田舎住まい

吸血鬼テーマーの怪奇伝記小説を書いています。

一子相伝/吸血鬼ハンター美少女彩音 麻屋与志夫

2008-08-09 04:55:52 | Weblog
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『朽ち木倒し』
 鹿沼の里で温かくうけいれられた巡礼。
 彩音の遠い祖先。
 が……。
 土地の悪霊と刺しちがえて死ぬ。
 温かくうけいれてくれた里びとへの報恩。
 悪霊にしがみつく。
 おのがからだを犠牲とする。
 朽ち木が倒れるように悪霊とともに死ぬ。
 鹿沼流の『終りの舞い』はそう呼ばれていた。
 舞いの奥義がすべてこめられていた。
 降りしきる雪のなかに朽ち木のように伏す舞い手。
 話しには聞いているが彩音もまだ見たこともない。
「おばあちゃん」
 なにいっているのかしら。
 ?????
 彩音が文美に呼びかけた。
「どうしたの」
 
 その瞬間だった。

 彩音に飛びかかろうとする神田に文美が優雅な舞いの仕種のまま、しがみついた。
 こうでもしないとコイツは倒せないのだよ。
 
 彩音よく見てね。
 
 文美の沈黙の声が彩音の頭に直接ひびいてきた。
 文美の白刃が神田の首につきささった。
 そのいきおいで、真一文字に切り裂いた。
 首から青い血が飛び散る。
 神田の首がくっとたれさがる。
 
 とどめ。
 とどめだよ。
 彩音。

 彩音は必死で神田の心臓に『鬼切り』を差し込んだ。
 さしこんでおいて抉った。
 青い血が吹き出している。
「バアチャン」
「彩音、彩音がこの技をつかうのは百年早いからね」
 鹿沼の語り部。
 文美の背中に神田の鉤爪が突き通っていた。
 手術用のメスのように鋭い。
 鉤状に曲がっている。
 半月型の外側にもシャープな刃がついていた。
 こんなもので、突き刺されては、助かるわけがない。
 それを承知で文美は彩音のために神田にしがみついたのだ。
 
 吸血鬼は首を切り離す。
 心臓を抉る。
 
 それで消滅させることができるのだ。
 首を切られたのに文美の背中に生えた神田の腕は。
 鉤爪は、まだひくひく動いていた。
「バアチャン。死なないで。わたしをひとりにしないで」
 彩音の呼びかけに文美は応えられない。
 震える手で、赤い柄の刀を彩音のほうへさしだした。

『朽ち木倒し』だよ……。

 文美の最後の意識が彩音に流れ込んできた。
 いつもこの『朽ち木』の剣と『鬼切り』はもっているんだよ……。
 司は上沢の分家の男。仲よくしてね。
 彩音には、甲源一刀流の太刀筋を司の剣さばきに認めたときから、もしやという予感があった。
 ふたりで、この鹿沼を守って。
 それが鬼と対立する守護師の務めだからね。
 故郷の自然を。
 鬼の蹂躙から。
 鬼に踏みにじられることから。
 ……守るために。
 彩音は生まれてきたのだから……ね……
 わたしはおまえと一緒……だよ。
 いつもいっしょにいるからね。
 それで、とぎれた。
 ながいこと彩音のそばに、いつもいた文美の意識がとぎれてしまった。
「バアチャン」
 文美をだきしめて、彩音は泣いていた。
 涙がとめどもなくほほを伝った。
 まだみたこともない父と母にかわって、幼いころから育ててくれた文美オバアチャン。
 彩音のそばを離れずいつも見守ってくれていたオバアチャン。
 それなのに、もう彩音の呼びかけに応えてくれない。
 鹿沼流の奥義『朽ち木倒し』を身を持って伝授してくれた。
 ありがたい舞の師範でもある。
「彩音ちゃん。これからぼくらの戦いがはじまるのだ」
 司が彩音の手をぐっとにぎった。
「文美さんは、体をはって、一子相伝の鹿沼流の奥義を伝えてくれたのだ」
「わかっているの。でもいまだけでいいから……泣かせて」
「涙が止まらないのよ」
 文美の体から温もりが消えていく。
 冷えていく文美を彩音はいつまでも抱きしめていた。

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