■Bachが一筆加えた装飾音で、深く心を揺さぶる音楽へと変容■
~マルチェッロのオーボエ協奏曲をBachはどう編曲したか~
=「金沢・イタリア協奏曲」2楽章・アナリーゼ講座=
2016.9.30 中村洋子
★台風や長雨の九月も、いよいよ終わります。
KAWAI金沢の講座は、「Italienisches Konzert イタリア協奏曲」の
第1楽章を3回にわたって、学びました。
私の講座で1楽章を3回も、数か月かけてお話することは、
初めてでしたが、終わってみますと、やっと、第1楽章の扉を、
トントンとノックしたような気持です。
★それほど、この曲は奥深く広いのです。
Bachの曲はすべてそうなのですが、踏み入れば踏み入るほど、
その花園の花は益々、生き生きと輝き、色彩が増す、
ということでしょう。
次回は、第2楽章の講座となります。
★第2楽章を学ぶ前提として、 Bach バッハ (1685-1750) が、
28、9歳の1713~14年頃、イタリアの作曲家 Alessandro Marcello
アレッサンドロ・マルチェッロ(1669-1747)の、オーボエ協奏曲を、
独奏鍵盤の作品に編曲した「Concerto d-Moll BWV974」について、
解説する予定です。
★このBachの編曲作品「Concerto d-Moll BWV974」の
第2楽章「Adagio」は、そのシンプルな美しさで、
どなたも感嘆されることでしょう。
原曲であるMarcello のオーボエ協奏曲に、
Bachがどのような装飾を施し、
その“黄金の一筆”で、「Bachの作品」へと変容させたか・・・
それが、約20年後の1735年、満を持して発表出版することになる
「Italienisches Konzert イタリア協奏曲」にどう連なっていくかを、
「和声音の装飾の仕方」からご説明し、耳と頭と心で、
ご理解をしていただく予定です。
★BWV974の楽譜は、Bärenreiter出版の
Bach: Klavierbearbeirtungen fremder Werke Ⅰ
Keyboard Arrangements of Works by Other Composers Ⅰ
(Six Concertos after Vivaldi and Others) BWV 972-977
(BA 5221)を、ご用意ください。
https://www.academia-music.com/academia/search.php?mode=detail&id=1501271623
★原曲のスコア Marcello Concerto for Oboe, Strings and Basso cintnuo
Edition Schott (ANT 74)も、必要でしょう。
https://www.academia-music.com/academia/search.php?mode=detail&id=1501227780
★CDとしましては、「20世紀の名演奏」 ≪ヴェニスの愛≫
~ローター・コッホ ベルリン弦楽合奏団 (BVCC 37454)~が、
特に、お薦めです。
★Lothar Koch ローター・コッホ (1935-2003)は、
Wolfgang Boettcherヴォルフガング・ベッチャー先生と
同世代で、一緒に黄金期のベルリンフィルを支えた、
偉大なマエストロです。
★彼のMozart オーボエ四重奏も、同様に大変な名演です。
是非、お聴きください。
Tower Records Vintage Collection + plus vol.15
「モーツァルト オーボエ四重奏/フルート四重奏1、4番)
PROC-1255
このCDは、 2012年に発売されたもので、
Celloは、Boettcher ベッチャー先生です。
先生の名演も、併せてお聴きください。
CDブックレットには、相変わらず、ヴォルフガング・ベトヒャー
(チェロ)と、発音が間違って書かれているのには、呆れます。
★先月の美智子さまと Boettcher ベッチャー先生との合奏では、
正しい発音で、報道されていましたが、
一度間違いが文字に書かれますと、孫引き孫引きで、
延々と訂正されないまま続くのは、
原典に当たって調べないのが理由でしょう。
★ Beethoven 「Für Elise エリーゼのために」 の音の誤りが、
何十年と、日本でのみ訂正されないのと、同じでしょうね。
「Für Elise エリーゼのために」 については、私の著書
≪クラシックの真実は大作曲家の「自筆譜」にあり≫で、
詳しく書いておりますので、お読みください。
★お話をアレッサンドロ・マルチェッロ(1669-1747)の
オーボエ協奏曲とBachの編曲作品に戻しますと、
原曲のMarcello「オーボエ協奏曲」2楽章冒頭3小節は、
弦楽器による前奏です。
4小節目から、ソロのオーボエが登場します。
★これをBachは、このように編曲しました。
★4小節目3拍目の「b²」を「c³」の倚音(changing note)で、
装飾したのです。
5小節目1拍目の「b²」にモルデント(Mordent)を付け、
印象深く、この音を強調します。
★Marcello「オーボエ協奏曲」の6、7小節目は、
4、5小節目を、長2度下の同型反復(Sequenz ゼクエンツ)したものです。
★Bachは1拍目「e²」と2拍目「g²」を、刺繍音(broderie)で、
飾ります。
8、9小節目については、 Marcelloは6、7小節を更に長2度下に、
そのまま同型反復しています。
★Bachは、1拍目「b¹」を、連続刺繍音で装飾しています。
連続刺繍音とは、「b¹」の上部刺繍音「c²」
と、「b¹」の下部刺繍音「a¹」を、
和声音「b¹」の後に、連続して「b¹ c² a¹」と配置し、
その後に、和声音「b¹」に戻る
「b¹ c² a¹ b¹」連続刺繍音です。
★2拍目の「d²」、3拍目の「f²」も同様に、
連続刺繍音で装飾されます。
★これは、Bachの装飾法、つまり作曲法の一端です。
Marcelloの作品も、当時はこの楽譜通りに演奏されたのではなく、
オーボエ奏者の即興による装飾に委ねている部分も、おそらく
多かったと思います。
★Bachは、 Marcelloマルチェッロが
即興に委ねた部分を、丁寧に「Bachの装飾」として、
書き込んでいます。
この手法がそのまま、「Italienisches Konzert イタリア協奏曲」
第2楽章に、投影されていくのです。
そして、何気ない旋律が、深く心を揺さぶる音楽へと、
変容するのです。
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■Bach《イタリア協奏曲・第2楽章》アナリーゼ講座
~美しい旋律に、非和声音が精緻に装飾されている~
■日 時 : 11月18日(金) 午前10時~12時30分
■会 場 : カワイ金沢ショップ 金沢市南町5-9
(尾山神社前 南町バス停より徒歩3分 有料駐車場をご利用下さい)
■予 約 : Tel.076-262-8236 KAWAI 金沢ショップ
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★初版譜の2楽章冒頭に、Bachが珍しく自ら記したテンポ記号≪Andante≫は、
どのような深い意味を持つのでしょうか。
Edwin Fischer エドウィン・フィッシャー(1886~1960)は、彼の校訂版で、
この第2楽章について「悲しみから滲み出る嘆きが、希望へと、そして哀願へと
移り変わっていく。最後に再び、自らの中で嘆きが消え去っていくのである。
この嘆きの歌の多彩なニュアンスは、言葉では言い尽くせないほどである」と、
注釈しています。
★蜘蛛の糸のように精妙に織り込まれた第2楽章の右手旋律は、
≪非和声音≫をたくさん含んでいます。この右手旋律を、
装飾音記号で書き換えることも可能です。
★装飾音記号で書き換えますと、旋律の骨組みが、むき出しに現れてきます。
この、主に≪和声音≫から成る「骨組み」が、どのように≪非和声音≫で
装飾されているのか・・・それを理解いたしませんと、右手が絶えず、
美しい旋律を細やかに弾いているだけの「退屈な演奏」になってしまいます。
★Bach は、Alessandro Marcello マルチェッロのオーボエ協奏曲を、
独奏鍵盤作品に編曲しています( Concerto d-Moll BWV974,
nach dem Concerto d-Moll fr Oboe, Streicher und Basso continuo
von Alessandro Marcello)。
マルチェッロの原曲を、どんなに美しく Bachが装飾し編曲したかを
勉強いたしますと、第2楽章が一気に、分かりやすくなります。
★ピアノで Bach を演奏することの楽しみ、満ち溢れる喜びをきっと
実感できることでしょう。Marcelloマルチェッロを、
Bach編曲で弾く楽しみについても、お話いたします。
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■講師: 作曲家 中村 洋子
東京芸術大学作曲科卒。
・2008~09年、「インヴェンション・アナリーゼ講座」全15回を、東京で開催。
・2010~15年、「平均律クラヴィーア曲集1、2巻アナリーゼ講座」全48回を、東京で開催。
自作品「Suite Nr.1~6 für Violoncello無伴奏チェロ組曲第1~6番」、
「10 Duette fur 2Violoncelli チェロ二重奏のための10の曲集」の楽譜を、
ベルリン、リース&エアラー社 (Ries & Erler Berlin) より出版。
「Regenbogen-Cellotrios 虹のチェロ三重奏曲集」、
「Zehn Phantasien fϋr Celloquartett(Band1,Nr.1-5)
チェロ四重奏のための10のファンタジー(第1巻、1~5番)」を
ドイツ・ドルトムントのハウケハック社
Musikverlag Hauke Hack Dortmund から出版。
・2014年、自作品「Suite Nr. 1~6 fur Violoncello無伴奏チェロ組曲第1~6番」の
SACDを、Wolfgang Boettcher ヴォルフガング・ベッチャー演奏で発表
(disk UNION : GDRL 1001/1002)。
・2016年、ブログ「音楽の大福帳」を書籍化した ≪クラシックの真実は大作曲家の「自筆譜」
にあり!≫
~バッハ、ショパンの自筆譜をアナリーゼすれば、曲の構造、演奏法までも
分かる~ DU BOOKS社)を出版。
・2016年、ドイツのベーレンライター出版社(Barenreiter-Verlag)が刊行した
バッハ「ゴルトベルク変奏曲」Urtext原典版の「序文」の日本語訳と
「訳者による注釈」を担当。
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