音楽の大福帳

Yoko Nakamura, 作曲家・中村洋子から、音楽を愛する皆さまへ

■Bach 平均律 2巻 17番と Beethoven Op.110から学べるAs-Dur の響きと性格■

2014-08-03 17:38:12 | ■私のアナリーゼ講座■

■Bach 平均律 2巻 17番と Beethoven Op.110から学べるAs-Dur の響きと性格■
~ Bach 平均律第 2巻アナリーゼ講座 第 17番のお知らせ ~

              21014.8.3 中村洋子

 

 

 

 

★8月 5日( 火 )  のKAWAI表参道 「 Bach  平均律クラヴィーア曲集

第 2巻  Open seminar on Bach Wohltemperirte

Clavier Ⅱ   Analysis 」 アナリーゼ講座は、

No.17  As-Dur  17番 変イ長調 です。

British Library が所蔵します Bach Manuscript Autograph  で、

勉強をしております。


★この 17番の Manuscript Autograph  は、紛れもなく、

Bach の自筆なのですが、 「 Wohltemperirte Clavier Ⅱ 」 の、

他の曲とは、大きく異なるところがあります。

特に、 Prelude は、他の曲に比べ、小さい 「 五線紙 」に、

書かれています。

また、この曲集で唯一、右手部分が 「 G clef ト音記号 」 で、

記譜されています。


★また、小節線が 「 上声 」 と 「 下声 」 を貫いて、

一本の線として、記されています。

しかし、その他の曲は、すべて、 「 上声 」 と 「 下声 」 との間は,

空白、つまり、通常の記譜法になっています。


★また、題名も 「 Prelude e Fugue Par J.S.Bach 」 と、

フランス語風に書かれています。


★さらに、2、3ページ目が、水に濡れたようにぼやけており、

大変に、読み難くなっています。

この Prelude だけが、他の曲とは書かれた時期が、

異なっているのかもしれません。

 

 

 


★しかし、この 17番以降、「 Wohltemperirte Clavier Ⅱ

平均律クラヴィーア曲集 第 2巻 」 は、

異例続きの、物凄い “ 高揚感 ” と “ 密度 ” をもって、

進んでいきます。

その合図と、受け取るべきなのかもしれません。


★また、 17番  Fuga の楽譜は、いつもの書式に戻っていますが、

第 1提示部 ( 主調 提示部 ) が、異常に高い音域で、

構成されています。

1、2小節の Subject  ( 主題 ) の提示は、 Alto アルト 声部 ですが、

最高音が 「 f2 2点 へ音 」 で、まるで soprano ソプラノ の音域を

カバーしているような主題です。


★3、 4小節の Answer  ( 応答 ) は、 soprano ソプラノ 声部ですが、

最高音は、なんと 「 c3 3点 ハ音 」 です。

同時に  Counter subject 対主題が、 alto アルト 声部で、

奏されるのですが、この soprano ソプラノ 声部と

alto アルト 声部の二声が、異常に 「 高音域 」 にあるのです。

 

 


★6小節目は、 tenor テノール 声部で Subject 主題が、

提示されますが、これも高い音域であるために、

下声部は、お決まりである 「 bass バス記号 」 ではなく、

「 alto アルト記号 」 で、記譜されています。


★このような高い音域で提示しますと、一般的には、

やや貧弱に聴こえることも、あるのですが、

この提示部は、 ≪ 清澄でやや憂いを帯びた ≫

美の極致 ともいえるほど、素晴らしい提示部です。


★「 As-Dur 」 で、高い音域がとても特徴的である音楽が、

どこかにあった・・・と、ふと、思いました。

 

 

 

 


★Edwin Fischer エドウィン・フィッシャー (1886~1960) の

「 Wohltemperirte Clavier Ⅱ 平均律クラヴィーア曲集 第 2巻 」

の録音を、聴きました。


★ 分かりました。

Beethoven  ベートーヴェン(1770~ 1827) の Op.110

≪ Klaviersonate As-Dur  ≫ の1楽章 第2 Thema テーマ の響きと、

大いに、共通するものがあることに、気付きました。

この Op.110 Sonata には、美しい Fuga があることも、

偶然ではないのです。


★Bach  と Beethoven  の偉大な作品から、

この ≪ As-Dur の響きと性格 ≫ を、私たちは、正確に、

学ぶことができるのです。

 

 

 


★講座では、また、Bartók や Röntgen の

fingering フィンガリング によって、

示されている 「 解釈 」 、「 演奏法 」 についても、お話します。


Röntgen 版では、Prelude の 1小節目 下声冒頭の

「 as 」  に  「 3指 」、

1小節目 下声 5番目の  「 g 」 が 、  「 2指 」  に、

指定されていますが、これにより、

「 as - g 」  の motif モティーフ が、形成されていくのです。


★それが、例えば、 Fuga 3小節目の先ほど述べました 

soprano ソプラノ 声部の Answer 応答  冒頭の、

「 as2 」  と 「 g2 」 の  motif モティーフに、

どう発展していくか、それを、ご説明いたします。


★通常、 4分の 3拍子の  Prelude の場合、

1拍単位で、音を見ていきますから、

下声は、 「 as - b - c1 」 の一拍目と、 「 es - g - as 」 の 二拍目と、

「 c - des - es 」 の 3拍目を、グループとしてとらえ勝ちで、

演奏もそのように、強拍を中心とした、

単調で機械的な演奏に、なり勝ちです。


★しかし、Bach の音楽はそのように単調で、

干からびたものでは、ありません。

そこから、どう脱却し、Bach の豊饒な世界に近づくかを、

この fingering フィンガリング が、指し示しているのです。

 

 

 


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