■平均律の「序文」を"舐めるように"学ぶと、平均律の全貌が姿を現す■
~3月21日はBachの誕生日、存命中なら333歳に~
2018.3.21 中村洋子
★3月21日は、 Johann Sebastian Bach バッハ (1685-1750)の
誕生日です。
Bach先生については、のちほど。
★土筆も顔を出し、いよいよ春本番です。
≪羽二重の膝に飽きてや猫の恋≫ 支考
江戸中期の蕉門十哲の一人、
美濃の人、各務支考(かがみ しこう 1665-1731)の句。
★羽二重をお召しになっている奥さまかお嬢さま。
お着物の膝の上でぬくぬくと暖まっていた猫ちゃん、
春は猫も恋する季節。
安穏な生活を、後ろ足で蹴って飛び出す春の猫。
猫版アンナ・カレーニナ。
★≪両方に髭のあるなり猫の妻≫ 来山
小西来山(1645-1716)の作。
支考も来山も、Bach (1685-1750)の一世代前の作家です。
家を飛び出した猫も、 いまでは立派で貫禄十分なおかみさん。
"夫婦"とも立派な髭が生えそろっています。
★昨年末に観た映画。
≪猫が教えてくれたこと Kedi≫、
トルコの古都イスタンブールに暮らす七匹の"地域猫"の生活風景。
「サイコパス」というあだ名の白黒猫は、古い教会の裏にある
趣ある喫茶店にたむろします。
闘争本能むき出し、気性の激しいメスです。
縄張りに近づくよそ者猫を、ネコパンチで蹴散らかし、
喫茶店の親父も尻に敷きます。
野良犬も、彼女に一目置いています。
★この映画は、猫を見せるとみせかけて、
イスタンブールの市井に生きる人々を、
愛情深く、活写しています。
立ち退きの決まった旧市場の人たち、
自分の行く末より、そこに生活する猫を案じています。
★今日は、Bachの誕生日です。
もし、存命中ならちょうど、333歳です。
3月24日の「「平均律第1巻第2番 c-Moll」アナリーゼ講座の準備で、
忙しい毎日です。
★1月の「1番C-Dur」講座では、資料を16ページ作り、
参加者に皆さまにお配りしましたが、
今回は更に増えて、20ページにもなってしまいました。
それでも広大なBachの宇宙の一端を、
鰹節を美味しそうに齧る猫のように、
味わうだけかもしれませんが、
私の能力の限り、全力投球した結果であることは、
間違いありません。
★講座では、
「Inventionen und Sinfonien インヴェンションとシンフォニア」、
「トッカータ Toccata」、「Suite für Violoncello solo 無伴奏チェロ組曲」
との関連も、お話する予定です。
★Bachが「「平均律第1巻」に自ら書いた禅問答のような、
わずか20数行の「序文」を手掛かりにして、
平均律を勉強していきますと、
https://www.academia-music.com/shopdetail/000000177122/
今回の「2番」が、全24曲の中の非常に番号がかけ離れた曲と、
なぜ、がっちりと手を結びあっているのか、
それが分かってきます。
★それが理解できますと、「1番 Fuga 」には嬉遊部もなく、
曲の初めから「ストレッタ」が、連続して出現する理由も、
なるほどと納得されるはずです。
★つまり、全24曲を"舐めるように"勉強し続けますと、
平均律の全貌がようやく顔を現し、
「1番 Prelude & Fuga」も完全に理解できるようになる、
と思います。
★同時に、平均律全24曲を「1曲」ととらえる場合、
全24曲を、一つの地球儀のような球体に譬えることもできます。
その球体を探るには、
「Inventionen und Sinfonien インヴェンションとシンフォニア」の
全容を解明する必要があります。
★幸い、Edwin Fischer エドウィン・フィッシャー(1886-1960)が、
素晴らしい校訂版を、残していてくれます。
それを勉強することで、平均律への理解が飛躍的に、高まります。
★平均律とインヴェンションとシンフォニアを理解することで、
Bach以降の大作曲家によるマスターピースが、なぜ、
「マスターピース」であるうるのか、
それが自ずと分かってくることでしょう。
逆に申しますと、その大作曲家と同時代の
有名であったであろう他の曲と、どう違うのかについても、
容易に回答がでることでしょう。
★私の判断ですが、後世の「マスターピース」で、
Bachの作品から派生していないものは、ほぼ皆無でしょう。
皆さまは是非、個々の作品により、ご自分で判断してください。
伝記やエピソードによって、ある作曲家がBachについて、
批判的なような言葉を残していたことが、あったとしても、
それを鵜呑みにしないでください。
正直に、"Bachあっての私です"という作曲家はいません。
作品そのものによって、判断してください。
作曲家の言動と作品とは峻別されるべきです。
★そのように勉強していきますと、作品の良し悪しだけでなく、
演奏の良し悪しも、はっきりと見極めることが可能となります。
サーカスや曲芸のような、表面的技巧をひけらかす演奏に、
惑わされることなく、
本当の演奏を聴き分け、自分でも素晴らしい演奏が
できるようになる、という嬉しい結果を生みだします。
★Edwin Fischer エドウィン・フィッシャーの校訂版について、
少し、見てみましょう。
「Inventio 15」の自筆譜は、このように書かれています。
Fischerは、このようなフィンガリングを付けています。
このフィンガリングから、たくさんの情報、提案が読み取れます。
一例として、2小節目の4拍目をご覧ください。
3拍目の2番目の音「d¹」が「1指」ですから、
4拍目の「d¹」も、おそらく「1指」
更に4拍目「d¹」を「1指」で弾くなら、続く、
「e¹-fis¹」は、「2-3」に、に相違ありません。
★Fischerが、このように、言わずもがな、書かずもがなの、
Fingeringフィンガリングを、わざわざ付しています。
これは、「ここがとても重要な音(→motif)ですよ」という
指示を出しているのです。
★それでは何故、この「d¹-e¹-fis¹」が重要なのでしょうか。
まず、1小節目3拍目と、2小節目1拍目の「trillトリル」に、
Fischerが、フィンガリングを付けていることに注目してください。
2小節目3拍目のtrillについては、「以下同様」ということで、
フィンガリングはありません。
★このように、「a¹-g¹- fis¹」 「g¹-fis¹-e¹」 「 fis¹- e¹- d¹」 の
連続する三つの下行3度motifが、
形成されることが分かります。
★この3番目の下行3度 motif 、即ち、2小節目3拍目の
「 fis¹- e¹- d¹」 の反行形(逆行形も同じ形です)が、
2小節目4拍目の「d¹-e¹-fis¹」の、上行3度motifなのです。
★もちろん、1小節目3拍目、2小節目1、3拍目の、
拍頭の「g¹-fis¹-e¹」によっても、
下行3度motifが形成されています。
★ほんの少し見ましただけでも、Fischerのフィンガリングには、
この主題をどう解釈するかの情報が、満載されています。
どこから押しても、一寸の隙も無く堅固な、
城壁のような主題です。
★さて、この「Inventio 15 h-Moll」が、
平均律1巻2番c-Moll とどのように繋がっていくのでしょうか。
講座で詳しく、お話いたします。
★4月は、Wolfgang Boettcher ヴォルフガング・ベッチャー先生が、
お姉様のピアニストUrsula Trede-Boettcher
ウルズラ・トレーデ・ベッチャー先生と一緒に、
私の「チェロ四重奏」の「チェロとピアノDuo版」を、
Mannheimマンハイムで、初演してくださいます。
先生から連日のように、メールが届き、
わずかな疑問についても、問合せをされてきます。
そのひたむきな真摯さに、感服いたします。
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