田舎住まい

吸血鬼テーマーの怪奇伝記小説を書いています。

九牙/吸血鬼ハンター美少女彩音 麻屋与志夫

2008-08-19 07:40:09 | Weblog
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「バリアはいつまでもちますか」
「ながくて12時間だろう。それがすぎたら黒川の向こう岸、東地区だけではない。この舟形盆地全体がコウモリインフルエンザと杉花粉を含んだ黒い霧におおわれてしまうはずだ。一刻もはやく街を脱出したほうがいい」
「おとうさん、なんとかおとうさんたちの組織の力でならないの。……鹿沼の守護師として生きてきたのに。吸血鬼ハンターとして鹿沼で生きていきたいのに。彩音はいやだよ。わたし逃げたくない。友だちがおおぜいいるのよ」
「もう手遅れだろう。家がこちら側にある生徒だけしか助からない」
「慶子、おかあさん、呼ぶといいよ」
 彩音が慶子にいう。
「鹿沼をでるしかないわね」
「おかあさんまで。病院まで危険なの。消毒を徹底している病院まで危険なの。……そんなこといわないで」
「汚染されていな人とがどれくらい残っているか、わからないのよ」
「文葉のいうとおりだ。ここは鹿沼をでるしかないだろう」
「なにが鹿沼の守護師よ。わたしじぶんがはずかしいよ。麻屋先生なんとかならないの」
「個々の戦いなら負けはしない。だが敵はウエルスだ」
「ヘリで閃光弾をうちこんだらどうかしら。上空から火炎放射器をあの黒い霧にあびせてみたら」
「街も焼けてしまう。吸血鬼に支配されても全員死ぬわけではない。ほとんどの人はいままでどおり生きつづけていける。いままでと何の変わりもない生活を。ウエルスにおかされていることも知らずに生きつづけていくだろう」
 源一郎が悲痛な顔でいう。

「封印を逆に解いてみるか。どうして、それに気づかなかったのだ。玉藻さまはなかば覚醒している。再臨の準備はほとんどととのっているはずだ。みずからを封印した千年は経過している。わたしの力で(フオース)なんとか玉藻さまを召喚してみよう」
 麻屋が決然といいはなった。

 一同が稽古場に集まった。
「日あげ」が済んで帰り支度をしていた鹿沼流一門の女たちが全員文葉と彩音を中心に序の舞『鹿入り巡礼』を舞いだした。
 巡礼の姿は、可奴麻に逃げてきた玉藻の前を模したものであったのだろう。
 みずからを封印し、千年の眠りにつくために、この鹿沼の原野を尾裂山にむかって雪の中をさまよっていたのだ。
 床が微動する。
 麻屋が封印の呪文を逆に朗々と謡いあげている。
 微動がはげしくなる。
 床が地下から光りだした。
 光は黄金色の噴水となってわきあがった。
 昨夜のように、玉藻が現れた。
「わたしを呼んでいたのはあなたたちですか」
 光が川端家のすみずみまでいきわたった。
「呼び起こされるとは思わなかった。まだねていたかったのに」
 少女のようないたずらっぽい笑い。
 これが千年を閲した伝説の九牙の技を使う巫女、玉藻の前なのか。

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