■ 「横道萬里雄の能楽講義ノート」を読む ■
2006/8/24(木)
★ 雑誌「観世」06・9月号に、≪横道萬里雄の能楽講義ノート(1)謡の楽型≫が掲載されています。
東京芸大在任中の1983年度になさった講義が幸い、聴講者の手によって録音されていました。
その録音を起こしたものです。
講義は全19回、「能の音楽技法」の概説が目的ですが、具体例や比喩が散りばめられています。
私も在学中に、これとは別の横道先生の講義を受講したことがあります。
当時は、作曲科の学生にとって、先生の講義を受講しても単位として認定はされませんでした。
楽理科の学生に混じって聴いていましたが、あまりに内容が深く、ほとんど分らないまま卒業してしまいました。
今回、読み直しまして、初めて少し分るとことが出てきました。
とても嬉しいです。
先生は、まず、日本の音楽はどれもそうですが、五線譜に採って分析しても実態は分らない、
と前置きしたうえで、
「能の音楽を考えるとき、西洋音楽の理論で解明するのではなく、白紙で能の音楽が
どういうものであるかをつかまえる、後でそれを、西洋音楽の理論で解釈することはできる」と
指摘します。
★ 一例を挙げますと、能の音階に「ツヨ音階・ヨワ音階」がありますが、ツヨ吟の音階での
「中音(ちゅうおん)」と「上音(じょうおん)」は全く、同じ高さです。
私もお能を習いながら、同じ高さなら音名は一つでいいのでは、と思いますが、そこがどうにも理解できません。
横道先生は、「謡の前後の流れから音名が二つ必要である」という一般的な説明のほかに
「江戸末期まで、ツヨ吟の音階は、上音と中音の音の高さが違っていた」と付け加えられています。
「下ノ中音と下音も高さが違った」ともおっしゃています。
「それが段々、一緒になってきた、そう言う歴史的事実があるのです」
この時代的変遷は初めて知りました。
ということは、江戸時代以前の能と現代の能は、旋律がやや違う、ということになります。
室町時代から、全く変わらずに続いてきたようなイメージがありますが、すこしづつ、変貌しているのですね。
★ 20世紀初頭のアイルランドの詩人イェーツが、日本の能に刺激を得て、詩劇「鷹の井戸」を書きました。
横道先生は、これを基に新作能「鷹の泉」を創作されました。
私は、2004年12月、能楽観世座で、この「鷹の泉」を、シテ「鷹姫」=観世清和さん、
老人=友枝昭世さんで観ました。
★ 「観世」の次号に載る講座も楽しみです。
このような貴重な講義を復活される檜書店の企画に拍手を送ります。
★ 横道萬里雄(よこみち まりお)
1916年生。1941年東京帝国大学文学部卒業。1974年東京国立文化財研究所芸能部長。
1976年東京藝術大学音楽学部教授。1984年同大学定年退官。1990年沖縄県立芸術大学付属研究所長を歴任。東洋音楽学会、日本演劇学会、舞踏学会、日本歌謡学会、楽劇学会、能楽学会等に所属。
主な著書、共著に「謡曲集」、「能劇逍遥」、「能劇の研究」、岩波講座「能・狂言」、
「謡いリズムの構造と実技」など。
★ 檜書店のこのページに横道先生の著書などが紹介されています。
http://www.hinoki-shoten.co.jp/publication/books_study.html
▼▲▽△▼▲▽△無断での転載、引用は固くお断りいたします▽△▼▲
2006/8/24(木)
★ 雑誌「観世」06・9月号に、≪横道萬里雄の能楽講義ノート(1)謡の楽型≫が掲載されています。
東京芸大在任中の1983年度になさった講義が幸い、聴講者の手によって録音されていました。
その録音を起こしたものです。
講義は全19回、「能の音楽技法」の概説が目的ですが、具体例や比喩が散りばめられています。
私も在学中に、これとは別の横道先生の講義を受講したことがあります。
当時は、作曲科の学生にとって、先生の講義を受講しても単位として認定はされませんでした。
楽理科の学生に混じって聴いていましたが、あまりに内容が深く、ほとんど分らないまま卒業してしまいました。
今回、読み直しまして、初めて少し分るとことが出てきました。
とても嬉しいです。
先生は、まず、日本の音楽はどれもそうですが、五線譜に採って分析しても実態は分らない、
と前置きしたうえで、
「能の音楽を考えるとき、西洋音楽の理論で解明するのではなく、白紙で能の音楽が
どういうものであるかをつかまえる、後でそれを、西洋音楽の理論で解釈することはできる」と
指摘します。
★ 一例を挙げますと、能の音階に「ツヨ音階・ヨワ音階」がありますが、ツヨ吟の音階での
「中音(ちゅうおん)」と「上音(じょうおん)」は全く、同じ高さです。
私もお能を習いながら、同じ高さなら音名は一つでいいのでは、と思いますが、そこがどうにも理解できません。
横道先生は、「謡の前後の流れから音名が二つ必要である」という一般的な説明のほかに
「江戸末期まで、ツヨ吟の音階は、上音と中音の音の高さが違っていた」と付け加えられています。
「下ノ中音と下音も高さが違った」ともおっしゃています。
「それが段々、一緒になってきた、そう言う歴史的事実があるのです」
この時代的変遷は初めて知りました。
ということは、江戸時代以前の能と現代の能は、旋律がやや違う、ということになります。
室町時代から、全く変わらずに続いてきたようなイメージがありますが、すこしづつ、変貌しているのですね。
★ 20世紀初頭のアイルランドの詩人イェーツが、日本の能に刺激を得て、詩劇「鷹の井戸」を書きました。
横道先生は、これを基に新作能「鷹の泉」を創作されました。
私は、2004年12月、能楽観世座で、この「鷹の泉」を、シテ「鷹姫」=観世清和さん、
老人=友枝昭世さんで観ました。
★ 「観世」の次号に載る講座も楽しみです。
このような貴重な講義を復活される檜書店の企画に拍手を送ります。
★ 横道萬里雄(よこみち まりお)
1916年生。1941年東京帝国大学文学部卒業。1974年東京国立文化財研究所芸能部長。
1976年東京藝術大学音楽学部教授。1984年同大学定年退官。1990年沖縄県立芸術大学付属研究所長を歴任。東洋音楽学会、日本演劇学会、舞踏学会、日本歌謡学会、楽劇学会、能楽学会等に所属。
主な著書、共著に「謡曲集」、「能劇逍遥」、「能劇の研究」、岩波講座「能・狂言」、
「謡いリズムの構造と実技」など。
★ 檜書店のこのページに横道先生の著書などが紹介されています。
http://www.hinoki-shoten.co.jp/publication/books_study.html
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