非国民通信

ノーモア・コイズミ

公的資金の投入は?

2008-10-14 23:02:18 | ニュース

奨学金滞納者を通報へ 学生支援機構、金融機関側に(朝日新聞)

 大学生の約3割に奨学金を貸している日本学生支援機構が、全国の銀行などでつくる信用情報機関に滞納者情報を通報する滞納防止策に乗り出す。滞納額増加に悩んだ末の強硬策で、年内に信用情報機関に加盟する見通し。通報されると対象者は、銀行ローンを組めなくなったり、クレジットカードを作りづらくなったりする可能性がある。

(中略)

 機構や文部科学省によると、新制度は、悪質な滞納者をなくすため、「一定期間滞納すると、信用情報機関に知らせる」ことを条件に貸していく。どの時点で通報するかは検討中だ。今のところ、10年度の新規貸与者から対象にする方針で、すでに利用している人にも適用できないか検討している。

 通報先となる信用情報機関は、大手銀行や全国の地銀など約1400の金融機関が会員となっている。滞納情報が通報されると、対象者は加盟金融機関でローンが組めないなど、日常生活にも影響が出るとみられる。

(中略)

 06年に6カ月以上の滞納者を対象に行った調査では、滞納の理由は、「低所得」の45.1%がトップで、次いで多かったのが「借入金の返済」の25.3%。借金の返済に追われ、奨学金返済がままならない状況が浮かび上がった。

 学費ですとか給食費ですとか、民間企業からすれば垂涎の完璧な回収率を誇る分野もあるわけですが、奨学金の回収率は芳しくないようです。給食費のように回収率が高ければ滞納分の実質的な影響は無視できますので、どこも本気で調査はしない、実態を調べる代わりに「どう思うか」を聞いて回って終わるのが常ですが、奨学金の場合はそうも行かないようです。で……原因を真面目に調査したところ返済の滞る原因のトップは「低所得」で45.1%、次が「借入金の返済」の25.3%だそうですが、これは奨学金という借金を返すために他の金融機関からお金を借りていることを示すわけで、いわば自転車操業状態、実質的には「低所得」と同質のものと見てよいでしょう。

 一口に奨学金と言っても色々とあるわけですが、学部生は概ね親の所得を問われると思いますので、奨学金受給者はあまり裕福でない家庭の出身者と考えられます。そこから奨学金をもらって学問に励むわけですが、頑張れば成功するというものでもありませんから、勉強しても結局は貧乏なまま、奨学金の返済すら滞るほどの困窮状態に置かれる人も少なくないようです。それに対し、機構や文部科学省は信用機関に通報する=ブラックリストに載せることで追い込みをかける方針だとか。色々な意味でこえー話ですよ。

 ……

 金融危機が叫ばれているわけです。庶民の暮らしにも影響するとか何とか。なんでも製造業至上主義の人に言わせれば金融市場はあくまでゼロサムゲームなのだそうです。なるほど本当に金融市場がゼロサムゲームなら心配することはありません。大儲けしている人の影には必ず損をしている人もいる、そうゼロサムゲームを前提に金融取引を批判的に見る人は主張するわけですから、ならば逆もまた真なりです。今回の金融危機で大損している企業が続出しているわけですが、その影には利を得ている人もいることになります。何の問題もありませんね。これがゼロサムゲームであるのならば!

 たぶん、これはゼロサムゲームではないのでしょう。この急変をどうにかしないと、破綻してしまう企業や金融機関が後を絶たない、その結果は被雇用者にも跳ね返ってくるのでそれを防ぐために公的資金を投入して金融機関を支えなければならない、そう言われています。

 戦後最長の景気回復で企業景気は軒並みバブル期を上回り、空前の利益を記録した企業が続出したわけですが、労働者の所得は下がりました。今回の金融危機に伴う市場の冷え込みで、あらゆるものが「前後最長の景気回復」以前の段階に戻るなら、それは被雇用者にとっては好ましいことなのかも知れません。「前後最長の景気回復」以前の方が労働者の平均的な所得は高かったわけですから、そこに戻るなら大いに結構、歓迎すべきことです。しかるに、景気が回復している内は反比例するかのように所得が下がっていたにもかかわらず、逆に景気が失速すると、今度は所得がそれに比例するかのごとく語られる、これではどっちの道も選べないではありませんか。

 ……

 営利活動にはリスクとリターンがあるわけで、リターンは自分達だけで享受しておきながらリスクに脅かされるとなるや公的資金で穴埋めをしてもらおうというのでは、少なからず過保護にも見えます。ただ、そうしないと金融機関や企業の破綻が予測され、ひいては国民の生活に悪影響を及ぼすので、それを避けるためにも公的資金の注入は必要だと、大義名分はこんなところです。いやはや、国民を人質に取ったものは強いですね。

 この判断が正しいかどうかは留保するとして、せめて一貫性を見せたらどうかと思わせられたのが、冒頭の奨学金を巡る問題です。企業に喩えるなら運転資金に事欠き、救済が必要な状態にある元奨学生が急増しています。そこで一貫性を以て行動するならば、破綻という最悪の事態を防ぐため公的資金を投入する、こうあるべきですよね? 十分な収益を生まなくなった企業は用済みとばかりに、危機を乗り越えられず破産するに任せるのも自由な経済というべきものですが、そうはしないのが現状の政策です。しかるに、元奨学生に対しては露骨な貸し剥がしに出る、運転資金の借り入れが出来ない状態に追い込む、いつものダブルスタンダードですね。

 

 ←応援よろしくお願いします

 

 ちなみに、かの「自立生活サポートセンター もやい」の提携企業が破綻して、支援事業が暗礁に乗り上げているようです。これも単に企業従業員が職を失うだけに止まらず、入居支援事業対象者の生活を脅かす、相応に社会的な悪影響のある事件なのですが、こういうところを公的資金で支えるという話は寡聞にして知りません。

緊急カンパキャンペーンご協力のお願い(自立生活サポートセンター もやい)


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5 コメント

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我慢出来ない (もう駄目だ)
2008-10-15 02:08:46
今年も賞与くれない、正社員になれない何年はたらいても困る困る頭にきた スキルの付かない使いすて労働 暴動あるのみ
「もやい」は心配です (Bill McCreary)
2008-10-15 03:18:40
私も「もやい」さんが厳しい状況にあって困っていることを聞いて心を痛めていました。ほんと、本来ならこちらにこそ公的資金の注入があってしかるべしと思うんですけど、「絶対」(と断言します)そんなことにはなりません。小泉も竹中もそんなことは主張しません。なぜでしょうね。

さて、奨学金にしても、日本人の実質所得が低迷しているから返済率が悪い、さらには異常に日本の学費は高いという根本的な問題があるわけで、こういった問題にもう少し手を打たないと、学生支援機構の対応も弱いところへのしわ寄せなだけとの誹りをまぬがれないでしょう。
満足の文化か! (ルザミof大阪)
2008-10-15 11:15:22
 はじめまして、いつも楽しく拝見しているルザミと申すものです。あ、後大阪在住です。橋本氏には二度と投票しますまい。

 つい、先日ガルブレイスの『満足の文化』という本を読んだのですけど、何か今の日本そのままなんですよね。(ちなみにガルブレイスはアメリカのことを語っている)
 金融危機や軍事にはお金を使うことが許容され、貧民救済にはお金を使わない。銀行の失敗は救済する、しかし、貧乏人は自己責任。
 増税をきらう富裕層に対しては減税し、その為に弱者救済は切り捨てる。
 おかしな話だと思うのですが、あまり気にならない人の方が多いみたいです。
 誰かさんはアメリカ型社会を目指すと言っていた時期がありました。その結果がこれじゃぁ、ちょっと悲しすぎます。
突然失礼します (修一狼)
2008-10-15 22:42:19
非国民通信殿 突然失礼します。
公的資金の注入は賛否両論ある訳ですが、ソレを決める政権与党的に考えると建前は国民の為ですが、結果は企業からの献金が絶えてしまう事を防ぐ為の策。
政治家としては他人の金で財布を膨らませる手段として有効なのではないでしょうか?
一方元々の貧困層に救いの手を差し伸べてもリターンは極めて薄い。
何せ彼ら若い貧困層は『政権与党』を打倒しようと活動する輩が多い訳で、「敵」とも取れるモノに救いを差し伸べるのは人として難しいのでは無いでしょうか?
Unknown (非国民通信管理人)
2008-10-15 23:23:47
>もう駄目ださん

 何とも希望がないですよね。私も次の契約更新がどうなることやら。今の仕事が続いたってどうにかなるものでもありませんが。

>Bill McCrearyさん

 ホームレスにせよ、大学を出ても職に恵まれなかった人にせよ、社会的立場の弱い人には強気の政策に出ますからね。どうも見捨てても構わない人と、どうしても助けたい人、政府から見ると二種類あるようです。

>ルザミof大阪さん

 強いところは優遇して、弱いところは締め上げる、所得の再分配など現代の政治からしてみれば逆行するやり口ですが、それが主流になっているところも少なくありませんね。勝者には賞を与え、敗者には罰を与える発想なのでしょうか。

>修一狼さん

 一つだけ異論があります。少なくとも統計上、若い貧困層は中産階級や中高年より、明らかに自民党支持の強い階層ですから、ここは政権与党にとっては「味方」だと思います。ただこの辺の人々は、自分達にとって不利な政策を推し進める政党を支持してきた実績がありますので、むしろ救いの手を差し伸べるより突き放した方が支持は得られるのかな、と。そうなると結果的には「貧困層に救いの手を差し伸べてもリターンは極めて薄い」というコトに……

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