ということで、世界ライト級タイトルマッチ、生中継を見終えました。
細かいとこまで書いておこう、と思う試合内容と判定でした。まずは経過から。
リングに上がった時点で、テオフィモ・ロペスはうっすらと汗をかいている。
ワシル・ロマチェンコは涼しげな様子。
初回、ロペスがスタートダッシュをかけるのかと思ったが、速い左から入り、しっかり構え、じりじりと圧す。
対するロマチェンコ、偵察か観察か情報収集か、何しろホントに手を出さない。
ロペスは「荒し」「乱し」の手で、強打狙いに出る、という想像とは違う立ち上がり。
ロマチェンコが見ていると同時に、ロペスの方もロマチェンコをしっかりと見ている。意外な感じ。
この回ロペス。というか、ロマチェンコにはつけようがない回。
2回、ロマチェンコ左ショートのダブル。速いスリーパンチ。
ヒットの場面が二度あり、それ以外は丁寧に芯を外している。ロマチェンコ。
3回、ロペスの左フック、ボディブロー2発。浅いがヒットもあるように。右アッパーから左フック返しも出る。
ロマチェンコ、右フックリードから入ってヒットも。微妙だがロペスに振る。
4回、ロマチェンコの右リード、ヒットも数があまりに少ない。
ロペス、無理に出ず、左リードの速さで脅かす。ヒットがあるにせよ浅いのが僅かに、というところ。
これまた微妙だがロペス。
5回、ロペス右ロングで脅かし、ボディへ連打を送る。ロマチェンコ、ジャブとワンツー浅い。
ロペスのボディブローの力感と、主導権を握っている点を見て、ロペス。
6回、ロペスの左フックにロマチェンコ左リターン、速いが軽い。
ロペス、右アッパーから右ショート狙う。ロマチェンコ右ジャブ。攻勢をとってややロペスか。
7回、ロペスの右がロマチェンコのガードを巻いてヒット。
相殺に来るロマチェンコを、カウンターの右アッパーでも脅かす。
ロマチェンコ右フック、ボディをリターンするが、ヒット、攻勢でロペス。
8回、前の回をクリアに取られたという認識か、ロマチェンコが出始める。
左ヒットに続いてアタマも当てる。この辺、らしくもなく不細工。
両者パンチの交換になり、ロマチェンコ左ダブル、揉み合いになっても左を打ち続ける。
ロペスのワンツー、右アッパー鋭いがロマチェンコ外し、連打で攻勢。クリアにロマチェンコの回。
9回、ロマチェンコ右ボディに対し、ロペスの右アッパー。
ロマチェンコ出て、コンパクトな左右連打。ロマチェンコ。
10回、少しアタマが気になるが、ロマチェンコ出て、右フックでリード、ワンツーも。
ロペス右ストレート鋭いが、ロマチェンコは出ている割りには食わない。流石。
ラスト30、両者打ち合い。ロペスの右がローブローに。ロマチェンコ。
11回、ロマチェンコ、ショートの連打。返しの右フック振り下ろし、ボディも好打。
お得意の「終盤、忘れた頃にボディ打ち」が出る。
しかしロペスもボディにヒットを返し、ロマチェンコの追撃を食い止める。全体はロマチェンコ。
12回、ロマチェンコは逃げ切りという余裕はなく、最後も「抑え」にかかる風。
右フックリードで入り、ボディ攻撃、左ストレート。「詰めた」攻防共に巧さがある。
しかしロペス、際どいタイミングも怖れず、上下の連打。やっと「らしい」ところが見えた後、右ボディ。
ロマチェンコまた食い止められ、少し足が伸び加減に。
ロペス、詰めた距離で脅かす。最後右瞼カット。ロマチェンコの回。
ということで、さうぽん採点は114-114のドロー。
前半、微妙な回を全部ロペスにしたことも含め、ちょっとロペスに甘いかな、と思いつつ、判定を聞いたら、119とか、117とかいう数字。
この内容でロマチェンコの大差勝ちになるのか、今の採点はそういうものなのだなあ、自分の見方はもう古いのか...と思ったら、逆でした。
これはこれで驚きでしたが。
鮮明な映像を様々なアングルで見るのと、リングサイドから見上げるジャッジの採点が一致しないというのは、競った試合では当然、あることです。
仮に一方が、3分間で一発だけリードパンチを当て、相手のパンチを二十発外したとて、それが必ずしもポイントになるとは限らない。
有効打か攻勢か、となると、ルール上は有効打を採る、それはそうなんですが、ロマチェンコの軽いヒットより、ロペスが放つ力感あるボディブローが「かすめた」方を採る、という見方もあり得るでしょう。
また、その場合、攻勢はロペスの方が取っている場合が多かったはずです。
そういう細かいところの積み重ねが、このような「結果」に結びついた。
そして、その結果は、究極技巧を謳われる王者に対し、派手なことも無理なこともせず、バランスを乱さずに対峙し続けた、テオフィモ・ロペスの持つ「確かさ」故に、出たものでした。
もっと打っていきたい、という場面もきっとあったはずですが、しっかり構えて左リードで追いつつ、右アッパーの迎え撃ちも用意し、間が空けばボディストレートを伸ばして、ロマチェンコを遠ざけ、「旋回」からの攻撃を封鎖するという、地味な「タスク」をしっかりこなす。
終盤、攻勢に出たロマチェンコに対し劣勢となるも、ボディブローによってダメージを与えるなどして凌ぎきった。
その闘いぶりは、こちらの勝手な想像...ある程度、ではなく、それ以上に無理な、無茶な仕掛けをもって「パンチャーズ・チャンス」に賭けるしかないのでは、という想像を覆す、冷静にして沈着なものでした。
採点がどうというのを抜きにして、内容的に「健闘」だったと思います。
対して、王座陥落となったロマチェンコですが...何しろ相手は最強の挑戦者、何もかも好き勝手にやって勝つというわけにはいかない、という前提をもって見れば、何も悲観するような内容でもなかった、とは思います。
ただ、上記した、採点基準と「現実」の乖離を一切無視したような発想で、ポイントの優勢を信じていたのだとしたら、その判断は結果としてミスだったし、もし劣勢、ないしは互角に近いと見ていたのなら、反転攻勢に出るのが少し遅い、という印象でした。
そしてそれが、単なる判断ミスなのか、コロナによるブランクや、年齢による衰えやその他の問題なのか、体格面の不利もあってのことか...どう見るべきか、色々と迷うところではあります。
今後はおそらく、判定への不満を表明して再戦へ向かうのでしょうが、スタイルが今からがらりと変わるわけでもない以上、どのように今日の試合を省みるのか、それが彼の今後を決めるのでしょうね。
と、細かいことをあれこれと書いておいてナニですが、今日の試合が9対3とか、11対1やとか言われると、さすがに「どういうこっちゃ」と言いたくもなります。
両者が試合前、というか、以前から語ったり、噂されていた、この試合後の身の振り方、階級の選択を含めた活動方針などからするに、こういう結果が、ある立場の人々にとっては望ましい、ということなのでしょうか?
そんな勘ぐりをしてしまうほど、最初から決まっていたかのような数字だと思ってしまいます。いくらなんでもなあ...と。
試合としては「地味系」ではありましたが、生中継だったことも含め、緊張感をもって見られる12ラウンズではあったと思います。
もっと派手なことが起こって、はっきりと白黒ついていれば幸いだったでしょうが、スペクタクルを「企図」出来ないこともまた、ボクシングの、ある部分の価値を証明している、ということで、今日のところは収めるべき、なのかもしれません。
とはいえ、やはりすんなり腑に落ちる「まとめ」にはなりませんね。
この試合で、片方が119...ウソでっしゃろ、と...。
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ということで、一曲。
THE BRICK'S TONE 「ビジネスが蠢く」。
後はボディブローの有効性を重視する流れもありますかね。実際ロマチェンコがボディで削られていたのは事実なので。今向こうでは、井上を筆頭にボディ打ちに長けた日本人が一定の評価を与えられているのだそうで、そういうボディブローへの『再評価』も一定の影響は与えたのかなと。
ただ、やはりこの試合は大差がつくような流れではなかったですよね。私はもしロペスが勝つのなら微妙なラウンドの配分でスプリットになる、と見ていたのでユナニマスならロマチェンコなのか? と思ったのですが。まあ119-109はロマチェンコであれロペスであれありえないとしか言いようがない。実際に『思惑』ありきだったかどうかは闇の中ですが、それを疑われる事自体が害悪なんですよね。今のアメリカではBLM運動という形で黒人差別が改めてクローズアップされていますが、アメリカ人の黒人は差別してはいけないが、非アメリカ人や非ヒスパニックならいかように差別しても構わぬ、と取られたって仕方がないと思います。ゴロフキン・コバレフに続いてロマチェンコもですからね。これだけファンから判定に対する疑義が噴出し、諦観をもって受け取められるスポーツなんて他にないと思います。試合自体はロペスの奮戦により締まったいい試合だっただけに、竜頭蛇尾も甚だしい結末になったのは残念でなりません。
採点は「見方」「好み」によって割れるかもと思ったのですが、119という数字を聞いた瞬間、勝ったのはロペスと思いました。こんな極端な採点をするジャッジがいるとしたら、それはロペス側。旧ソ連圏のボクサーではなく、アメリカの若きスター候補に与えられたものだろうと。117も同様。これが「誰」の意思かは分かりません。主催者、中継局というより、「米ボクシング界」が望んでいるという気すらします。
それとは別な話で、今日の解説もそうですが、日本のボクシング関係者は「有効打」の基準が甘いように感じます。「ぐらつく」「動きが止まる」など分かりやすい反応が必要で、「顔が跳ね上がる」くらいでは「有効打」ととらないジャッジが多いかと思います。少なくとも最近の世界戦ではそう見えます。それがなければ「積極性」「リング支配」なので、手数や自分から仕掛けることが重要。この方がより試合がエキサイティングになるからでしょうかね。
試合自体もロペスが先に手を出し,ロマがそれを圧倒できるような技術を示すことなくという展開でした(無論後半はリスクを冒してペースアップしていましたが,ちょっと無理している印象あり)ので,勝敗自体にはあまり疑問を差し挟む感じでもないかという印象でした.
ロマは,seamlessさ以外ズバ抜けて突出したものを持つ選手ではなく,今回stepやbody moveに年齢的な衰えの影も見られ,4団体制覇というハイレベルな枠ではライト以上は厳しいという結論かなと思いました.もちろん普通にロペスは強かったし,ロマの際を突く技術に対して今までの相手があまり対応できなかったのに対し,ロペスはきちんと対応出来ていた点は評価に値すると思いましたが(中谷戦の苦戦のおかげと言えなくもないと思いました).
ロマはこれからはキャリアの終盤に入っていく訳ですから,今後やはりsフェザーかフェザーあたりが良さそうに思いました.
A-SIGN.BOXING.COMの動画で伊藤雅雪選手も仰っていましたが、前半のロマチェンコの消極性にはポイントを与えようがないという感想です。
さうぽんさんも言及されているように、試合中にロマチェンコがポイントの振り分けをどう見ていたのかというのは非常に気になります。
前半ロペス、後半ロマチェンコでだいたい分かれる感じでしたかね。2回微妙、12回はロペスに振るべきかな、と見返してみて思いましたが...いずれにせよ、119どころか117でも違和感がありますね。
これまた見返すと、ロマチェンコは8回から「挽回」をはかったのだと見えます。対するロペスは、僅差であってもリードしている自信があったのかもです。それが単に試合内容、手応えのみから来るものかどうかですが。
採点に関しては、基本、見てるとこからそう見えたならそれまで、というところではあります。しかしこれほど大きく、見た印象と乖離していると、やはり色々と思ってしまいますね。
>月庵さん
今回の試合、ロペスのヒットについては、ロマチェンコの軽いヒットと同等に見なせるくらいのものはあった、と思います。記事にも書きましたが、その場合、ロペスの方が攻勢を取っている構図になってもいました。はっきり「ブロックの上」と断じることの出来るものばかりでもなかったでしょうし。また、それを全て正確に視認するのも難しいかもしれません。ビデオリプレイでダウンの裁定を変えることは出来ても、一発ずつヒットの有無を確認し直すわけにもいかないですし。
そういう細かい積み重ねが見えたように思い、ロペス勝利自体を疑問視はしませんが、出た数字そのものには...正直、116でも首を傾げます。仰る通り、ゴロフキン、コバレフ、そしてロマチェンコと、圧倒的に巧くて強い間は大丈夫でも、ひとたび競った試合に持ち込まれたら途端に、という印象ですね。アメリカのボクシングマーケットに挑むということは、それも承知の上でないといけないのでしょうか。だとしたら、我らが井上とて、いつ「引き揚げ」るかを慎重に判断する必要があるのかもしれません。
ボディブローの効果は、中盤以降までは突き放し半分、ダメージ自体は僅かに、というところだったと思います。111、12回はロマチェンコが止まり、足が伸び加減になりましたけども。
>海の猫さん
ロペスがライト級で、体格の優位を生かし、なおかつ落ち着いて構え、その上で速いパンチと反応の鋭さを終始見せるという、考え得る中で「最高」だったことが、ロマチェンコを脅かしていましたね。接近して回り込み左アッパー、という得意技も、数えるほども出ませんでしたし。右アッパーのお迎え、ボディストレートの突き放し、そしてそれ以上に、常にロマチェンコの顔面の方に向いていた右拳による威圧などが、実体を伴う脅威たり得たのも、ロペスの状態が良かった故、でしょうね。仰る通り「ここまで仕上げてくるとは」という誤算が、ロマチェンコにはあったかもしれません。
スター優遇採点か否かは、確たることは言えませんが、過去の事例について上記コメントしたとおり、ひとたび「隙」を見せたが最後、即座に、という印象があり、今回も出た数字から同様に見てしまいますね。
有効打、という言葉についても同感です。加えて、軽打であってもヒットはヒットですが、実力的に拮抗した相手との試合で、相手のパンチを本当に一発も打たせずに済むわけがないし、よしんばそれが出来たとて、ジャッジが確実にそれを視認できる保証もない。それも含めて、色々難しい点のある試合でした。ロマチェンコ本人は、WOWOW実況解説とは違った見方をしていたのではないか、と思いますが...試合後、問われて何を言ったかは別にして。
>Neoさん
ロペスの状態の良さのみならず、ロマチェンコ自身の状態もベストでは無い、それは仕掛けの数の少なさからして見えましたね。展開は仰るような経過でしたね。同感です。
今回の出来(普通なら「不出来」というほどでもないでしょうが)は、年齢やブランク、そして階級の無理も相まって、良いものではなかったでしょうね。ただ、それを炙り出したロペスの確かさは、少なくとも私の想像を超えたものがありました。若いボクサーって怖いです。一試合違えば全然違うときがある、という。
ロマチェンコが今後、ベストというスーパーフェザーに戻り、ロペスと再戦はしない、というのは、理屈で言えば筋の通った話かもしれません。しかし、ボクシングという「闘い」を直截的に競技化した世界において、ひとたび足を踏み入れた階級で、敗れた相手に雪辱することを諦めた者に、戦士としての価値が認められるのか、という疑問もあります。
もちろんベストの階級で、という筋論は正しいでしょうが、ボクシングとは、単にスポーツとして「のみ」意味づけられるものではない。それも事実だと思うのです。
昨今の趨勢では、階級を上げる、変えることは、トップボクサーたちにとって、以前ほど難しい決断ではなくなっていますが、やはり安易にしていいことではない、と。ロマチェンコは今後、その辺の「覚悟」を問われることになるのかもしれませんね。
>ハンクさん
私はWOWOWで、あの実況解説を聞きながら見ていたわけですが、それでも序盤、ほいほいとロマチェンコにポイントを振っていく採点には、首を傾げていました。とはいえ、だいぶ引きずられてもいたようで、録画を見返してみると、最終回はロペスにして、7対5でロペスの勝ちだなあ、と思っています。同感です。
ロマチェンコの判断がどうだったかについては、上記もしましたが、本人は不安もあって、巻き返しに出たのだ、と見るのが自然でしょうね。リードの確信があれば、あんなに攻めて出るタイプではないですしね。