田舎住まい

吸血鬼テーマーの怪奇伝記小説を書いています。

涙の再会/吸血鬼ハンター美少女彩音 麻屋与志夫

2008-08-11 04:47:45 | Weblog
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 その人は振り返った。
 文美の若いときの写真とそっくりだ。
「彩音……」
 その人は舞ながら澄んだ声で呼び掛けてきた。
「こないで。バァンパイアよ」
 その声をきいただけで彩音は気づいた。
「おかあさん……おかあさん、でしょう」
 そのひとは金属ムチを手にしていた。
 闇にとけこみ異形ものがうごめいていた。
「あんたら、なによ」
「あたらしく鹿沼を仕切ることになった稲本ってもんだ」
「あら、吸血鬼さんが自己紹介できるんだ」
「ヌカセ」
 闇のなかでザワッと殺気がふくれあがった。
 金属ムチがうなる。
「おかあさん、これ使ってみて」
 舞扇を投げる。わたしには、あれからかたときも放さない鬼切りがある。
「あっ。仕込み扇。皆伝をゆるされたのね」
 そのひとは、右手に舞扇。左手にムチを持った。
 両手を下げ八の字に構える。
 彩音は『鬼切り』を正眼にかまえた。
 稲元はひとりではなかった。
 黒い影が生臭い臭いをたてておそってくる。
 両手にムチと剣を手にして母が舞っている。
 剣のさきに、ムチのさきに鱗の皮膚をきりさかれた吸血鬼がいる。
 ヤツラの怒り狂った唸り声がする。
 稲本の腕が文音をおそう。
 鋼の腕だ。
 鋼の爪だ。
 見切ったはずだ。
 いや、完璧に見切った。
 鉤爪は文音の顔面すれすれまでとどく。
 なんという速さだ。
 なんという長さだ。
 パンチがゴムのように伸びてくる。
 そしてその先きには鋭い爪のナイフ。
 吸血鬼におそわれたときの痛みはまだ彩音の体にのこっている。
 ゾクっと恐怖が背筋を流れた。
 母のムチが稲本の腕を切り裂いた。
 その一撃が瞬時遅れていれば、彩音の顔は裂かれていた。
「油断しないで、超A級のバァンパイアよ」
「わかってるんだな」
「ペンタゴンの記録にあるほどのヤツよ」
「そうか、アンタはアメリカ国防局のVセクションのエージェントだな」
「彩音の母よ。文葉とおぼえてよ。これ以上まだやる気なの? けがではすまなくなるわよ」
「お母さん。ありがとう」
「礼はあとで、コイツラ、パワーアップしてるからね」

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