非国民通信

ノーモア・コイズミ

経済成長を追ってきた、という幻想

2013-01-06 22:49:20 | 社会

 我が国の政府がこれまで「経済成長を追ってきた」と、今なお信じ続ける人がいます。このナイーブな世界観をなぜ維持できるのか理解に苦しむところ、現実の日本は着々と世界経済における地位を低下させてきた、戦後最長の景気回復と呼ばれた時期ですら、あくまで他国の好景気の「おこぼれ」に与っただけで日本の経済成長は日本「以外」の新興国や先進国のそれに比べて著しく鈍いものであったわけです。しかるに、もう20年ばかり経済成長とは無縁の日々を送っているにも関わらず、日本が経済成長を追っているかのごとくに語り、それを批判する人がいるのは実に奇妙なことではないでしょうか。

 日本が「経済成長を追ってきた」との世界観を持った人々は、往々にして経済成長をネガティブなものとして位置づけたがります。例えば、経済成長が格差を拡大させる云々、そして格差解消のためにと経済成長を追ってきた今までのやり方を改めるべきだなどという話が出てくるわけです。しかし現実の日本は経済成長していません。これだけ経済成長から距離を置いて久しいのですから、むしろ日本は経済成長に長らく背を向けてきたと考える方が辻褄が合いそうな気がしますけれど、まぁある種の人々の思いは堅いようです。

 経済成長が格差を拡大させる、というトリクルダウン効果並に必然性のない説を奉じる人にとって、そもそも日本こそが見事な反証として機能してしまうとも言えます。日本は経済成長「していない」にも関わらず急速に国内の所得格差を拡大させてきた、我が国ほど「経済成長が格差を拡大させる」という主張の誤りを鮮明に立証している社会はそうそうないでしょう。それでも「経済成長が格差を拡大させる」という脳内定義を真であらしめるためには、日本が経済成長を追ってきたのだと、そう「設定」しなければならないのかも知れません。

 経済成長への憎悪の故に、自らの「敵」を経済成長を追ってきたものと頭の中で書き換えてしまっている論者も多いような気がします。自分が思い描いたように世の中が動かない、その原因を「経済成長を追ってきたからだ」と実は何の関係もないところに求めている、と。しかるに近年の日本は成長を続ける世界経済の中で取り残されるばかり、それを「経済成長の時代は終わったのだ」と言い繕う愚者もいるわけですが、もっと率直に「(改革の理想にかまけて)経済成長を蔑ろにしてきた」ことの責任を行政に問うべきではないかと思うところです。まぁ新内閣は奇策や珍策揃いだった長年の改革路線からオーソドックスな金融緩和/財政出動路線に重点を移す構えを見せています(舵取り役の人選が不適切に見えるところもありますが)、その結果を今しばらくは見守るとしましょう。

 ちなみに内政面だけではなく、外交面でも微妙に実態とずれた「設定」に沿った批判が多いような気がします。例えば北朝鮮との拉致問題など「対話と圧力」と掲げながらも同時に「もっと圧力を」と語るような人がいるわけです。しかし、前回の安倍内閣以降は実質的に対話が途絶えている、そこからさらに圧力へ重心を移すよう求めるのは無意味なこととしか言い様がありません。既に端へ達しているのですから。しかるに経済成長を憎悪する人と同様に対話を嫌悪する人もいて、そういう人の頭の中では政府は対話路線にある、その対話路線こそが諸悪の根源であって、これを改めねばならないのだと、そう信じているのかも知れません。

 TPP「交渉」参加問題でも似たようなところがあるでしょうか。どうにも日本政府がTPP参加に前向きとの前提で批判している人も多いですが、実際はどれほどのものやら。今や日本外交の特質は「相手と対話せず」「(国内に向けて)自国の正当性を説く」点にあると言えます。上述の拉致問題がまさに典型的ですね。それで問題が片付くことは未来永劫あり得ないですけれど、しかし国内での支持は得られたりするのですから不思議なものでもあります。

 最も国内的に歓迎されるのは、日本人の被害者意識を最大限に焚きつけ、交渉の席を蹴ることでしょうか。諸外国が日本を脅かそうとしている、だから我々は防壁を高くして備えなければならないのだと、そう国内に向けて説く方が地道に関係国と対話を重ねるよりウケが良いのではと思います。軍事的な衝突の可能性は話し合いで解決できると考える人ですら、経済や食糧問題に関しては逆に立場を取っていることの方が一般的ですから。前回組閣時の安倍晋三の実績を見るに、当事国との対話よりも不毛な自己正当化を重視する姿勢は顕著でした。TPP「交渉」参加問題に関しても、むしろ批判者の望みに近い結果になることもあり得る気がします。

 

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2 コメント

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Unknown (ノエルザブレイヴ)
2013-01-06 23:19:43
現首相は右の人々に甘やかされているので、むしろ交渉や対話のチャンスだと思いますがね。民主党が宥和的な方向に走ったらうるさそうですが。
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Unknown (非国民通信管理人)
2013-01-07 23:47:39
>ノエルザブレイヴさん

 まぁ、実際に民主党時代よりも、部分的にではあれ良い方向に動いているものもあるのではないでしょうか。参院選に向けて維新との連携を模索している民主が世間で思われているよりもずっと右寄りの政党であるのと同程度に、自民もまた世間で思われているほどではない、少なくとも実際の行動としては違うところもあるでしょう。
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