田舎住まい

吸血鬼テーマーの怪奇伝記小説を書いています。

風花/吸血鬼ハンター美少女彩音  麻屋与志夫

2008-08-10 12:55:16 | Weblog
63

 ひとりぼっちになってしまった。
 でも師範の教えは守る。
 文美の教えは守る。
 これから舞の練習に励む。
 なにが起きても。
 練習は休まない。
 一日でも休めば、体の動きが鈍る。
 彩音は舞扇を手にしていた。
 廊下に出た。
 廊下の向かう先は、稽古場だ。
 通夜の晩でも舞う。
 それが文美バアチャンへのいちばんの供養になる。
 文音は広い廊下にただひとりだった。
 お通夜に大勢のひとが集まってきた。
 さわさわと人の立ち騒ぐ気配がする。
 わが家をはじめて大勢の人がいっぱいにした。
「わたしにまかせてね」
 美智子先生が割烹着姿で全部采配をふってくれた。
 麻屋先生が通夜の客の応対はしてくれている。
 ご夫婦にすべてまかせた。
 彩音は廊下に立っていた。
 磨き込まれて黒光りする廊下だ。
 庭には風花が舞っていた。
 また春の雪になるのかしら。
 松をきらっていた。
 バアチャンは「まつ」という言葉がきらいだった。
 庭には、ナラやクヌギ、雑木林の風情がある。
 街中なのでさほど広くはない。
 そでも五百坪はある庭だ。
 樹木がいりくんでいる。
 見通しがきかない。
 どこまでも林がつづいている。
 無限の広がりを感じさせる。
 冬も終わりだが、樹木が芽をふくのにはまだ間がある。
 風花がいっそうはげしく舞いだした。
 雪になるのかもしれない。
 屋敷林の奥から、人影が浮かび上がった。
 裏木戸からはいったのだろう。
 白いコートをきている。
 立ち姿がバアャンに似ている。
 白い人形(ヒトガタ)の影が舞の所作をしている。
 『風花』の舞だ。
 オバアチャンの精霊かもしれない。
 でも同じ舞の所作なのだが、どこかちがう気もする。
 剛毅な感じがない。
 ふわっと風に舞う一片の雪のようにはかなく美しい。
 ちがう、どこかで警鐘がなっている。
 じぶんの鼓動がきゅうに高鳴った。
 ちがう、あのひとは戦っているのだ。
 風花の舞の所作だが右手がちがう。
 右手の動きはまさに目前の敵と戦っている。
 なにか武器を手にしている。
 うねるような害意が左右からその人に迫っている。

 彩音は庭に走りでた。

「文美バアチャン」
 いままでの彩音だったら感知できない。
 なにかイヤな気配がある。
「オバアチャン」

     応援のクリックよろしく。
     にほんブログ村 小説ブログ ファンタジー小説へ
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

風鈴/吸血鬼ハンター美少女彩音  麻屋与志夫

2008-08-10 08:36:08 | Weblog
62

 司が文美を抱え上げた。
 救急車を呼ぶまでもない。
 文美は息絶えていた。
 鹿沼流の家元、舞い名手は舞いながらその最期をしめくくった。
 舞いながら死んでいけて本望だっただろう。
 彩音に終りの舞い『朽ち木倒し』を伝授できた。
 満足だったのだろう。
 いい死に顔をしていた。
「彩音ちゃん。本当の悲しみはこれからやってくる。ぼくが、これからは、いつもついているから。いやでも、彩音ちゃんのそばについているから」
「いやなわけナイデショウ」
 文美の亡骸が目のまえにある。
 こんなときなのに、彩音は動悸が高鳴った。
 こんなときだから、また泣きだしたいほどうれしかった。
 よかった。
 ひとりぼっちにならないですんだ。
 司がいる。
 麻屋のオッチャン先生。
 慶子。
 美穂。
 静。
 大勢の仲間がいる。

 宮部校長がすぐそこまできている。
 神田と談合していたのは、校長だった。
 楔はもうつきた。
 どうする。
 まさか、校長先生に斬りつけることはできない。
 どう戦うの。
 どうすれはいいのよ。
 赤目をしていただけの校長を鬼切りで切り倒すことはできない。
 あのひとたちは、感染症吸血鬼なのだ。        
 仮性吸血鬼だ。
 彩音と慶子はよろめきながら身をひく。
「きみたちうちの生徒だね。ここでなにしてるんだね」
 宮部の両眼から赤味が消えている。
 吸血鬼を倒したからだ。
 親バンパイアを葬ったからだ。
「きみはどのクラスの生徒なの」
 彩音をみる目がかぎりなくやさしい。
 彩音の名前も。
 今までに起きたことも。
 なにもかも記憶にないらしい。
 吸血鬼の呪いはとけていた。
 真正吸血鬼の神田を倒したからだ。



     17

 文美の通夜。
 彩音だけになってしまった広すぎる家。
 鹿沼流の稽古場のある古い家が一門の通夜の客を迎えている。
 風鈴が風になっていた。
 南部鉄の風鈴だ。
 春なのに、冬の風鈴の趣がある。
 鹿沼は京都のように盆地にあるので、夏には風通しが悪く、多湿。
 冬は寒く風が強いのよ。
 いつまでも冬が残っている。
 春が来るのが遅いのよ。

 よく文美バアチャンがいっていた。
 風鈴が鳴っていた。
 風鈴の音がよくひびく夜だった。
 その風鈴を楽しむ文美はいま棺のなかだ。
 彩音は涙ぐんでいた。
 泣いていた。

    1日1回のクリック応援よろしく。
    にほんブログ村 小説ブログ ファンタジー小説へ

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする