非国民通信

ノーモア・コイズミ

何が給料を引き上げるのか

2024-04-07 23:09:30 | 雇用・経済

 さて連合などの発表によれば「定期昇給を含む」賃上げ率は5%を上回るところが多い、中小企業でも4%台後半が平均なのだそうです。私の勤務先も定期昇給を含めた賃上げ率は結構な高い数値となっていますが──残念ながら誰もが定期的に昇給するわけではなく、昇進するのは一部の人に限られる、微々たるベアの上昇で我慢せざるを得ない人もまた多いのではないでしょうか。私も成果手当に関しては決して悪くない評価をもらっていますけれど、入社当時と大差ない給料のまま働き続けています。

 ここで私は思ったのですが、御用組合の連合傘下にある企業と、戦う組合が多数派を形成している企業、そして組合のない企業と、それぞれ賃上げ率に目立った差はあるのでしょうか? 大企業と中小企業という会社規模に分けて賃上げ率は発表されていますけれど、組合の方向性の違いや有無による分類があるのなら、それは興味深いところです。

 時には組合の要求に対する満額回答どころか、組合要求を上回る賃上げ率を発表する企業もあります。あるいは組合が会社のイエスマンで、微々たる賃上げでも「苦渋の決断」であっさり受け入れてしまうケースもあります。一般には組合がなければ会社への要求を通しにくいとされるものですが、しかし組合のない企業の賃金水準が組合のある企業に比べて大きく劣るかと言えば、同程度の事業規模であれば顕著な差はありません。賃上げと組合の因果関係はどこまで実存するのか、そこも気になります。

 かつてヘンリー・フォードは低コストな自動車生産で市場を席巻しましたが、それは日本企業が得意とする人件費削減によるものではなく、むしろ大幅な賃上げを行っていたわけです。フォードは賃上げだけではなく1926年には早くも週40時間労働を取り入れるなど労働時間の削減においても時代の先端を歩んでいたと伝えられます。しかしフォードは一貫して労働組合の結成には否定的で、フォード社における組合の完全な結成は社長の代替わりを待つしかありませんでした。

 組合潰しのためには暴力の行使すら厭わなかったヘンリー・フォードが、従業員に対しては同業他社を大きく上回る賃上げを提示してきたことは、賃上げのメカニズムを考える上で興味深い例と言えます。組合側は当然のこととして賃上げを自らの成果と誇るところですけれど、しかし組合がなければ賃金が上がらないかと言えばそうでもありません。労働者の代表として組合の存在意義がなくなることは考えにくい一方で、本当に組合が役目を果たせているのかは問われるべきものがあるでしょう。

 また新卒社員の初任給に関しては、5%どころではない大幅な賃上げが発表されるケースが相次いでいます。既存の社員は1万円の賃上げでも大幅アップなのに、新卒初任給は3万アップ、5万アップ、なかには8万アップなどという企業も出ているわけです。こうした企業の中には一定の勤続年数を重ねた社員よりも初任給の方が上回る事態も発生しているようで、確かに勤続10年の私の給料よりも高い給与で新卒を募っている会社が今となっては珍しくない、何だかなぁと思います。

 新卒社員の初任給の引き上げもまた、組合の要求によって実現されたものではないはずです。組合が会社と微々たる賃上げを巡ってプロレスを続けているのを尻目に、若い社員を確保したい会社は初任給ばかりを大きく引き上げているわけで、ここでもやはり組合の有無なんかよりも会社側のニーズや市場原理の方が人件費を動かすのだなと意識させられます。雇用側からすれば何も知らない新卒の若者の方が勤続20年の氷河期中年よりも価値がある、そう思ったら組合の要求などなくとも賃金は(一方だけが)上がる、そういうものなのでしょう。

 採用抑制が絶対の正義だった時代に入社した人々は20万程度の横並び初任給から昇給とも無縁で働き続けてきた一方で、企業が若い子の確保を競う時代に入社した人々は最初から25万、30万と景気の良い給料を提示されています。もっとも世界に目を向ければ10万円以下の月給で働く人もいる、パートタイムの外国人労働者でも日本円で50万円以上の月給を得られる国もあるわけです。高い給料を得るために必要なのは組合の交渉でも本人の努力でもない、時と場合の巡り合わせが最も大切なのだと断言する他ありません。

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