田舎住まい

吸血鬼テーマーの怪奇伝記小説を書いています。

日光杉並木への旅  麻屋与志夫

2009-12-10 14:53:45 | Weblog
12月10日 木曜日

●今市水車公園は杉並木公園ともいう。

公園のすぐ上がったところに日光の杉並木がある。

そしてこの辺りは旧道になっているのだろう。

歩行者専用になっているのがうれしい。

カミサンが古民家の撮影に熱中しているので、わたしはこの並木を歩いてみた。

この杉は東照宮造営のさいに川越の殿様が寄進したものだ。

藩の財政がひっ迫していた。

杉の苗をそれで日光街道の両脇に植えることを思いついたというのだ。

記憶にあやまりがあったらごめんなさい。

●カミサンが撮影している茅葺の古民家がわたしを幻境へといざなった。

その民家は母の実家を思い出させた。

おばあちゃんがまだ健在だった。

母と訪れた栃木の田舎のその家の縁側にわたしは座っていた。

前には広々としたレンゲ畑があった。

さわやかな風が薄い桃色の畑から吹いてきた。

風には声がのってきた。

だれかがわたしをよんでいる。

「レンゲ摘みしよう!! 正ちゃん。レンゲ摘もう」

●だれだったろうか。

わたしと同じ国民学校の低学年の少女だった。

わたしは照れくさくて縁側から腰をあげることができなかった。

もしあのとき少女の誘いに応じて一緒にレンゲ摘みをしていれば、美しい思い出が

ひとつふえていたことだろう。

●いたずらに過ぎし日を回顧するのも年のなせるわざなのだろう。

杉並木は陽もあたらずほの暗かった。

むかしの旅人はどんな想いを抱いてこの道を行き来したのだろう。

妙に乾きぱさぱさした道は、草鞋でもはいて歩きたいような風情があった。

●カミサンはまだ来ない。

写真をとるのに夢中になっているのだ。

なにかに熱中しているときのカミサンの顔が好きだ。

●杉並木の古道はひさしぶりでわたしの歩行感覚をよみがえらせたてくれた。

なにもない。

ただ道がどこまでもつづいている。

それだけだ。

●旅。

歩いてこそこそ旅。

そういえば芭蕉が歩いたのもこの道なのだろう。

●歩く。

これからも、カミサンと一歩一歩前に向かってあるきつづけなければいけないの

だ。

歩く先にはなにが見えてくるだろうか。

カミサンがわたしを呼んでいる。

しばしの幻境でわたしは、立ち止まっていた。
  
       

       

       

       


●私事ですが、「星の砂」に「初恋の白いバラ」を載せました。そちらもぜひお読みください。
 


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死ぬときは一緒/奥様はバンパイァ 麻屋与志夫

2009-12-10 08:37:52 | Weblog
奥様はバンパイァ 92

○「帰ってこないほうがよかったのではないのか」

「忘れたの? 長老会でわたしは一年間ここでの生活を延期されたのよ」

「おれに義理だてしなくていい」

「あら、わたしがいちゃいやなの」

「そんなことはない。mimaこそ……まだまだ生きられるのに……」

「死ぬ時は一緒に。そういう約束したわ」

「それほどの……敵なのか」

カミサンはだまってしまった。

唇をきゅっとひきしめる。

前方をぐっと凝視する。

彼女のみつめるさきに。

Yモールの地下への階段が。

黒々と洞窟の入り口みたいに開いていた。

「ぼくらが大麻ファクトリーとして使用していた時と感じがちがう」

武と玲加が寄ってきた。

ふたりともバイクのオイルと排気ガスのにおいをみにつけていた。

「わかるのね? 武。これってものの腐ったにおいだわ」

玲加と武を見ていると、Gはむかしmimaと会ったころのことを思い出していた。

田舎街での陰鬱な日々の中に白いバラが咲いた。

彼女に会ったときGはそう感じた。

決戦の時きがそこに迫っている。

だからパノラマ現象のようにいままでのことが浮かんでくるのだ。

「いくわよ」

玲加が武の後ろのノボルに気合いをいれる。

「オス」

ノボルのうしろからも雄叫びのような声がもどってきた。

○地下室には妖気が満ちていた。

悪意ある妖気が渦をまいていた。

大麻ファクトリーとして稼働していた器械類はすべて運び出されていた。

だがまだ立ち入り禁止の黄色いテープが張られていた。

「なんだこの臭いは? ヤッラを追いかけてきてここにもぐりこんだ時にはこんな臭

いはしていなかった」

「ものの腐る臭いよ。今どこの家にも冷蔵庫があるから、若いひとには馴染みのな

い臭いなのね」

そして地下室には妖気が満ちていた。

悪意ある妖気が渦を巻いていた。

妖気の中から、巨体の男や女の群れが浮かび上がった。

地下室にいま侵入したものたち、GとM。

玲加と武。

そしてノボルの背後の人狼の若者たちも、特殊な能力を備えている。

だからこそ、妖気の渦のなかに肥満した男女の兇暴な顔を看破できたのだ。

肥満した体を同じように揺すりながら迫ってくる。


●私事ですが、「星の砂」に「初恋の白いバラ」を載せました。そちらもぜひお読みください。
 


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