音楽の大福帳

Yoko Nakamura, 作曲家・中村洋子から、音楽を愛する皆さまへ

■厳しい構造のゴルトベルクを支えているのが、「甘美な和音」と「美しいゼクエンツ」■

2016-06-19 02:26:38 | ■私のアナリーゼ講座■

■厳しい構造のゴルトベルクを支えているのが、「甘美な和音」と「美しいゼクエンツ」■
 ~第3回「ゴルトベルク変奏曲・アナリーゼ講座:第7、8、9変奏」~
               2016.6.19    中村洋子

 

 

 

25日の第3回「ゴルトベルク変奏曲・アナリーゼ講座」や、

29日の「平均律第1巻3番・アナリーゼ講座」で、忙しい毎日です。


★「Goldberg-Variationen ゴルトベルク変奏曲」につきまして、

なぜBachが、この巻だけ「Clavierübung クラヴィーアユーブング」

とだけ書き、

「Vierter Theil der Clavierübung クラヴィーアユーブング 第4巻」

とは
書かなかったか・・・

第30変奏がなぜ「Quodlibet」となっているのか・・・

それらについて、Bachが所持していました初版譜を写譜することで、

その理由が、ようやく分かってきました

講座でご説明いたします。

 

 


★第3回アナリーゼ講座は、第7、8、9変奏の三曲です。

講座では、この三つの変奏曲の構造を徹底的に、

お話する予定です。


この厳しい構造の変奏曲を支えているのが、

心をとろけさすような「甘美な和音」です。

厳しさだけでは、人の心をとらえることはできません。

美しく甘い和音が必要なのです。

さらに、その和音を輝かせるのが、

Bachにしかできないような、

 「Sequenz(ゼクエンツ)反復進行」という妙技です。

 

 


★その例を、挙げてみましょう。

第8変奏の9、10、11小節です。

初版譜はこのようになっています。

 

 

左手部分を、和声要約してみます。

 

 

ピアノかその他の楽器で、弾いてみて下さい。


★左手、右手すべてを、和声要約します。

 

 

★さらに分かりやすくするため、各小節3拍目の和音を、

基本形にします。

 

 

溜息の出るような「美しいゼクエンツ」です。


★実は、Bachのゼクエンツの源は、

Pachelbel パッヘルベル(1653 - 1706)のカノンなのです。

私の著書≪クラシック音楽の真実は大作曲家の自筆譜にあり!≫で、

パッヘルベルのカノンについても触れております、P258

 

 

 


第4変奏について、次のようなご質問がありました。

「17小節目1拍目をD-Dur のトニックとし、それをG-DurのⅤと読み替えて、

3拍目を G-Durの属七の第3転開形としていますが、17小節目をいきなり、

G-Durとしてはいけなのでしょうか。

17小節目の1拍目は、G-DurのⅤドミナントに聴こえます。」


★回答です。

第4変奏の前半最後の16小節目2括弧は、D-Durで終わります。

 

 

譜例で「Ⅰの11」と書きましたのは、

主音上の属七の和音という意味です。

 

 

主音の上に属七の和音を配置しますと、主音から数えて、

属七の第7音はちょうど11度上になります。

この16小節のように、フレーズの区切りで終止するとき、

いきなり主和音を置かず、名残惜し気に

主和音の上にもう一度属七を配置し、

それからおもむろに、主和音単独の和音に進行します。

 

 


★どちらにしましても、16小節第2括弧は、確固たるD-Durで始まり、

その後バスの「a h cis¹」は、D-DurのドミナントⅤを暗示します。

 

 

ですから、17小節目の1拍目「d¹」と2拍目の「fis²」の二つの音から、

D-Durの主和音が聴こえてきます。

 

 


★しかし、3拍目の「c¹」で「ナチュラルc¹」が聴こえますと、

ここではっきりG-Durの属七となります。

 

 


★もう一度、ご質問の

「17小節目の1拍目は、G-DurのⅤドミナントに聴こえる」に戻りますと、

「1拍目がD-Durのトニックでありながら、

G-DurのⅤのドミナントと読み替えることができる」といえます。

 

 


★この方が「D-Durに聴こえる」と思ったのはなぜかを、

さらに考えますと、それは、17、18小節目のバスにあります。

 

 


★実は「d¹ c¹ h」の三音は、1、2小節目バスの「g fis e」に

対応しているのです。

 

 

第4変奏の冒頭1、2、3小節のバス「g fis e」の下行3度順次進行が、

強く耳に残っているため、後半部分の冒頭17、18小節の

バス「d¹ c¹ h」の下行3度順次進行も、

冒頭1、2、3小節が、明確にG-Durで始まるように、

後半冒頭の17、18小節も明確にD-Durで聴こえると、

感じたのでしょう。


Bachのmotifをしっかりと聴き、記憶し、

音楽をアナリーゼしていらっしゃいます。


★25日のアナリーゼ講座は、キャンセルが出ましたので

若干名、ご予約が可能です。

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3回 ゴルトベルク変奏曲・アナリーゼ講座: 7、8、9

 

日時: 2016年625(土)  14001630

 

■会場: 文京シビックホール、 練習室1(地下1階)

 

■≪申し込み・お問い合わせは≫アカデミアミュージック企画部

Tel. 03-3813-6757

E-mail. fuse@academia-music.com

 

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