漂着の浜辺から

囁きのような呟き。

街角の神秘と憂鬱

2005年05月17日 | 近景から遠景へ
近景から遠景へ:4

昼下がりの、微睡みの街のことを想う。
すぐ側にあるようで、辿り着けない街。
しばらく考えていて、ふと思い出すのは、デ・キリコの一枚の絵。
「街角の神秘と憂鬱」
というタイトルがついていた。
輪っかを回して走る、少女のシルエットが印象的な絵だ。
あれは、それに近いかもしれない。

キリコの、その絵を初めて見たのは、小学校の美術の教科書だった。
最初から、強烈に印象に残った。
デジャヴというのだろうか。キリコの絵には、普遍的な概視感がある。
この絵の風景は、自分とどこかで繋がっている。だからこの絵に描かれていない「遠景」を、僕は知っている。そう思った。

怖るべき子供たち

2005年05月17日 | 読書録
美しい小説:8

「怖るべき子供たち」
ジャン・コクトー著
東郷青児訳 角川文庫

この小説を読んだのは、高校の一年生の時だった。
開校二年目の図書室の、スカスカの本棚に並んでいたこの薄っぺらい本を手に取った時のことを、今でも思い出す。
この本を借りたのは、単純に、薄くてすぐに読み終えることが出来そうだったからだ。
だから、コクトーという人物のことは全く知らなかったし、期待もしていなかった。
文学作品をちょっと読んでみようという、ほんの気まぐれでしかなかった。

この本を読まなければ、僕の読書の嗜好は随分違ったものになったかもしれない。
フランスの世紀末文学や、幻想文学を好んで読むということはなかったかもしれない。
小説の中には、楽しい小説以外に、美しい小説があると知ったのも、この「怖るべき子供たち」でである。
ところで、この小説には様々な邦訳があるが、僕にとって最上のものは、角川文庫の東郷青児版である。意訳のような部分が多々あるようだが、この翻訳が多分最もこの小説の精神を正しく伝えているのではないかと思う。