田舎住まい

吸血鬼テーマーの怪奇伝記小説を書いています。

吸血鬼/浜辺の少女        麻屋与志夫

2008-04-15 20:26:42 | Weblog
4月15日 火曜日
吸血鬼/浜辺の少女 2 (小説)
 白いワンピースなのに青味をおびた色。そう感じるのは、隼人が野州大学の油絵専攻の学生だからだ。長い年月きているので古くなって色変わりした。と、隼人は見た。剣道で鍛え上げた体からは、隼人画家志望であることを想像できるものはいない。
 ……浜辺の少女だ。
 スレンダーなウエスト。いまどき、あまり見かけない長めのワンピース。薄茶色の革のベルト。色褪せていた。すべてが古風だった。
 だがなんと清楚な姿なのだ。
 正面から浜辺の少女の顔を見たい。
 顔の印象だけがわからない。
 体からは清冽な雰囲気がにじみでている。容貌だけが漠然としている。
 ……少女の顔が見たい。その思いだけでついてきた。ストーカーまがいの行動だ。
 彼女のおりたのは、なんと鹿沼駅。宇都宮をでて鶴田、その次の駅だ。わずか14
分。宇都宮の郊外といってもよい。だから、ときおり両市の合併問題が持ち上がる。鹿沼と宇都宮の間に路面バスを走らせる計画もある。
 鹿沼は隼人の住む街だった。
 その偶然に隼人の……後姿しか見ていない少女への想いはさらに強いものとなった。
 少女には影がなかった。
 金髪が風にゆれている。
 夕焼けに向って歩いている。
 長い影が歩道に映るはずだ。
 それなのに、少女の影がない。
 隼人は悪寒におそわれた。画家志望ではあるが、祖父に子どものころから剣道を厳しくしこまれている。皐家は、古流剣法死可沼流を受け継ぐ家柄だ。
 剣士の誇りに冷気が走る。間合いに入っている。
 この距離だと隼人は彼女の影を踏むはずである。
 いつでも打ち込める。彼女に息がかかるほど接近している。それなのにない。
 影がないのだ。
 なぜだ。なぜなのだ。
 西日を真向いからうけている彼女の影は、隼人の足元に達しているはずだ。それなのに、影が歩道に映っていない。
 隼人は彼女を追いこした。
 ふりかえった。
 少女がいない。
 少女の気配がきえた。
 ……ふふふ、と隼人の耳たぶに熱い息がかかる。
 チクンと首筋に痛みを感じた。
 針で軽くつつかれたような痛みだ。
「ついてきたのね。ワルイコ」
 澄んだハイトーンの声。少女は隼人の背にはりつくように立っていた。
 そして、顔はいかなる画家の天才をしても絵がえぬ美しさだった。
しいて、西洋絵画のなかにそのカテゴリを探すならば、フェメールの<青いターバンの少女>に似ていた。
 心にしみこんでくる。
なつかしい、けがれをしらぬ……おののくような清純な美しさだった。
いつのまにか髪は黒く、肌も色白の日本人のものにかわっていた。
「あなたは……」


コメント
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