漂着の浜辺から

囁きのような呟き。

ミスター・ガラハーのオデュッセイア

2005年05月18日 | 読書録
<本当に怖い小説のアンソロジー:8>

ミスター・ガラハーのオデュッセイア
 ~ガラハー氏、家へ帰る~
 「新カンタベリー物語」より
 ジャン・レイ著

 翻訳でしか読んだ事がない(翻訳でしか読めない)から、迂闊なことは言えないが、ジャン・レイの小説の文体は、異様な迫力がある。不親切だとさえ思えるほどそっけないのだが、魅力的なのだ。だから、普通の作家が書いたとしたらつまらないものにしかならないだろうと思える作品が、かえって忘れ難い印象を残すことがある。
 ここに取り上げた作品は、連作短編集「新カンタベリー物語」の中の一遍。残酷な、掌編である。
 僕は、基本的にスプラッタな怪奇ものは好きではないのだが、あえてこの傑作揃いの短編集の中からわざわざこの作品を選んだのかといえば、理不尽な悪夢を書いて秀逸だからだ。この作品は、ジャン・レイの筆致でなければ生きてこない。
 ただ、この短編集で特筆すべき短編を選ぶなら、一人の男が宇宙になるという掌編「船乗りが語る・・・バラ色の恐怖」や、「狂人の物語~ユユー~」あたりになるかもしれない。