音楽の大福帳

Yoko Nakamura, 作曲家・中村洋子から、音楽を愛する皆さまへ

■ Bach 「 イタリア協奏曲 」 をピアノで弾くことの意義 ■

2012-07-27 22:55:17 | ■私のアナリーゼ講座■

■ Bach  「 イタリア協奏曲 」 をピアノで弾くことの意義 ■
                     2012.7.27  中村洋子

 

 


★今日は、土用丑の日。

猛暑が、続きます。

今年初めて、蝉の声を聞きました。

昨年と同様、鳴き出すのが遅いため、放射能の影響かしら、と

心配していましたが、少し安心いたしました。


★6月末、金沢・石川県立音楽堂で開催しました

「 アナリーゼ講座 」 の後、ピアノの先生方から、

いくつかのご質問を、いただきました。


★1) Bach をピアノで弾くとき、ペダルを使ってよいのでしょうか?

2) Bach を弾くときは、チェンバロの音を模し、なるべく、

     non legato にするべきでしょうか?

3) Bach の Fuga を弾くとき、テーマはいつも強く弾くべきでしょうか?


★私は、7月 31日から、 3回シリーズで開催します

≪イタリア協奏曲・アナリーゼ講座≫で、

「 Bach をどのように、ピアノで弾くか 」

「 ピアニストは何故、 Bach をピアノで弾かなければならないか 」

について、詳しく、ご説明する予定です

上記 3つの質問に対する答えも、自然に導き出されるはずです。


★しかし、ブログを拝見される方は、早く答えを知りたいと、

お思いでしょう。

 


1)への答えは、 「 ペダルを使ってください 」 。

21世紀に生きている私たちが、素晴らしい グランドピアノ

という楽器を弾くのですから、このピアノのもつ機能を、

十二分に、使い尽くしてください。

ソステヌートペダルも、使い方によっては、とても効果的です。


★2) チェンバロについては、良い楽器を優れた奏者が演奏しますと、

えもいわれぬ素晴らしい Legato が、できます。

信じられないかもしれませんが、 crescendo 、 diminuendo すら、

可能なのです。

ピアノで弾く際、どうして non legato でブツブツと、

干からびた音を、出さねばならないのでしょうか。


★3) Bach の Fuga を弾くとき、

“ まずテーマ subject の弾き方を決め、その後、

この subject が現れるたび、同じ弾き方をする ” ことは、

間違っている、と思います。

 subject は、出現するたびに常に新しく、新鮮でなくてはなりません。


★私は、この考え方を Edwin Fischer エドウィン・フィッシャー

(1886 ~ 1960) の、 Bach 校訂版楽譜から、学びました

常に多様で、魅力に満ちた subject が、次々に繰り出されるのが、

Bach の Fuga なのです。

どうして、 subject が出るたびに、いつも固くこわばったように、

他の声部を押しのけ、 subject だけを強く、

弾かねばならないのでしょうか。


★このことは、イタリア協奏曲を弾くときも同様です。

( Fuga でなくても ) いかに subject を多彩に、変化させていくか、

それが、奏者の力量でもあるのです

 

 


★きょう偶然ですが、Alfred Brendel アルフレッド・ブレンデル の、

インタビュー記事(1978年)を、読みました。

Brendel の  Bach に対する 考えは、以下のような主旨です。


★彼は、“ 師であった Edwin Fischer エドウィン・フィッシャー の 、

Bach 演奏が、あまりに偉大であったため、なかなかコンサートで、

Bach を弾くことができなかった ” ということを、

正直に、告白しています。


★ “ 古楽器による Bach 演奏は、

それがどれだけ説得力をもつか、ということに尽きるのです。

Bach の作品は、モンテヴェルディ、スカルラッティ、

ラモー、クープランの作品のようには、historical な楽器に、

左右されないであろう。  ”

(私も、全くその通りで、 Bach は時代を超越していると思います。)


 “  Bach をピアノで弾くことへの、 「 古楽 」 界からの批判を恐れ、

piano recital から、 Bach がほとんど消えてしまった。

それは、ピアニストがポリフォニックな演奏をする能力を、

失ってしまう、ことになるのである。  ”


★緻密に構成された Fuga の各声部を、どう把握し、弾き分けるか・・・、

これができませんと、Mozart 、Beethoven 、Chopin 、

Schumann 、Debussy、Ravel など、

音楽史での大作曲家の作品は、すべて弾けない、

ということに、なってしまいます。

名前ばかりで、その実、空疎な演奏が多い、

現代の有名ピアニストたちの演奏が、その良い例でしょう。

 


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