非国民通信

ノーモア・コイズミ

労働基準局のお仕事

2008-07-28 23:09:34 | ニュース

朝帰りもタクシー 厚労省 徹夜勤務明け始発後140件(産経新聞)

 厚生労働省労働基準局などの職員が徹夜勤務明けに、電車がある時間帯にもかかわらず、特別会計から支出される深夜帰宅用タクシー券を使って“朝帰り”していることが分かった。厚労省のタクシー券使用規程では「原則、業務が深夜におよび通常の交通手段がない場合に限る」と定めているが、労働基準局書記室は「職員の健康管理に配慮した」と説明。霞が関で働く国家公務員の過酷な労働実態が明らかになるとともに、税金の使い道に対するコスト意識の低さも浮かび上がった。

(中略)

 労働基準局書記室は「徹夜勤務をした職員の健康管理に配慮し、例外的に使用した」と説明。厚労省のある職員も「タクシーで帰宅した後、シャワーを浴び、着替えただけで再び職場に戻ることもある。それくらいは勘弁してほしい」と話す。

 産経新聞らしくツッコミどころに事欠かない記事ですが、この手のネタ、公務員叩きに関してはどの新聞をチョイスしても、概ねツッコミどころに困ることはありませんね。例えばそう、タクシー業界としてはどうなんでしょうか、昨今は翳りが見えるとはいえ「失業の受け皿」として機能してきたタクシー業界です、業界から見るとどうなんでしょう? 私の勤務先にも取引先にも「官庁事業部」とか「官庁課」なんてのがありまして、お役所関係はかなり重要な顧客でもあるわけです。このお役所との取引が一斉に途絶えてしまうと、会社の経営にも甚大な影響が出てきます。そこでタクシー業界はどうでしょうか? 昨今のタクシー利用を巡るヒステリックな騒動に巻き込まれ、乗客を失ったタクシー運転手も少なくないのではないかと。

 足を失う職員も乗客を失う運転手も困るわけで、誰も得をしないタクシー規制ですが、どうなんでしょうか、「傲れる民間人が溜飲を下げる」ことが目的でしょうか。コスト意識を持つならもっと大きなものを考えなきゃいけないところですが、在日米軍の一棟7000万円の豪邸や自衛隊専用のゴルフ場よりも、マッサージ椅子の方が気になるお国柄です。高額商品にはどんぶり勘定、しかし日々の買い物には10円20円の端金に血眼になる、節約できない主婦感覚が老若男女を問わず行き渡っているせいもあるのかもしれません。

 そもそも、「職員の健康管理に配慮した」ことを咎められることがおかしい。労働基準局としては、その当然の勤めを果たしただけです。これが非難の対象になるのであれば、「職員の健康管理を蔑ろに」することが求められるのでしょうか? 労働基準局が模範を示す代わりに、別のお墨付きを与えろと?

 民間であれば、徹夜勤務明けであっても電車で帰るところが、シャワーと着替えだけのために1万円以上かけてタクシー帰りするコスト意識の低さも問題といえる。

 民間、民間、民間であれば、民間なら当たり前、傲れる民間人の定番フレーズです。もちろん民間の方が役所より優れているようであれば、民間の「当たり前」に合わせるべきです。しかし往々にしてこの民間の「当たり前」は想定されている「官」よりも劣ったものです。この場合であれば「職員の健康管理に配慮して」タクシーを使わせてやるのが「官」、労働者の健康よりも経営側のコストを優先するのが「民間なら当たり前」です。果たしてどちらか望ましいでしょうか? しかし国民の求めているのはどちらでしょうか?

 何度か同じ様なことを書いてきましたが、果たしてこの国の住民が本気で労働環境の改善を願っているのか、時に私は信じることが出来なくなります。むしろ反対ではないかと。だってそうでしょう? 「労働者の健康管理に配慮した」職場に我々の社会はいかなる眼差しを注いできたでしょうか? 労働基準がよく守られている、配慮されている、給与面などでよく報われている、そのような職場を我々の社会は「模範」「当然そうあるべきもの」と見なしてきたでしょうか? 労働環境の優れていることは、すなわち全否定の対象であり、「民間では当たり前」という言葉の元、待遇を悪化させることが世論の大勢であったはずです。政財界の特権階級だけではなく、労働者が、庶民が、国民が、それを望んだのです。政財界のお偉いさんは、そんな「国民の声」に耳を傾けてきただけです。

 ちなみに私の勤務先(言うまでもなく民間企業ですよ)でも、徹夜勤務のような長時間の拘束の後はタクシー代くらい申請できます。まぁ徹夜になるようなケースは滅多にありませんがね。こうした企業がどの程度存在するのかは知りませんが、悪いことでしょうか? この辺も「民間なら当たり前」とか「既得権益」とか、真顔で口にしているような連中にしてみれば否定の対象なのかも知れません。そうした「恵まれない労働者」の声を経営トップが聞き入れようものなら、アシ代なんてでなくなる、徹夜明けで体調不良でもタクシーは使うな、かえってもムダだから会社に泊まり込んで仕事を続けろ、そういう社風に変わっていくのでしょう。そしてこうした積み重ねがあって、今に至るのです。

 

 ←応援よろしくお願いします


コメント (14)    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 日本人の生活保護世帯も1.... | トップ | 「カビ型」と「ムシ型」 »
最新の画像もっと見る

14 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
Unknown (ノエルザブレイヴ)
2008-07-28 23:14:56
ちょっと条件が良い(あるいはそう見える)人はやたらと視界に入ってきて苛立ちの原因になっているものでしょうか。

一方、もっと良い条件で暮らしているであろう人は…遠すぎて見えん。
返信する
何度も同じことを書きますけど (Bill McCreary)
2008-07-28 23:31:33
深夜まで労働している役人がタクシーチケットをもらうことって、労働条件の改善のためには大いに結構なことですよね。たとえば、そういったものももらえないで過労死でもしたらどうすればいいんでしょうか。たぶんこの記事を書いた記者や喜んだ読者は、何も考えないんでしょうね。冷たい連中です。

ていいますが、公務員の労働条件が悪くなれば民間にも波及しますし、反対も同じです。どうしてこんな簡単なことがわからないんでしょうね。産経新聞の記者は確信犯かもしれませんが、こんな子供だましの手口にだまされる馬鹿が多いのは本当に困ります。
返信する
Unknown (非国民通信管理人)
2008-07-28 23:55:22
>ノエルザブレイヴさん

 本当に上にいる人は、世論の視界の外、批判意識の外ですよね。例えば橋下、橋下であれば勤務中に公用車でフィットネスクラブに出かけてもOKですから。ある意味では「上下共闘」、上と下から中産階級を叩こうという勢いですらあります。

>Bill McCrearyさん

 特に今回は労働基準局ですから、模範と呼んで欲しいところでもあります。超過勤務には十分なケアをすべしと、それを当然と意識させていくことが労働環境の改善に繋がるはずです。しかるに実態は正反対、こうした他人の待遇を悪化させていくことが巡り巡って日本中に波及してきたわけですが、まぁ学習能力がないと言うべきでしょうか、それとも他人を咎め立てすることしか頭にないのか……
返信する
社員の福利厚生度は日経朝日>サンケイ (Elekt_ra)
2008-07-29 00:58:52
毎回思うのですが、どうしてもサンケイのこの手の記者は、労働福利を下へ下へ誘導したがりますね。で、Yahooとかのコメントではその尻馬にのって公務員たたきして毎度毎度の「俺ちゃんやったぜ!」ですから(失笑)本当に、こいつらまともな会社勤めしてるのかが分かりかねるときもあります。
労働条件をさらに過酷にと、結果的に民間にも波及すればコスト管理ばかりに拘泥するタイプの経営者としては、こういう記事は万々歳ですよね。サンケイ読者特有のネット保守層にも、一応経済新聞(笑)ですから経団連等財界人にも気を遣ってるのでしょうか?そう考えたらサンケイの鑑のような記事ですね(笑)
返信する
Unknown (やくも)
2008-07-29 07:29:27
VDT作業に関するハナシが出た時も思ったのですが
規定をロクに守らないで「~を見習え」「~ではこうだ」というようなフレーズに正直吐き気がします。
どちらの方がアナタにシアワセなのですか,という視点が思いっきり欠けているように思います。マゾ?
返信する
瑣末なことを記事にしすぎ (名無しのぽにょ)
2008-07-29 09:06:14
税金の無駄遣いの話題には事欠かないにしても、タクシー代ごときでは節約したところでたかがしれている。
マスコミはもっと大きな利権構造なり税金の無駄使いの本丸を報道すべきなのですが、庶民感覚的に怒りを
覚えさせるような記事の方が、庶民受けするし新聞も
売れるからでしょうが、瑣末なことばかり記事にする
印象は否めませんね。
 天下り禁止すべしとは、大昔から言われていても一向になくならないわけですが実はその利権構造の恩恵をマスコミ自身も受けている為本質的なところに切り込めないのでしょう。
 「天下りはいいことだと思いますか」と聞かれれば、誰しもいいことじゃないと答えるのに、何十年たってもなくならないわけですから似非民主主義国家日本の面目躍如といったところでしょうか?
 一方で、郵便局がもしなくなったら?と聞かれたら
大多数の人は困ると思っていたにもかかわらず、郵政民営化は実現してしまいましたよね。
 日本国民の自虐性のなせるワザなのかもしれませんし、歪められたマスコミ報道のせいなのかもしれませんが、いずれにしても日本は先進民主主義国家というより依然としてアメリカの植民地国家なのではないか
という印象はぬぐえませんね。
返信する
うらやむ心 (単純な者)
2008-07-29 10:35:41
こんにちは。

自らの労働条件を向上させる為に努力をすることもなく他人の成果にけちを付けて足を引っ張る、それは何らかの情報操作に基づいたリードに引きずられている、ただでさえ低い全体の労働条件の水準が偽造された世論によって更に引き下げられていく、管理者さんのご指摘に肯くばかりです。

確かに公務員は不偏不党、公共に奉仕する業務を担う為にはその身分や労働条件に一定の水準が安定的に維持されることが必要であります。ですから現在のように経済社会が大きく低下傾向にあるときはうらやましがられる時代もあります。経済社会が高成長の時は当然逆転状況にもなり、企業に就職した友人をうらやむときもあるわけですね。

日本の企業社会は各々が独立しているというより、企業グループ内での階層化もあり、企業同士のお付き合いも横並びと分相応意識が行き渡りやすい風潮があります。官尊民卑も根強いので例えば地震でその地域の建物のエレベーターが多数故障し停止すると先ず官庁から修理のサービスが手配されるようです。

一般的な経済社会で企業が利益を上げて税金を出して
一部行政サービスを公務員が担うシステムだからエレベーターの例から言うと修理順序が逆なんでしょうがそうはなっていないところにもおかしな所はありますよね。

では。
返信する
Unknown (GX)
2008-07-29 17:43:40
 逆に、対策を怠ったっていたり、過労死したりする人が出れば、「労働基準局という労働者を守る機関でありながら、労働者を食い物にするあきれた実態」と紹介され批難されるのでしょうか。過去に消防署が火事を起こしたり、交番に泥棒が入ったりした事件が報道されたことがありましたし、そうなればこれらと同様人々の関心を集めそうと面白半分に紹介された可能性もあります。
 ともかく、対策しようがしまいが、労働基準局は批難されるのではないかと考えました。
返信する
ありがちな話 (×第二迷信)
2008-07-29 19:57:38
 たとえば、ジャイアンツファンが、
首位を走る阪神よりも、目の下にいる広島やヤクルトが負けてくれるほうを望む、ってなレベルの話ですね。
 (Aクラス確保で「クライマックスシリーズ」可能な今シーズンはなおさら)
返信する
Unknown (GO)
2008-07-29 20:11:17
まあ、電車が走っているうらいの朝早くにようやく仕事が終わるようであれば、翌日は休みぐらいにしてもよろしいんじゃないかと思います。もっとも、霞ヶ関ではそれでは仕事になりません。
 関西では「戸田ひさよし」という左翼の市会議員が、自分のHPの掲示板で、「(民間)出羽の上」という言葉を使っています。「民間」の厳しい中小企業で働く労働者の権利を勝ち取ってきた労組出身の議員が言うことは、納得がいきます。
返信する

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

ニュース」カテゴリの最新記事