心の風景

晴耕雨読を夢見る初老の雑記帳

フランツ・リストのピアノ曲「巡礼の年」

2015-12-12 23:20:47 | Weblog

 「第1年:スイス」「第2年:イタリア」「ヴェネツィアとナポリ(第2年補遺)」「第3年」で構成されるピアノ曲「巡礼の年」。フランツ・リストが20代から60代までの間に断続的に作曲してきたピアノ曲をまとめたものだそうです。その曲を、2年前に初めて聞きました。きっかけは村上春樹の「色彩をもたない多崎つくると、彼の巡礼の年」でした。本屋さんに平積みされた単行本を手に取りながら、文庫本になるのを待って、とりあえずCD「巡礼の年」を聴くことにしたのでした。
 この歳になってなぜ村上春樹なのか。100ページほど読み進んで、そんなことを思いました。ほとんどの作品には若い青年が登場します。両手からこぼれ落ちそうな可能性に満ち満ちた青春のひとこま。現実の世界を距離をおいて見つめる青年がいます。不思議な不思議な世界。文庫本を眺めながら、すくなくとも読んでいる時間、私は古き良き時代の扉を開きます。決して戻ることのない世界をさ迷います。
 「雨月物語」をきっかけに古典の世界に足を踏み入れたのも、村上春樹の「海辺のカフカ」がきっかけでした。そういえば、NHKラジオ第二に「朗読」の時間があります。ちょうど昨日、全15回にわたった柳田國男の「遠野物語」が最終回を迎えました。「遠野物語」全119話のほぼ全部、「拾遺」からは天狗・山男・山女・オシラサマなどの話を、井上倫宏さんが朗読しました。毎日月曜日から金曜日の9時45分から15分間の放送なので、録音をしておくのですが、一日の終わりベッドに入って部屋の電気を消したあと、ぼんやりとその朗読を聞きます。現実とは少し距離をおいたところに別の世界が広がります。
 いま聴いている「巡礼の年」は、ラザール・ベルマンの演奏です。「第1年:スイス」では、ウィリアム・テルの聖堂、ヴァレンシュタットの湖で、パストラール泉のほとりで、嵐、オーベルマンの谷、牧歌、郷愁、ジュネーヴの鐘、と流れていきます。若い頃に訪ねたことのあるジュネーブの街がぼんやりと浮かんできます。「第2年:イタリア」になると、婚礼、物思いに沈む人、サルヴァトール・ローザのカンツォネッタ、ペトラルカのソネット第47番、ペトラルカのソネット第104番、ペトラルカのソネット第123番、ダンテを読んで:ソナタ風幻想曲、と続きます。
 話は変わりますが、先日、かつての上司の告別式に参列しました。この春にお会いしたときはずいぶんお元気そうだったのに、その後体調を崩されていたご様子でした。経済団体のお仕事も多かったので、各界の方々がお越しになりました。この秋は、お世話になった経済団体のトップの方もお亡くなりになりました。この方とは仕事のほか何度か本屋さんでお会いしたことがありますが、そのときばかりは秘書を介さない自由人としてのお姿に惹かれたものでした。このほか昭和を象徴する方々が今年も何人かお亡くなりになりました。新たに登場する者あれば退場する者もいる。なにやら時代の移り変わりを思います。
 昨日は職場の忘年会がありました。師走の金曜日、梅田の繁華街は夜遅くまで賑わっていました。あと半月もすれば2015年も幕を静かに閉じます。お正月を前に、先日、庭木の選定作業をしていただきました。そろそろ孫たちにクリスマスプレゼントの手配をしなければなりません。こうして小市民的な年の瀬も静かに通り過ぎていくのでしょう。

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