田舎住まい

吸血鬼テーマーの怪奇伝記小説を書いています。

逆襲/吸血鬼ハンター美少女彩音  麻屋与志夫

2008-08-15 10:30:35 | Weblog
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 解体業者の人夫が恐怖のあまり手放したホース。
 河原の小石の上で蛇のようにのたうっている。
 白骨が飛び散り。
 わあわあわあと叫び声を上げている。
 白骨は人柱ではないだろう。
 とっさに人柱と叫んだがもっと古い。
 吸血鬼の犠牲になったものたちの骨だろう。
 川の流れを真っ赤に染めたというひとびとの骨だろう。
 だいいち明治の御世まで人柱の風習があったという話はきいていない。
 人夫は腰を抜かしている。
 恐怖のはげしさから動けない。
 白骨の山からは、どす黒い邪悪な霊的パワーが噴出した。
 橋の取り壊しにあって何百年も閉じ込められていた怨念のパワーが解放されてしまったのだ。
 虚空に吹きあがった凶念が空を暗くした。
 次元の裂け目が広がり、ああ純平と澄江の霊とともに消えていたコウモリが逆流してきたではないか。
 
 どこかで、稲本の冷笑がひびいている。
 
 逆流してきたコウモリはいぜんにもまして大群となって空を黒くおおってしまった。
 パタパタという邪悪な羽ばたきがする。
 空を飛ぶ唯一の哺乳類。
 コウモリ。
 血を吸うモノの変形の姿。
 作業員は黒い蜂球のようにコウモリにし吸い付かれてしまった。
 コウモリの塊のなかで作業員の断末魔の声がひびく。
 麻屋が消災吉祥陀羅尼をとなえだした。
 川のこちら側、街の西地区にバリアをはる。
 それしか手はない。
 長く高い霊的障壁をはって邪気をまきちらすコウモリの飛翔を阻む。
 とっさに麻屋が考えたのはそのことだった。
 河原ではコウモリが勝ち誇るように、ふたたび空にまいあがる。
 つぎなる生け贄をさがすレギオンだ。
 作業員は瞬く間に血を吸い尽くされた。
 干からびたミイラとなってしまった。
 コウモリには怨霊がのりうつった。
 攻撃的になっている。
 ノウマクサンマンダバァサルダボオタナンアバラテイ。
 神田との戦いの疲れ、通夜の不眠。
 思うように念が凝集しない。思わずよろけた。
「先生」
「バリヤははった」
 壊された橋の上空から飛び込んでくるコウモリの大群は余韻くすぶる東地区の方角に飛んでいく。
 河原にはだがまだかなりのコウモリが重なり合って飛んでいる。
 西岸に飛翔したコウモリは麻屋の念の壁にはばまれる。
 侵入してこられない。
 壁は透明だ。
 コウモリの顔がゆがむのがみえる。
 コウモリはこちらに侵入できない。
 何匹かはふるえながら、地面におちた。
 鹿沼の空が、もとの青さをとりもどしていたのに、いまは以前にもまして暗い。
 昼なのに、暗い。
 ほんのひとときの平和だった。
 
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