■ 私の“ 道標 ”ともいえる塗師・山本英明さんが、逝去されました ■
2010.12.6 中村洋子
★福井県鯖江市の塗師 ( ぬし ) ・山本英明さんが、
11月30日に、逝去されました。
1940年生まれ、70歳。
暖かく、やさしく、威張らない英明さんを慕い、
本当にたくさんの方が、通夜、葬儀に駈けつけられたそうです。
★英明さんは、私にとって、
人生の 「 道 標 」 というべき方でした。
悲しく寂しい思いで、一杯です。
心より、ご冥福をお祈りいたします。
★ “ 最高の品質で、最も美しい漆器を、安価で提供し、
それを日常の什器として、毎日毎日、使って欲しい ” 。
そういう理念を掲げ、どこまでも愚直に、
いささかの妥協もせずに、一生を貫かれた方です。
★山本さんの漆器は、現代の日本で、
工芸品が到達した美しさの極み、といえそうです。
形は、寸毫たりとも変えようがないほど洗練され、
力強く、かつ洒脱。
一見地味ですが、毎日毎日使っても飽きず、
使えば使うほど堅牢になり、美しく光ります。
器に盛ると、食べ物が存在感を主張し、より美味しくなります。
★漆の精製も、古来から伝わる方法を、そのまま、実践。
真夏の炎天下、大盥に入れた生漆に、直射日光を浴びせ、
一日中、木の大きな杓子で、かき回し続けます。
電熱器で、安直に水分を飛ばすより、
汗を流し、手間を掛け、太陽で “ 煮詰める ” ほうが、
扱いやすく、質の高い漆ができる、
という単純な、理由からです。
現在の日本で、この骨の折れる作業をするのは、
山本さんだけです。
★木地から仕上げまでの何十工程も、一切の妥協、手抜きなし。
「 最高の漆器を、日常の什器として使うべき 」 、
これが、山本さんの哲学です。
そのため、 「 伝統工芸品 」 や 「 人間国宝 」 など、
上から与えられる権威を、否定します。
★これらのレッテルには、官とお役人が介在し、
値段が高くなるだけで、「 なに一つ、いいことがない 」 。
そして、黙々と、超然と、
一般人が購入できる価格で、作り続けました。
毎日、英明さんのお椀を手に取るたび、
その使い心地の良さに感心し、心が豊かになります。
★工房は、雪国・福井県鯖江市から、少し内陸部に入った、
「 河和田 」 という、山里にあります。
森と、川と、海に囲まれて育ち、そこで生き、去りました。
私の知る限りで、俗な言葉ですが、最高のグルメ、
最も鋭敏な、味覚の持ち主でした。
★古代遺跡から、漆の遺物が出土した、と聞くと、
どんな遠くでも、飛んでいき、実物を調べ、
徹底的に、研究された方です。
漆に限らず、木、林、森、山、川、獣、鳥、魚、
自然界の、あらゆる生態について、
彼ほど、現場に行き、実際に、自分の手で触り、
自分の眼で確かめ、見極め、その結果として、
深い知的認識に到達するという、営為を、
日常的になさっていた方は、いないと、思います。
もっと、もっと、お話を聴きたかった、という思いです。
★英明さんは、学者や専門家などと、
一般的に言われる 「 権威 」 を、一切信用されません。
世に言う “ 専門家、 学者 ” という方々が、
本当の専門家や権威ではない、ということを、
自らの体験から、知悉されていたからです。
弟子もとらず、徒党を組んだり、群れることもせず、
名誉を求めず、孤高を保ち、
間違ったこと、おかしなことには、
遠慮なく直言し、臆せず堂々と、抗議される方でした。
★そんな英明さんに、出会いましたのは、1998年のことです。
彼と、出会うことが無ければ、
私は、 ≪ 日本の立派な音大の先生は偉い ≫ 、
≪ 分厚い音楽書に書かれている解説は、正しい ≫ と 、
いまでも、思い込んでいたかもしれません。
いつも、心の底では、それらの解説に対し、
“ 何か変である、おかしい ” 、という疑念はありましたが、
“ 自分の理解が、足りないからだろう ” と、
自分を、責めていました。
★しかし、中山悌一先生と出会い、
クラシック音楽が、こんなにも自由で、厳めしくなく、
豊かである、ことを知り、そして、
英明さんと付き合うことにより、とことん、
自分の手で、疑問を追及し、
自分の目で、原典 ( = 現場 ) を調べることを覚えました。
★また、 “ 権威 ” が、いったん文章にしたものは、
どんなに間違っていても、後世まで残り、
それが “ 真実 ” と、されてしまうため、
余計に、疑わなければならない、
ということを、教わりました。
その結果、日本の権威が、こんなにも、いかさまで、
実は権威ではなかった、ということを知り、
私自身の 「 呪縛 」 を、解いていただきました。
★NHKの放送でよく、「日本を代表する・・」 とか、
「 ・・の専門家によりますと 」 という表現が、使われますが、
音楽に関しても、他の分野に関しましても、
その日本の基準というものが、実は、
世界の本当のスタンダードからは、かけ離れている、
ということが、英明さんとお付き合いしながら、
実感するように、なりました。
★ 「 バッハ 」 に関しましても、
バッハを心から愛している方が、たくさん、いらっしゃるのに、
偽りの権威により、偏狭な演奏法を押しつけられ、
痛めつけられている方が、多いことに驚かされ、
悲しい思いです。
★私のアナリーゼ講座は、バッハの音楽を演奏し、聴き、
喜びを共有することを目的に、始めたものです。
しかし、私の本分はアナリーゼ講師ではなく、作曲ですので、
中山先生や、英明さんにより、
少しずつ獲得することができました 「 自由 」 、
頚木から解かれた 「 自由 」 により、
出来上がりました作品が、日本以外の国で温かく迎えられ、
評価されていることは、嬉しいことです。
★今朝、ラジオで、ベートーヴェンの ピアノソナタ 「 熱情 」 を、
W・ケンプの演奏で、ハ短調 「 Op 10-1 」 をポリーニの演奏で、
放送していました。
ケンプの熱情を聴きますと、一点の疑念もないほど、
曲の構成がどのように出来ているかが、分かり、
美しい、見事な演奏でした。
本当に価値のある、素晴らしいものは、
「 分かりやすい 」 ということが、いえます。
★難解であったり、煙に巻くような 、
「 解説 」 や 「 演奏 」 は、本物では、ないでしょう。
誤魔化しているのです。
それが、中山先生や英明さんから得ました、結論です。
ラジオの解説で、ポリーニが弾きました Op10-1 の作品は、
「 若い時の作品で、未熟な点がある 」 と、話されていました。
バッハの 「 平均律クラヴィーア曲集 」 の中の、ある曲を、
“ 若い時の作品で、未熟 ” であると、
フォルケルが、誤った解説を残したことにより、
今に至るまで、それが孫引きされ、流布していますが、
このラジオ解説も、同じ考え方からきているのでしょう。
★たしかに、若い時の作品ですが、
若いから未熟ということは、この大天才たちには、ありません。
ベートーヴェンの残した、膨大な習作群やスケッチ、
つまり、各年代にわたる ( 歳とってからのものも含め )、
作品としては完成しなかった作品 ( 作品番号がない ) の、
ファクシミリを見ますと、確かに、
それらは、熟していない作品です。
それゆえ、公表しなかったものです。
★しかし、作品番号が付され、
自分の作品として、公表されたものは、
その年代の 「 スタイル=様式 」 と見るべきで、
「 未熟 」 という概念からは、かけ離れています。
私はどこが 「 未熟 」 なのか、サッパリ分かりません。
ラジオを、お聴きになった方が、
「 ベートーヴェンの初期の作品は、未熟 」 という、
変な考えに囚われれしまうことを、危惧します。
★Opus が付けられている、ということは、
世に問うて恥ずかしくない、立派な作品であると、
作曲家本人が考えたと、みていいでしょう。
日本人作曲家が、自分の作品に、
闇雲に何十個のOpus番号を、付けているのとは、
話が、違うのです。
★写真のお椀は、英明さんの遺作といえる2007年作。
すべての、技術を注ぎ、
最高の檜で、作られた 「 宝物 」 です。
★英明さんは、次のように、このお椀を説明されています。
≪ ぬしや ( 塗師屋 ) の証として、かねてより、
まだ動力をもたなかった先人達が、木の習性に従い、
木に作法を聞きながら作っていたようなお椀を、
手掛けてみたいと思っていました。
木地の材は、日本の木の代表といわれる檜です。
そしてこの度、裏木曽で長年かかって大きくなった
望みどおりの檜に恵まれ、夢の実現に至りました。
昔の人であればナタ、チョンナ、ヨキなどを道具に、
横木を割り木にし、木目を傷付けないように順手で
椀木地にしたでしょうが、現代に生きる私は、そのままの
方法を機械に置き換えてやってみました。
木から学んだ形は無理なく、素直で、美しいと改めて
思っています。やんちゃな英明が作ったお椀です。
楽しんでくだされば幸いです。
2007 塗師 山 本 英 明 ≫
■山本英明さんの漆器の取り扱い: 漆宝堂
〒331-0073
埼玉県さいたま市西区指扇領別所109-93-3-513
TEL 048(622)2725
FAX 048(623)0725
フリーダイヤル 0120-4810-55
( 白侘助、紅葉、万両、千両、昼の月 )
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私の父の弟の長男です
わたしの父は私が生まれて2か月で亡くなったので
英明さんの父 吉郎(山本家へ養子)
子供の頃 よく一緒に遊んでもらいました
今では本当に良い想い出です
中村さんのブログを拝見し 故人になりかわり
暑く御礼致します
私のフエイスブックでシェアさせて頂きました