田舎住まい

吸血鬼テーマーの怪奇伝記小説を書いています。

パソコンの中のアダムとイブ

2008-04-11 07:26:42 | Weblog
4月11日 金曜日
パソコンの中のアダムとイブ 11 (小説)
 放射線治療がおわった。その効果がどうなるのか。ゆっくりと歩きながら考えたかった。
 歩くのにはなれている。それに、放射線をあてたために副作用で痔がでてしまった。キリコの車のシートに座るより歩いたほうがらくだ。もの書きとしての生活がながいので、座業だ。一日の大半を座って過ごしてきた。痔を患うことはあった。放射線がわるさをしたのだろう。こんどはかくべつ辛い。
 雷雨があったらしい。
 道にはいたるところ水たまりができていた。おおきな水たまりだ。避けようと車道のほうへ体を傾けた。轟音。とっさに、雷雨がもどってきたのかとおどろいた。そして、衝撃。はじきとばされた。暗転。

「もう、あんたぁ、ドジね。コイツ足をくじいただけじゃないの」
 会話をきいただけで、ふたりがどういう間柄かわかる。
「こいつの女房を川に転落させたときの、あの女の恐怖にひきつった顔が、ちらついて思うようにハンドルきれなかった」 
 ふたりの会話で美智子が事故で死んだのではないことを知った。
 美智子は釜川に滑落して死んだのではなかった。美智子のむごたらしい死を知らなかった。わたしは、殺人犯の共犯と結婚した。いくら、身のまわりの世話をしてもらうために結婚にふみきったししても、これは美智子への裏切りだ。許してくれ。なにも知らなかった。
 許してくれ。
 どうせ入選するあてもない原稿だ。
 投函などたのまなければよかった。
 まだまだ生きていられたのに。ごめん……美智子。

「あんたは、いつもドジよ」
 キリコがわめいている。足がすごく痛む。声がでない。頭をうった。脳しんとうでも起こしているのだろうか。

 木の香りがする。どうやら製材所らしい。
 キーンキーンという金属音が迫ってくる。
 音はゆっくりと、接近してくる。
 薄暗がりなので人影しか見えない。
 黒いふたりのシルエット。
 大声でしゃべっているのはキリコ。
 コイツとはわたしのことらしい。わたしは殺されかけている。うそだろう。キリコがこんなことをするわけがない。
 うそだ。なにかのまちがいだ。
 悪夢だ。悪夢からさめてくれ。さめてくれ。これは、悪夢だ。さめてくれ。だが、トラックはねられてくじいた足の痛みはほんものだ。頭もずきずき痛む。
 近寄ってくる。丸ノコギリのひびき。
 たけだけしい怪鳥の叫び。迫ってくる。

to be continue
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする