■Mozart Piansonata B-Dur KV.333の自筆譜を、Bartókはどう見たか■
2014.4.2 中村洋子
★4月に入りました。
柳の新芽が、春風にやさしくそよいでいます。
1日から、消費税が3%上がり、8%になってしまいました。
これを契機に、社会全体が大きく変化していくような、
漠然とした、予感がします。
★前々回ブログで、Edwin Fischer エドウィン・フィッシャーが、
天才ジョグラーのエンリコ・ラステッリの技を見て、
Mozart に思いをはせたことを、書きました。
久しぶりに、 Mozartの Klaviersonate B-Dur KV.333 の、
≪ 自筆譜 ≫ を、Edwin Fischer 版 と、
Bartók Béla バルトーク (1881~1945) 版を、
手掛かりに、読み込んでみました。
★いままで、あまり気に留めていませんでしたが、
Bartók版は、第 1楽章 冒頭 4小節の左手部分を、
Mozart はすべて、八分音符で記譜していますのに、
下記の様に、1小節目の二つの b ( 変ロ音 ) を、
付点四分音符と四分音符に、変更していました。
★同様に、2小節目の 二つの c1 ( 一点ハ音 ) を、
付点四分音符と、四分音符で記し、
3小節目の二つの f ( へ音 ) を、付点四分音符と四分音符にし、
4小節目 も二つの b ( 変ロ音 ) を、付点四分音符と四分音符に、
変えて、記譜しています。
★その理由について、私は以前は、ぺダルの効果を狙ったためと、
思っていました。
しかし、 Mozart の自筆譜を読みますと、
Mozart は下記のような、記譜をしています。
★左手の一見、とても簡単な分散和音とみられる
この部分は、実は、二声部に分割されていることが、
分かってくるのです。
バスとテノール声部ではなく、
テノールとアルト声部、といえるでしょう。
★この Sonata の冒頭は、右手が担当するソプラノと、
左手が担当する内声のアルト、テノールの下声部から成り、
バスはお休みしている、ということになります。
そうしますと、これは、ピアノ用の曲としての発想ではなく、
室内楽あるいは、Orchestra の曲として、
発想された曲となります。
★つまり、Bartókは、そこまで読み解き、
自分の校訂版を、作っているのです。
この考え方は、 4月 17日 ( 木 )に、カワイ表参道で開催します、
「 平均律第 2巻 第14番 fis-Moll 」 のアナリーゼ講座で
お話しする予定の、
≪ 独奏鍵盤作品を弾く場合、どのような楽器を想定し、
音色やエクスプレッションを、どう設定するか ≫ という
Thema テーマ と、重なってきます。
★Edwin Fischer 版に目を移しますと、そこには、
驚くべき大量の Fingering が、記されています。
一楽章冒頭のアウフタクトを含む 4小節で、
Fingering が付けられていないのは、
3小節目左手最後の三つの八分音符 f - c1 - es1 と、
四小節目の、左手最後の三つの八分音符 b - d1 - f1 のみです。
それ以降も、ほとんど全部の音符に Fingering が、
びっしりと、書き込まれています。
★Fischer版 、 Bartók版ともに、
曲頭の右手 g2 ( 二点ト音 ) に、 「 5 」 の指を、
指定しています。
これは、彼らが Mozart の counterpoint 対位法を、
どのように、捉えていたかを解く、カギとなります。
★Fischer は、 g2 - f2 - es2 - d2 - c2
( ソ ファ ミ♭ レ ド ) に、「 5 4 3 2 1 」 と、
Fingering を、書き込んでいます。
これは、 easy to play のための指使いでないことは、明白です。
★そして、冒頭の左手開始音楽である b - d1 - f1 ( シ♭ レ ファ ) に、
Fischer は、 「 5 3 1 」 の Fingering を指定。
B-Dur でありながら、右手では 「 ソ ファ ミ♭ レ ド 」 の、
5度下行順次進行 motif モティーフ 。
左手は、主和音を形成する 「 シ♭ レ ファ 」 の、
5度上行跳躍進行。
★鮮やかな、 countepoint 対位法で、曲そのものが、
始まっていくのです。
二人の天才は、それを Fingering で見事に教えているのです。
★現在、この二つの校訂版は、需要が減ったため、
かなり入手しずらくなっています。
つまり、演奏する側に、それを読み解く力がもう、
無くなっているため、購入しようとする人が減り、
その結果、このような金字塔のような Edition が、
忘れ去られようと、しています。
★Fischerが、この Mozart Sonataの countepoint 対位法を、
解明し尽したエディションを、成したうえで、
天才ジョグラー・ラステッリの演技について、
≪ 彼は地上のすべての重力を克服していました ≫ と書いた、
その重みを、感じるべきです。
Fischer は、 countepoint 対位法 の構造を、
完全に踏まえたうえで、
重力を克服したような、真に軽やかな演奏を、
目指したのかもしれません。
★現代の Mozart Piano 演奏の多くは、軽く心地よい、
聴き知ったメロディーが、
指先で、ころころと転がされるだけです。
countepoint 対位法 の構造に、立脚しているとは、
言い難い演奏が、多いのです。
一種のムード音楽的な演奏、ともいえます。
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