にいるのだろうとツァーヴェは思った。それで部屋を横切って、隣に通じるドアを開いた。
果たして母はそこにいた。居間のテーブルに突っ伏して、少し引きつったような奇妙な寝息を立てていた。テーブルの上には、ウォトカの壜とグラスがある。明らかに母は、ウォトカを飲みながら眠ってしまったのだ。ツァーヴェは母に声を掛けようとして、思い留まった。代わりに部屋を横切ってペチカへ向かった。部屋が少し冷えていて、肌寒く感じたのだ。ツァーヴェはペチカの小さな扉を開いて中を見た。火は完全に消えていた。ツァーヴェは中に薪を数本入れて、火を起こした。そしてまた扉を閉めた。
そうしているうちに、母が目を覚ました。「ツァーヴェ?」と母が言った。
「うん」母に背中を向けたまま、ツァーヴェは答えた。「おはよう」
「おはよう。……ああ、すっかり眠ってしまっていたのね。ちょっと寒いわね。ああ、火を入れてくれたのね。ありがとう。今、何時なのかしら」
時計を見ると、午前十時だった。明るい日とはいえ、冬には違いないから、どこか窓の外は白っぽくて、光の加減だけでは時間は分かり辛かった。そうツァーヴェが言うと、母は頷いた。
「そうね。もうそんな時間。でも、ここでじっとしているなら時間なんて関係ないようなものね。……ところで、ツァーヴェ、もう大丈夫なの?」
「大丈夫」ツァーヴェは言った。「もうぜんぜん平気。ちょっとふらふらするけど、ずっと寝てたからするだけ。でも、すごくお腹が空いてるよ。空きすぎて、気持ちが悪いくらい」
「そう。それはよかったわ。もうすっかりと元どおりね。でも、そんなにお腹が空いたんじゃ、可愛そうね。何か作ってあげるわね」
そう言って、母は立ち上がろうとしたが、上手く体を起こすことが出来ないようだった。最初ツァーヴェは、まだ母にウォトカの酔いが残っているのかと思ったが、どうもそうではないようだった。それで急いで母の傍らに行き、体を支えようとして驚いた。母の体が熱かった。そう思ってよく見ると、母の顔は赤く、視線もどこか焦点が合っていないようで、それらは明らかに発熱の影響だった。ツアーヴェの病が、母に伝染したに違いなかった。
「酷い熱だよ」ツァーヴェは母の額に手を当てて言った。「どうしよう」
「ちょっと風邪をひいちゃったみたいね。……でも大丈夫よ。お母さんは大人だから、すぐに直るわ……」
「寝てなきゃ」
「そうね……ベッドに行った方がよさそうね。……ツァーヴェ、ごはんは?」
「大丈夫だよ。それくらい自分で出来るよ。お母さんは早く寝てて」
「そう。ごめんね」
オルガはそう言って何とか立ち上がった。体が酷く重かった。目も霞んで、回っていた。そうした様子のオルガを見て、ツァーヴェは肩を貸した。そしてゆっくりと隣の部屋の母のベッドに向かい、母を何とか横たえた。
果たして母はそこにいた。居間のテーブルに突っ伏して、少し引きつったような奇妙な寝息を立てていた。テーブルの上には、ウォトカの壜とグラスがある。明らかに母は、ウォトカを飲みながら眠ってしまったのだ。ツァーヴェは母に声を掛けようとして、思い留まった。代わりに部屋を横切ってペチカへ向かった。部屋が少し冷えていて、肌寒く感じたのだ。ツァーヴェはペチカの小さな扉を開いて中を見た。火は完全に消えていた。ツァーヴェは中に薪を数本入れて、火を起こした。そしてまた扉を閉めた。
そうしているうちに、母が目を覚ました。「ツァーヴェ?」と母が言った。
「うん」母に背中を向けたまま、ツァーヴェは答えた。「おはよう」
「おはよう。……ああ、すっかり眠ってしまっていたのね。ちょっと寒いわね。ああ、火を入れてくれたのね。ありがとう。今、何時なのかしら」
時計を見ると、午前十時だった。明るい日とはいえ、冬には違いないから、どこか窓の外は白っぽくて、光の加減だけでは時間は分かり辛かった。そうツァーヴェが言うと、母は頷いた。
「そうね。もうそんな時間。でも、ここでじっとしているなら時間なんて関係ないようなものね。……ところで、ツァーヴェ、もう大丈夫なの?」
「大丈夫」ツァーヴェは言った。「もうぜんぜん平気。ちょっとふらふらするけど、ずっと寝てたからするだけ。でも、すごくお腹が空いてるよ。空きすぎて、気持ちが悪いくらい」
「そう。それはよかったわ。もうすっかりと元どおりね。でも、そんなにお腹が空いたんじゃ、可愛そうね。何か作ってあげるわね」
そう言って、母は立ち上がろうとしたが、上手く体を起こすことが出来ないようだった。最初ツァーヴェは、まだ母にウォトカの酔いが残っているのかと思ったが、どうもそうではないようだった。それで急いで母の傍らに行き、体を支えようとして驚いた。母の体が熱かった。そう思ってよく見ると、母の顔は赤く、視線もどこか焦点が合っていないようで、それらは明らかに発熱の影響だった。ツアーヴェの病が、母に伝染したに違いなかった。
「酷い熱だよ」ツァーヴェは母の額に手を当てて言った。「どうしよう」
「ちょっと風邪をひいちゃったみたいね。……でも大丈夫よ。お母さんは大人だから、すぐに直るわ……」
「寝てなきゃ」
「そうね……ベッドに行った方がよさそうね。……ツァーヴェ、ごはんは?」
「大丈夫だよ。それくらい自分で出来るよ。お母さんは早く寝てて」
「そう。ごめんね」
オルガはそう言って何とか立ち上がった。体が酷く重かった。目も霞んで、回っていた。そうした様子のオルガを見て、ツァーヴェは肩を貸した。そしてゆっくりと隣の部屋の母のベッドに向かい、母を何とか横たえた。
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