音楽の大福帳

Yoko Nakamura, 作曲家・中村洋子から、音楽を愛する皆さまへ

■平均律第2巻最後の24番は軽やか、Bachの心は既に「フーガの技法」 へと弾む■

2015-03-07 23:54:27 | ■私のアナリーゼ講座■

■平均律第2巻最後の24番は軽やか、Bachの心は既に「フーガの技法」 へと弾む■
    ~ KAWAI 表参道・平均律第2巻24番アナリーゼ講座~

                  2015・3・7  中村洋子

 


★マンサク、山茱萸、ミツマタと、

早春の樹々が、可憐な花を咲かせています。

いずれも黄色です。

春は、もうすぐですね。


★3月のアナリーゼ講座は、

・10日 ( 火 )平均律第2巻24番h-Moll    : KAWAI 表参道
・18日 ( 水 ) Invention 7番 e-Moll : KAWAI金沢
・25日 ( 水 ) イタリア協奏曲 2、3楽章: KAWAI 名古屋
                                                                                                              です。

★以前、「 Wohltemperirte Clavier Ⅱ

平均律クラヴィーア曲集 第 2巻 」 の最終曲24番 h-Moll が、

どうして「大規模で、重々しく立派な曲ではないのでしょうか?」

という、ご質問を受けました。


★確かに、22番 b-Mollのように、長大で重厚な曲を、

平均律第1巻24番、平均律第2巻24番、計48曲の

最終曲とすることも、あり得たかもしれません。


★しかし、ここで「第1巻24曲、第2巻24曲」と書きましたように、

この第2巻24番h-Moll は、2巻の終わりであるとともに、

1、2巻の計48曲の最終でもあります。

 

 


★ここで、1巻の24番h-Moll と、2巻24番h-Moll とを

比較しますと、驚くような「Bach の設計図」が、

浮かび上がってきます


★10日の「表参道講座」で、詳しくご説明しますが、

2巻24番h-Moll は、

「この Prelude と Fuga でなくてはならない!!!」

のです。


平均律1、2巻や、 「 Messe in  h - Moll  ロ短調ミサ 」 について、

「以前に作曲した曲を、寄せ集めて編んだものだ・・・」

と、したり顔で主張する学者もいます。


★これは、「作曲家」の仕事とはどういうものか、ということを、

全く理解していないがゆえの、無知からの発言でしょう。

たとえ若い頃に書いた作曲であれ、それをもう一度取り上げ、

新しい構成の一員として、取り込むことにより、

その曲は、全く新しい生命が吹き込まれているのです。


★ですから、Bach が平均律第2巻の

「Manuscript Autograph 自筆譜 」 を、完成した1730年代末に、

この24曲は、全く新しい相貌をもって、

第2巻全集の一員として、作曲されたとみるべきでしょう。

決して、寄せ集めではありません。

 

 


★では、平均律第2巻24番 h-Moll は、

どのような曲なのでしょうか?

まず第一に、平均律1巻と2巻の総まとめの曲であると同時に、

「 Inventionen und Sinfonien 

インヴェンションとシンフォニア 」
全30曲をも内包した、

稀有な曲であるということです。


★天国のBach 先生のご配慮か、18日に金沢で開催します

 Sinfonia No.7 e-Moll に、その謎を解くカギがありました


Sinfonia No.7 e-Moll とこの2巻24番 h-Moll とが、

どのような関係にあるのかを考えてみます。

Sinfonia No.7 e-Moll から、24番 h-Moll を見てみますと、

24番 h-Moll は、 e-Moll の属調。

 

 

24番 h-Moll から、Sinfonia No.7 e-Moll を見ますと、

e-Moll は、 h-Moll の下属調になります。

 

 


★≪互いが属調または、下属調の関係にある≫のは、

非常に強い関係で結ばれている、

ということになります


24番は、 珍しくも、Prelude に Bach 自身の手で

「Allegro 快速に」と、書き込んでいます。


★その曲想は、軽やかで、

一抹の哀愁を、帯びています。

(平均律第2巻で、Bach がtempoを書いているのは、

この他には、第16番 g-Moll の Preludeでの「Largo」のみ)


平均律第1巻で、Bachがtempoを書き込んでいるのは、

やはり24番のみで、

Prelude に「Andante ゆっくり歩くような速さ」、

Fuga に「Largo ゆっくり」と、tempoを書き込んでいます。

いずれも、速く弾くことを望んでいません。


1巻と2巻との違いは何なのでしょうか

「Allegro」という記号からは、

≪成し遂げた!!!≫という喜び、

そして、そこまで到達できた、という自信が、

溢れ出て来るかのようです


★「一抹の寂しさ」は、大Bach にしましても、

この48曲を書き終えた安堵と満足感、

それに伴う名残惜しさを、感じたのではないでしょうか。


★Bach の自筆譜を見ますと、各曲を書き終えた後、

最後の終止線の後に、彼独特の記号がよく、

書き込まれています。


★例えば、第20番 Fuga の終わりは、

 

 


 Fuga 3番のように、

その後に、「Fine終わり」の文字が、見られることもあります。

 

 

しかし、この24番 Fuga は、この終止線の後に、

ひときわ大きく、「Fine」が書かれ、

そして、彼の終止マークが、大きく大きく描かれています。

 

 

この≪達成感≫の中身は何でしょうか?

それは、次のように言うことができるでしょう。


2巻24番を真摯に、綿密に勉強していきますと、

1巻24番が、色濃く浮かび上がって来るのです。

主題、和声、さらに(Bach の自筆譜から読み取れる)

24番に記された独特の staccato スタッカート 、

tie タイを分析し、何故Bach がそれを記したかを、

考えることから、答えが出てきます。


平均律1、2巻を完成したBach の心は、

次の作品≪ Die Kunst der Fugue フーガの技法≫へと、

ぴたりと照準が当てられている・・・ということなのです。


そのためには、平均律1巻、 Invention & Sinfonia

すべてを見通す目が必要なのです。

講座では、これらを具体的に分かりやすくお話いたします。

 

-----------------------------------------------------------------------

 ● 中村洋子  Bach 平均律 第 2巻・アナリーゼ講座

第 21回  第 24番 h-Moll BWV893 Prelude & Fuga

 ~ 平均律最後の24番は「憂愁」と「牧歌」的性格を宿し、
                                                
軽やかに踊って終わる

  ■日  時 :  2015年 3月10日(火) 午前 10時 ~ 12時 30分

  ■会  場 :  カワイ表参道  2F コンサートサロン・パウゼ

  ■予  約 :    Tel.03-3409-1958

  ------------------------------------------------------------

  ■講師 :   作曲家  中村 洋子  Yoko Nakamura

    東京芸術大学作曲科卒。作曲を故池内友次郎氏などに師事。
日本作曲家協議会・会員。ピアノ、チェロ、室内楽など作品多数。

        2003 ~ 05年:アリオン音楽財団 ≪東京の夏音楽祭≫で新作を発表。

        07年:自作品 「 Suite Nr.1 für Violoncello
         無伴奏チェロ組曲 第 1番 」 などをチェロの巨匠
         Wolfgang Boettcher ヴォルフガング・ベッチャー氏が演奏した
    CD 『 W.Boettcher Plays JAPAN
                         ヴォルフガング・ベッチャー日本を弾く 』 を発表。

        08年: CD 『 龍笛 & ピアノのためのデュオ 』
        CD 『 星の林に月の船 』 ( ソプラノとギター ) を発表。

        08~09年: 「 Open seminar on Bach Inventionen und Sinfonien
                  Analysis  インヴェンション・アナリーゼ講座 」
                    全 15回を、 KAWAI 表参道で開催。

        09年: 「 Suite Nr.1 für Violoncello 無伴奏チェロ組曲 第 1番 」の楽譜を、
    ベルリン・リース&エアラー社 「 Ries & Erler Berlin 」  から出版。
  
   10~12年: 「 Open seminar on Bach Wohltemperirte Clavier Ⅰ
                  Analysis 平均律クラヴィーア曲集 第 1巻 アナリーゼ講座 」
                全 24回を、 KAWAI 表参道で開催。

        10年: CD 『 Suite Nr.3 & 2 für Violoncello
                  無伴奏チェロ組曲 第 3番、2番 』
                        Wolfgang Boettcher 演奏を発表 。
       「 Regenbogen-Cellotrios  虹のチェロ三重奏曲集 」の楽譜を、
             ドイツ・ドルトムントのハウケハック社
      Musikverlag Hauke Hack Dortmund から出版。

        11年: 「 10 Duette für 2 Violoncelli
                         チェロ二重奏のための 10の曲集 」の楽譜を、
    ベルリン・リース&エアラー社 「 Ries & Erler Berlin 」 から出版。

        12年: 「 Zehn Phantasien für Celloquartett (Band 1,Nr.1-5)
   チェロ四重奏のための 10のファンタジー (第 1巻、1~5番)」の楽譜を、
      Musikverlag Hauke Hack  Dortmund 社から出版。

        13年: CD 『 Suite Nr.4 & 5 & 6 für Violoncello
                  無伴奏チェロ組曲 第 4、5、6番 』
                        Wolfgang Boettcher 演奏を発表 。
       「 Suite Nr.3 für Violoncello 無伴奏チェロ組曲 第 3番 」の楽譜を、
    ベルリン・リース&エアラー社 「 Ries & Erler Berlin 」 から出版。

   14年:「 Suite Nr.2、4、5、6 für Violoncello
        無伴奏チェロ組曲 第 2、4、5、6番 」 の楽譜を、
     ベルリン・リース&エアラー社 「 Ries & Erler Berlin 」 から出版。

         SACD 『 Suite Nr.1、2、3、4、5、6 für Violoncello
                            無伴奏チェロ組曲 第 1, 2, 3, 4, 5, 6番 』 を、
    「disk UNION 」社から、≪GOLDEN RULE≫ レーベルで発表。

              スイス、ドイツ、トルコ、フランス、チリ、イタリアの音楽祭で、
    自作品が演奏される。

       ★上記の 楽譜 & CDは、
「 カワイ・表参道 」 http://shop.kawai.co.jp/omotesando/ 
「アカデミア・ミュージック 」 
        https://www.academia-music.com/academia/s.php?mode=list&author=Nakamura,Y.&gname=%A5%C1%A5%A7%A5%ED
 https://www.academia-music.com/
                          販売中。

      ★私の作品の  SACD 「 無伴奏チェロ組曲 第 1 ~ 6番 」
   Wolfgang  Boettcher ヴォルフガング・ベッチャー演奏は、
  disk Union や全国のCDショップ、ネットショップで、購入できます。
http://blog-shinjuku-classic.diskunion.net/Entry/2208/

  

 

※copyright © Yoko Nakamura    
             All Rights Reserved
▼▲▽△無断での転載、引用は固くお断りいたします▽△▼▲

 

 

コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« ■非和声音が、美しい旋律に精... | トップ | ■平均律第2巻 4番Preludeは f... »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

■私のアナリーゼ講座■」カテゴリの最新記事