■Bach 平均律 2巻 17番と Beethoven Op.110から学べるAs-Dur の響きと性格■
~ Bach 平均律第 2巻アナリーゼ講座 第 17番のお知らせ ~
21014.8.3 中村洋子
★8月 5日( 火 ) のKAWAI表参道 「 Bach 平均律クラヴィーア曲集
第 2巻 Open seminar on Bach Wohltemperirte
Clavier Ⅱ Analysis 」 アナリーゼ講座は、
No.17 As-Dur 17番 変イ長調 です。
British Library が所蔵します Bach Manuscript Autograph で、
勉強をしております。
★この 17番の Manuscript Autograph は、紛れもなく、
Bach の自筆なのですが、 「 Wohltemperirte Clavier Ⅱ 」 の、
他の曲とは、大きく異なるところがあります。
特に、 Prelude は、他の曲に比べ、小さい 「 五線紙 」に、
書かれています。
また、この曲集で唯一、右手部分が 「 G clef ト音記号 」 で、
記譜されています。
★また、小節線が 「 上声 」 と 「 下声 」 を貫いて、
一本の線として、記されています。
しかし、その他の曲は、すべて、 「 上声 」 と 「 下声 」 との間は,
空白、つまり、通常の記譜法になっています。
★また、題名も 「 Prelude e Fugue Par J.S.Bach 」 と、
フランス語風に書かれています。
★さらに、2、3ページ目が、水に濡れたようにぼやけており、
大変に、読み難くなっています。
この Prelude だけが、他の曲とは書かれた時期が、
異なっているのかもしれません。
★しかし、この 17番以降、「 Wohltemperirte Clavier Ⅱ
平均律クラヴィーア曲集 第 2巻 」 は、
異例続きの、物凄い “ 高揚感 ” と “ 密度 ” をもって、
進んでいきます。
その合図と、受け取るべきなのかもしれません。
★また、 17番 Fuga の楽譜は、いつもの書式に戻っていますが、
第 1提示部 ( 主調 提示部 ) が、異常に高い音域で、
構成されています。
1、2小節の Subject ( 主題 ) の提示は、 Alto アルト 声部 ですが、
最高音が 「 f2 2点 へ音 」 で、まるで soprano ソプラノ の音域を
カバーしているような主題です。
★3、 4小節の Answer ( 応答 ) は、 soprano ソプラノ 声部ですが、
最高音は、なんと 「 c3 3点 ハ音 」 です。
同時に Counter subject 対主題が、 alto アルト 声部で、
奏されるのですが、この soprano ソプラノ 声部と
alto アルト 声部の二声が、異常に 「 高音域 」 にあるのです。
★6小節目は、 tenor テノール 声部で Subject 主題が、
提示されますが、これも高い音域であるために、
下声部は、お決まりである 「 bass バス記号 」 ではなく、
「 alto アルト記号 」 で、記譜されています。
★このような高い音域で提示しますと、一般的には、
やや貧弱に聴こえることも、あるのですが、
この提示部は、 ≪ 清澄でやや憂いを帯びた ≫
美の極致 ともいえるほど、素晴らしい提示部です。
★「 As-Dur 」 で、高い音域がとても特徴的である音楽が、
どこかにあった・・・と、ふと、思いました。
★Edwin Fischer エドウィン・フィッシャー (1886~1960) の
「 Wohltemperirte Clavier Ⅱ 平均律クラヴィーア曲集 第 2巻 」
の録音を、聴きました。
★ 分かりました。
Beethoven ベートーヴェン(1770~ 1827) の Op.110
≪ Klaviersonate As-Dur ≫ の1楽章 第2 Thema テーマ の響きと、
大いに、共通するものがあることに、気付きました。
この Op.110 Sonata には、美しい Fuga があることも、
偶然ではないのです。
★Bach と Beethoven の偉大な作品から、
この ≪ As-Dur の響きと性格 ≫ を、私たちは、正確に、
学ぶことができるのです。
★講座では、また、Bartók や Röntgen の
fingering フィンガリング によって、
示されている 「 解釈 」 、「 演奏法 」 についても、お話します。
★ Röntgen 版では、Prelude の 1小節目 下声冒頭の
「 as 」 に 「 3指 」、
1小節目 下声 5番目の 「 g 」 が 、 「 2指 」 に、
指定されていますが、これにより、
「 as - g 」 の motif モティーフ が、形成されていくのです。
★それが、例えば、 Fuga 3小節目の先ほど述べました
soprano ソプラノ 声部の Answer 応答 冒頭の、
「 as2 」 と 「 g2 」 の motif モティーフに、
どう発展していくか、それを、ご説明いたします。
★通常、 4分の 3拍子の Prelude の場合、
1拍単位で、音を見ていきますから、
下声は、 「 as - b - c1 」 の一拍目と、 「 es - g - as 」 の 二拍目と、
「 c - des - es 」 の 3拍目を、グループとしてとらえ勝ちで、
演奏もそのように、強拍を中心とした、
単調で機械的な演奏に、なり勝ちです。
★しかし、Bach の音楽はそのように単調で、
干からびたものでは、ありません。
そこから、どう脱却し、Bach の豊饒な世界に近づくかを、
この fingering フィンガリング が、指し示しているのです。
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