■平均律第2巻最後の24番は軽やか、Bachの心は既に「フーガの技法」 へと弾む■
~ KAWAI 表参道・平均律第2巻24番アナリーゼ講座~
2015・3・7 中村洋子
★マンサク、山茱萸、ミツマタと、
早春の樹々が、可憐な花を咲かせています。
いずれも黄色です。
春は、もうすぐですね。
★3月のアナリーゼ講座は、
・10日 ( 火 )平均律第2巻24番h-Moll : KAWAI 表参道
・18日 ( 水 ) Invention 7番 e-Moll : KAWAI金沢
・25日 ( 水 ) イタリア協奏曲 2、3楽章: KAWAI 名古屋
です。
★以前、「 Wohltemperirte Clavier Ⅱ
平均律クラヴィーア曲集 第 2巻 」 の最終曲24番 h-Moll が、
どうして「大規模で、重々しく立派な曲ではないのでしょうか?」
という、ご質問を受けました。
★確かに、22番 b-Mollのように、長大で重厚な曲を、
平均律第1巻24番、平均律第2巻24番、計48曲の
最終曲とすることも、あり得たかもしれません。
★しかし、ここで「第1巻24曲、第2巻24曲」と書きましたように、
この第2巻24番h-Moll は、2巻の終わりであるとともに、
1、2巻の計48曲の最終でもあります。
★ここで、1巻の24番h-Moll と、2巻24番h-Moll とを
比較しますと、驚くような「Bach の設計図」が、
浮かび上がってきます。
★10日の「表参道講座」で、詳しくご説明しますが、
2巻24番h-Moll は、
「この Prelude と Fuga でなくてはならない!!!」
のです。
★平均律1、2巻や、 「 Messe in h - Moll ロ短調ミサ 」 について、
「以前に作曲した曲を、寄せ集めて編んだものだ・・・」
と、したり顔で主張する学者もいます。
★これは、「作曲家」の仕事とはどういうものか、ということを、
全く理解していないがゆえの、無知からの発言でしょう。
たとえ若い頃に書いた作曲であれ、それをもう一度取り上げ、
新しい構成の一員として、取り込むことにより、
その曲は、全く新しい生命が吹き込まれているのです。
★ですから、Bach が平均律第2巻の
「Manuscript Autograph 自筆譜 」 を、完成した1730年代末に、
この24曲は、全く新しい相貌をもって、
第2巻全集の一員として、作曲されたとみるべきでしょう。
決して、寄せ集めではありません。
★では、平均律第2巻24番 h-Moll は、
どのような曲なのでしょうか?
まず第一に、平均律1巻と2巻の総まとめの曲であると同時に、
「 Inventionen und Sinfonien
インヴェンションとシンフォニア 」全30曲をも内包した、
稀有な曲であるということです。
★天国のBach 先生のご配慮か、18日に金沢で開催します
Sinfonia No.7 e-Moll に、その謎を解くカギがありました。
★ Sinfonia No.7 e-Moll とこの2巻24番 h-Moll とが、
どのような関係にあるのかを考えてみます。
Sinfonia No.7 e-Moll から、24番 h-Moll を見てみますと、
24番 h-Moll は、 e-Moll の属調。
24番 h-Moll から、Sinfonia No.7 e-Moll を見ますと、
e-Moll は、 h-Moll の下属調になります。
★≪互いが属調または、下属調の関係にある≫のは、
非常に強い関係で結ばれている、
ということになります。
★24番は、 珍しくも、Prelude に Bach 自身の手で
「Allegro 快速に」と、書き込んでいます。
★その曲想は、軽やかで、
一抹の哀愁を、帯びています。
(平均律第2巻で、Bach がtempoを書いているのは、
この他には、第16番 g-Moll の Preludeでの「Largo」のみ)
★平均律第1巻で、Bachがtempoを書き込んでいるのは、
やはり24番のみで、
Prelude に「Andante ゆっくり歩くような速さ」、
Fuga に「Largo ゆっくり」と、tempoを書き込んでいます。
いずれも、速く弾くことを望んでいません。
★1巻と2巻との違いは何なのでしょうか
「Allegro」という記号からは、
≪成し遂げた!!!≫という喜び、
そして、そこまで到達できた、という自信が、
溢れ出て来るかのようです。
★「一抹の寂しさ」は、大Bach にしましても、
この48曲を書き終えた安堵と満足感、
それに伴う名残惜しさを、感じたのではないでしょうか。
★Bach の自筆譜を見ますと、各曲を書き終えた後、
最後の終止線の後に、彼独特の記号がよく、
書き込まれています。
★例えば、第20番 Fuga の終わりは、
Fuga 3番のように、
その後に、「Fine終わり」の文字が、見られることもあります。
しかし、この24番 Fuga は、この終止線の後に、
ひときわ大きく、「Fine」が書かれ、
そして、彼の終止マークが、大きく大きく描かれています。
★この≪達成感≫の中身は何でしょうか?
それは、次のように言うことができるでしょう。
★2巻24番を真摯に、綿密に勉強していきますと、
1巻24番が、色濃く浮かび上がって来るのです。
主題、和声、さらに(Bach の自筆譜から読み取れる)
24番に記された独特の staccato スタッカート 、
tie タイを分析し、何故Bach がそれを記したかを、
考えることから、答えが出てきます。
★平均律1、2巻を完成したBach の心は、
次の作品≪ Die Kunst der Fugue フーガの技法≫へと、
ぴたりと照準が当てられている・・・ということなのです。
★そのためには、平均律1巻、 Invention & Sinfonia
すべてを見通す目が必要なのです。
講座では、これらを具体的に分かりやすくお話いたします。
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● 中村洋子 Bach 平均律 第 2巻・アナリーゼ講座
第 21回 第 24番 h-Moll BWV893 Prelude & Fuga
~ 平均律最後の24番は「憂愁」と「牧歌」的性格を宿し、
軽やかに踊って終わる ~
■日 時 : 2015年 3月10日(火) 午前 10時 ~ 12時 30分
■会 場 : カワイ表参道 2F コンサートサロン・パウゼ
■予 約 : Tel.03-3409-1958
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■講師 : 作曲家 中村 洋子 Yoko Nakamura
東京芸術大学作曲科卒。作曲を故池内友次郎氏などに師事。
日本作曲家協議会・会員。ピアノ、チェロ、室内楽など作品多数。
2003 ~ 05年:アリオン音楽財団 ≪東京の夏音楽祭≫で新作を発表。
07年:自作品 「 Suite Nr.1 für Violoncello
無伴奏チェロ組曲 第 1番 」 などをチェロの巨匠
Wolfgang Boettcher ヴォルフガング・ベッチャー氏が演奏した
CD 『 W.Boettcher Plays JAPAN
ヴォルフガング・ベッチャー日本を弾く 』 を発表。
08年: CD 『 龍笛 & ピアノのためのデュオ 』
CD 『 星の林に月の船 』 ( ソプラノとギター ) を発表。
08~09年: 「 Open seminar on Bach Inventionen und Sinfonien
Analysis インヴェンション・アナリーゼ講座 」
全 15回を、 KAWAI 表参道で開催。
09年: 「 Suite Nr.1 für Violoncello 無伴奏チェロ組曲 第 1番 」の楽譜を、
ベルリン・リース&エアラー社 「 Ries & Erler Berlin 」 から出版。
10~12年: 「 Open seminar on Bach Wohltemperirte Clavier Ⅰ
Analysis 平均律クラヴィーア曲集 第 1巻 アナリーゼ講座 」
全 24回を、 KAWAI 表参道で開催。
10年: CD 『 Suite Nr.3 & 2 für Violoncello
無伴奏チェロ組曲 第 3番、2番 』
Wolfgang Boettcher 演奏を発表 。
「 Regenbogen-Cellotrios 虹のチェロ三重奏曲集 」の楽譜を、
ドイツ・ドルトムントのハウケハック社
Musikverlag Hauke Hack Dortmund から出版。
11年: 「 10 Duette für 2 Violoncelli
チェロ二重奏のための 10の曲集 」の楽譜を、
ベルリン・リース&エアラー社 「 Ries & Erler Berlin 」 から出版。
12年: 「 Zehn Phantasien für Celloquartett (Band 1,Nr.1-5)
チェロ四重奏のための 10のファンタジー (第 1巻、1~5番)」の楽譜を、
Musikverlag Hauke Hack Dortmund 社から出版。
13年: CD 『 Suite Nr.4 & 5 & 6 für Violoncello
無伴奏チェロ組曲 第 4、5、6番 』
Wolfgang Boettcher 演奏を発表 。
「 Suite Nr.3 für Violoncello 無伴奏チェロ組曲 第 3番 」の楽譜を、
ベルリン・リース&エアラー社 「 Ries & Erler Berlin 」 から出版。
14年:「 Suite Nr.2、4、5、6 für Violoncello
無伴奏チェロ組曲 第 2、4、5、6番 」 の楽譜を、
ベルリン・リース&エアラー社 「 Ries & Erler Berlin 」 から出版。
SACD 『 Suite Nr.1、2、3、4、5、6 für Violoncello
無伴奏チェロ組曲 第 1, 2, 3, 4, 5, 6番 』 を、
「disk UNION 」社から、≪GOLDEN RULE≫ レーベルで発表。
スイス、ドイツ、トルコ、フランス、チリ、イタリアの音楽祭で、
自作品が演奏される。
★上記の 楽譜 & CDは、
「 カワイ・表参道 」 http://shop.kawai.co.jp/omotesando/
「アカデミア・ミュージック 」
https://www.academia-music.com/academia/s.php?mode=list&author=Nakamura,Y.&gname=%A5%C1%A5%A7%A5%ED
https://www.academia-music.com/ で販売中。
★私の作品の SACD 「 無伴奏チェロ組曲 第 1 ~ 6番 」
Wolfgang Boettcher ヴォルフガング・ベッチャー演奏は、
disk Union や全国のCDショップ、ネットショップで、購入できます。
http://blog-shinjuku-classic.diskunion.net/Entry/2208/
※copyright © Yoko Nakamura
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