日々・from an architect

歩き、撮り、読み、創り、聴き、飲み、食い、語り合い、考えたことを書き留めてみます。

壊れた街はつくりなおせるか

2007-01-14 11:52:30 | 東京中央郵便局など(保存)

今朝の(1月12日)朝日新聞の「天声人語」を、そうなんだ、これは僕の言いたいことだと思いながら読み始めた。しかし読み終わってこれは困る、こう言ってはいけない、ことにジャーナリストがこういう認識だと`街が駄目になる`と一言言わずにいられなくなった。
今朝の天声人語のテーマはブッシュ大統領のイラク戦争感だ。

24歳だった息子をイラク戦争で失ったシンディ・シーハンさんが、ニューヨークの集会で述べる。「もう二度と息子の声を聞くことはないのです・・・イラクに大量破壊兵器はなかった・・・何のために息子たちは死ななければならなかったのでしょう」そして天声人語氏はいう。「・・国際社会の多様な声に耳を貸そうとせず、単独行動に傾いて先制攻撃をかけたことが、そもそもの過ちではなかったか」と。そうだと僕も思う。
そしてこう続いていく。「破壊による混沌から秩序をつくり出すことはできず、日々おびただしい命が失われつづけている」『壊れた街ならば、つくりなおすのも不可能ではない。しかし、壊された命をつくりなおすことは誰にもできない』

ふと僕は出たばかりの「東京人」(都市出版)2月号での鈴木博之教授、松波秀子さんと行った座談会(鼎談)を思い起こした。「だから建築保存はムズカシイ」というこの鼎談は、僕の「懐かしい本を持ってきました。先生が1980年にだされた『建築は兵士ではない』(鹿島出版会)です」という一言から始まる。
「兵士と同じく建築も補充すればいいものではない。建築保存でだけでなく人間のあり方にまで警鐘を鳴らす本で・・・」と書かれているが、校正のとき直そうかどうしようかと迷った。微妙に言い回しが違ってしまっている。
若き日の鈴木さんは勢い良く、兵士は「死んでもすぐに補充されて、戦線には異常なしとされてしまう・・・」と書いた。『建築は兵士ではない』。つまり建築は補充ができないと言いたいのだ。天声人語とは正反対の言い方である。しかし僕はあえて直さなかった。

人の命の大切なことはもとより承知の上でアイロニー(皮肉)を込めて述べたのであろうし、だから僕は`人間のあり方にまで警鐘を鳴らす`と言ったのだが、『兵士と同じく建築も補充すればいいものではない』としておいたほうが言いたい趣旨を伝えやすいと思ったからだ。

僕は天声人語を読んできて、天声人語氏の言う『壊れた街ならば、つくりなおすのも不可能ではない』という言い方をしてはいけないと確信した。

街は建築によって構成される。建築は単に箱ではなく建築主の思惑、設計者の思いや技術、施工者・技術者や職人の技、それらを培う社会(経済状況も含めた)や時代の様相、土地の条件やその環境などに満ち満ちている。そして更に建築が介在した時間、時の経緯によって培われてきた人の生活、更に記憶がある。それを文化(かけがえのない)というのではないだろうか。

僕はテレビで砲弾によって苦もなく壊されるイラクの街を見るたびに心が痛んだ。何十年、何百年とかけてつくりあげてきた人々の想いがなくなる。
かつてJIAの理事のとき,JIA会員を中心にして人の命と同じく街を破壊することはあってはいけないと呼びかけ、多くの人々の賛同を得てその方々の名前とともにバイリンガルで記して当時の外務大臣川口順子氏に声明を渡したことがある。そしてJIAのHPにも記載してもらった。

戦争は決して引き起すべきではない。人の命は何物にも変えがたい。同時に「壊れた街ならば、つくりなおすのも不可能ではない」と決して書いてはいけない。建築は、街は、人の命と同じく、壊してしまったらつくり直すことはできないのだ。時は再現できない。


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2 コメント

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時差ボケ男 (moro)
2007-01-19 09:51:06
只今、帰国しました。昨年も目撃したのですが、ヨーロッパでは歴史的建築物の壁面に、第二次世界大戦で撃ち込まれた銃弾の跡を発見することが有ります。バーミヤンの仏像破壊のように有名な事件ではなくても、「ああ、これも人間の所業の結果なんだな…。」と実感します。
メールを送らせて頂きました。ちょっと時差ボケがキツくご無礼あるかと思いますが、何卒お許しください。
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僕も時差ぼけになりたい (penkou)
2007-01-20 09:32:40
「時差ぼけになりたい」僕の思いです。ヨーロッパ、いいですね!ルコ行きは夜行便だったのでなんとなく夜昼がうまくいって、時差ぼけになりませんでした。
戦争の軌跡、壁にあるだけでなく、深く心に刻み込まれるのですよね。
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