田舎住まい

吸血鬼テーマーの怪奇伝記小説を書いています。

死ぬときは一緒/奥様はバンパイァ 麻屋与志夫

2009-12-10 08:37:52 | Weblog
奥様はバンパイァ 92

○「帰ってこないほうがよかったのではないのか」

「忘れたの? 長老会でわたしは一年間ここでの生活を延期されたのよ」

「おれに義理だてしなくていい」

「あら、わたしがいちゃいやなの」

「そんなことはない。mimaこそ……まだまだ生きられるのに……」

「死ぬ時は一緒に。そういう約束したわ」

「それほどの……敵なのか」

カミサンはだまってしまった。

唇をきゅっとひきしめる。

前方をぐっと凝視する。

彼女のみつめるさきに。

Yモールの地下への階段が。

黒々と洞窟の入り口みたいに開いていた。

「ぼくらが大麻ファクトリーとして使用していた時と感じがちがう」

武と玲加が寄ってきた。

ふたりともバイクのオイルと排気ガスのにおいをみにつけていた。

「わかるのね? 武。これってものの腐ったにおいだわ」

玲加と武を見ていると、Gはむかしmimaと会ったころのことを思い出していた。

田舎街での陰鬱な日々の中に白いバラが咲いた。

彼女に会ったときGはそう感じた。

決戦の時きがそこに迫っている。

だからパノラマ現象のようにいままでのことが浮かんでくるのだ。

「いくわよ」

玲加が武の後ろのノボルに気合いをいれる。

「オス」

ノボルのうしろからも雄叫びのような声がもどってきた。

○地下室には妖気が満ちていた。

悪意ある妖気が渦をまいていた。

大麻ファクトリーとして稼働していた器械類はすべて運び出されていた。

だがまだ立ち入り禁止の黄色いテープが張られていた。

「なんだこの臭いは? ヤッラを追いかけてきてここにもぐりこんだ時にはこんな臭

いはしていなかった」

「ものの腐る臭いよ。今どこの家にも冷蔵庫があるから、若いひとには馴染みのな

い臭いなのね」

そして地下室には妖気が満ちていた。

悪意ある妖気が渦を巻いていた。

妖気の中から、巨体の男や女の群れが浮かび上がった。

地下室にいま侵入したものたち、GとM。

玲加と武。

そしてノボルの背後の人狼の若者たちも、特殊な能力を備えている。

だからこそ、妖気の渦のなかに肥満した男女の兇暴な顔を看破できたのだ。

肥満した体を同じように揺すりながら迫ってくる。


●私事ですが、「星の砂」に「初恋の白いバラ」を載せました。そちらもぜひお読みください。
 


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