■素晴らしい展覧会、対決巨匠たちの日本美術■
~蕪村とインヴェンションの関係~
08.8. 14 中村洋子
★窓の網戸に、セミが停まって鳴いております。
夏休み、いかがお過ごしでしょうか。
私は、二日続けて、東京国立博物館・平成館で開催中の
『対決、巨匠たちの日本美術展』に、行ってまいりました。
大雅対蕪村、宗達対光琳、歌麿対写楽、円空対木喰など、
見応え十分。
最高の作品揃いで、“対決”という下品なキャッチコピーにも、
目をつぶります。
8月17日(日)まで開催です。
★特に、私のお目当ては、蕪村(1716~83)の
水墨画「夜色楼台図」です。
この作品をいままで、いろいろな美術全集で
穴が開くほど、見てまいりました。
以前、サックスとピアノのための「夜色楼台図」を作曲し、
昨年のクリスマスには、これを、無伴奏チェロのために編曲し、
ベッチャー先生にお送りいたしました。
先生もとても気に入られ、すぐに家でお弾きになり、
細かいアドバイスもいただきました。
★本物を見るのは、今回が初めてでした。
心がときめきます。
印刷では分からない墨の色について、大きな発見がありました。
特に、画面中央にある大きな楼閣、その右上の、
山の稜線上に描かれた「大きな黒い塊」の色について、です。
稜線は雪にすっぽり覆われています。
その黒い塊は、深々とした夜の闇を表現していますが、
その墨の黒が、深い群青に見えることに驚きました。
印刷された画集では、出せない色です。
★私は、「サックスとピアノのためのコンサート」の
プログラムに、この絵を、イラスト的に写して描きました。
その後も二、三度この絵を写してみることがありました。
音楽でいいますと、バッハの「インヴェンション」を
写譜することと、同じなのではないか、と思います。
★ですから、会場で本物に接した時、手にとるように、
蕪村の意図、音楽用語でいうところの、モティーフ(動機)の展開、
その手法が、分かりました。
★画面中央の楼閣を頂点とするため、
右側の家々の屋根は、低く這いつくばり、
菱形の屋根が、水平に並んでいます。
左側の家々は、山の斜面にあり、雪に埋もれています。
中央楼閣の真下の家々のみが、雛祭りの菱餅のように、
はっきりとした菱形の屋根に描かれています。
★中央の楼閣は、ほんのりと「橙色」が指しています。
そして、そのすこし右上に、先ほどの「深い群青の黒い塊」が
大きな存在感をもって、稜線に座っています。
見る人の視線が、この楼閣に自然に落ち着くように、
計算されています。
水墨画でありながら、色彩感に満ちています。
★写譜(絵を写す)ことを、していなければ、
もっと散漫な見方に、なったことでしょう。
写譜で、構図が手の内に入っていたので、
絵を見る醍醐味に、達することができました。
★この展覧会では、2008年春に初めて、公にされた
蕪村の「山水図屏風」も出展されています。
まだ一般には有名でありませんが、おそらく、
彼の最高傑作と、私には思われます。
★天明2年(1782年)、蕪村の死の前年、68歳の大作です。
六曲一双で、夏を描いた右隻では「夏」を描き、力に満ちています。
左隻では、「秋、冬」を描いていますが、静かな世界です。
この「秋、冬」は、死期の近づいた蕪村が、
これから辿る自分の途を、思い描いたのでしょうか。
▼▲▽△無断での転載、引用は固くお断りいたします▽△▼▲
~蕪村とインヴェンションの関係~
08.8. 14 中村洋子
★窓の網戸に、セミが停まって鳴いております。
夏休み、いかがお過ごしでしょうか。
私は、二日続けて、東京国立博物館・平成館で開催中の
『対決、巨匠たちの日本美術展』に、行ってまいりました。
大雅対蕪村、宗達対光琳、歌麿対写楽、円空対木喰など、
見応え十分。
最高の作品揃いで、“対決”という下品なキャッチコピーにも、
目をつぶります。
8月17日(日)まで開催です。
★特に、私のお目当ては、蕪村(1716~83)の
水墨画「夜色楼台図」です。
この作品をいままで、いろいろな美術全集で
穴が開くほど、見てまいりました。
以前、サックスとピアノのための「夜色楼台図」を作曲し、
昨年のクリスマスには、これを、無伴奏チェロのために編曲し、
ベッチャー先生にお送りいたしました。
先生もとても気に入られ、すぐに家でお弾きになり、
細かいアドバイスもいただきました。
★本物を見るのは、今回が初めてでした。
心がときめきます。
印刷では分からない墨の色について、大きな発見がありました。
特に、画面中央にある大きな楼閣、その右上の、
山の稜線上に描かれた「大きな黒い塊」の色について、です。
稜線は雪にすっぽり覆われています。
その黒い塊は、深々とした夜の闇を表現していますが、
その墨の黒が、深い群青に見えることに驚きました。
印刷された画集では、出せない色です。
★私は、「サックスとピアノのためのコンサート」の
プログラムに、この絵を、イラスト的に写して描きました。
その後も二、三度この絵を写してみることがありました。
音楽でいいますと、バッハの「インヴェンション」を
写譜することと、同じなのではないか、と思います。
★ですから、会場で本物に接した時、手にとるように、
蕪村の意図、音楽用語でいうところの、モティーフ(動機)の展開、
その手法が、分かりました。
★画面中央の楼閣を頂点とするため、
右側の家々の屋根は、低く這いつくばり、
菱形の屋根が、水平に並んでいます。
左側の家々は、山の斜面にあり、雪に埋もれています。
中央楼閣の真下の家々のみが、雛祭りの菱餅のように、
はっきりとした菱形の屋根に描かれています。
★中央の楼閣は、ほんのりと「橙色」が指しています。
そして、そのすこし右上に、先ほどの「深い群青の黒い塊」が
大きな存在感をもって、稜線に座っています。
見る人の視線が、この楼閣に自然に落ち着くように、
計算されています。
水墨画でありながら、色彩感に満ちています。
★写譜(絵を写す)ことを、していなければ、
もっと散漫な見方に、なったことでしょう。
写譜で、構図が手の内に入っていたので、
絵を見る醍醐味に、達することができました。
★この展覧会では、2008年春に初めて、公にされた
蕪村の「山水図屏風」も出展されています。
まだ一般には有名でありませんが、おそらく、
彼の最高傑作と、私には思われます。
★天明2年(1782年)、蕪村の死の前年、68歳の大作です。
六曲一双で、夏を描いた右隻では「夏」を描き、力に満ちています。
左隻では、「秋、冬」を描いていますが、静かな世界です。
この「秋、冬」は、死期の近づいた蕪村が、
これから辿る自分の途を、思い描いたのでしょうか。
▼▲▽△無断での転載、引用は固くお断りいたします▽△▼▲