音楽の大福帳

Yoko Nakamura, 作曲家・中村洋子から、音楽を愛する皆さまへ

■Chopin の平均律アナリーゼ、 Caillebotte の名画「ピアノを弾く若い男」■

2012-04-29 23:55:27 | ■私のアナリーゼ講座■

■Chopin の平均律アナリーゼ、 Caillebotte の名画「ピアノを弾く若い男」■

                          2012.4.29  中村洋子

 

 

★明30日、横浜の 「 Kawai みなとみらい 」 で、

新しいシリーズの、アナリーゼ講座が、始まります。

Chopin が所持していました  「 平均律クラヴィーア曲集 」 楽譜を、

基にしての、Johann Sebastian Bach  バッハ (1685~1750) 、

≪ 平均律 第 1巻 ・ アナリーゼ講座 ≫ です。

この楽譜には、Frédéric  Chopin ショパン (1810~1849)が、

自ら、 「 tempo」 、 「 発想記号」、 「 ディナミーク 」、

「 expression 」 などを、詳細に、たくさん書き込んでいます。


★この書き込みを、 1小節ごとに分析していきますと、

 Chopin が、どのように Bach をアナリーゼし、さらに、

どのように弾いていたかまで、手に取るように、分かってきます。


★Chopin が、眼の前で Bach を弾いてくれているかのような、

錯覚を、覚えるほどです。

それは、類稀な “ 天才の演奏 ” です。

驚きに満ち、刺激的、そして、魅力的です。


★明日の講座では、驚きの数々を、ご説明いたします。

それらは、 Bach をご自分で演奏されるに当り、

きっと、得難い大きな糧となることでしょう。 

 

 


★ゴールデンウイークに入り、私なりに、ささやかな、

「 楽しみ 」 に、行ってまいりました。


映画 「 Pina/ピナ・バウシュ 踊り続けるいのち 」  と、

ブリジストン美術館での、開館 60周年記念

「 あなたに見せたい絵があります 」 展です。


★ヴィム・ヴェンダース監督のこの映画は、

 前衛的な現代舞踊の大家 Pina Bausch ピナ・バウシュ

(1940~2009) の、軌跡を描いた映画です。

日本で活躍する、現代舞踊の源は、

“ なるほど、この Pina から発していた ” ということが、

実感できる映画です


★映画は、 「 3D 」 という立体的な映像を、見せてくれます。

観客の頭上を、ダンサーが飛び跳ねているような感じです。

しかし、慣れてしまえば、

他愛もない仕組みである、ともいえます。

 

 


★ブリジストン美術館の展覧会は、新しく買い上げました

Gustave Caillebotte ギュスターヴ=カイユボット (1848-1894) の、

「Young man playing the piano ピアノを弾く若い男 」 (1876) です。

http://www.bridgestone-museum.gr.jp/news/2012/53/


★私は、ワクワクしながら、見に行きました。

Caillebotte は、フランス印象派の画家であると同時に、

裕福なパトロンとして、仲間の画家を支え続けた人です。

今日、印象派の絵画を、Paris の Musée d'Orsay 

オルセー美術館で、まとまって見ることができるのも、

Caillebotte のお陰です。


★この絵は、期待以上に凄い絵でした。

これを、20代で描くとは、驚嘆ものです。

モデルは、Caillebotte の弟で、部屋は自宅だそうです。

ピアノを弾く人なら、すぐに気付くと思いますが、

ピアノと人間の位置が、実際にはあり得ない構図です


★ピアノの位置が正しいとすると、この男性は、

私たち ( 観客  ) に対し、背を向けていなくてはいけませんが、

男性は、横向きになって、横顔と手もよく見えます。

現実にはあり得ない構図です。

しかし、男性とピアノが目に飛び込んできます。

そうです、「 3D 」 なのです。

 

 


★男性の見ている楽譜も、実に美しい。

遠目にも、 “ 音楽をよく知っている人 ” が描いた楽譜であると、

直ぐ、分かります。

音楽が、 “ 流れている ” のです。


★その楽譜は、 「 ピアノ譜 」 ではなく、どう見ても、

室内楽か、もう少し規模の大きな編成の曲であることが、

縦線の長さから、読み取れます。

楽譜立ての横に、無造作に置かれている 3冊の楽譜も、

 「 ピアノ譜 」 ではなく、 「 スコア ( 総譜 ) 」 としか見えません。

厚みからして、オペラでしょうか、シンフォニーでしょうか?

しかも、表面がめくれ上がるほど、毎日使っている様子。

 

★裕福で教養深い、この若い男性は、

どうやら、 「 スコア ( 総譜 ) 」 を楽々と、

読みこなせる人のようです。

それをピアノで弾いて、毎日、楽しんでいる。

少し開けられた口は、音楽に夢中となり、

恍惚としているのかもしれません

指のフォームも美しい。

素晴らしいピアノ教師に習っていたことが、一目瞭然です。

 

★Caillebotte は、絵画だけでなく、

音楽にも、精通していた人でしょう。

音楽の最高の楽しみを、知っていた人です。

これが、教養、ヨーロッパ文化。

文化の厚み、というのかもしれません。

  
★色彩と構図も、素晴らしいですね。

腰かけている椅子の背もたれが、深紅のベルベット、

画面右端の、無人の椅子も紅、

壁と壁を仕切る縦の線は、ピアノに垂直に突き刺さるよう。

それも、赤。

男性の襟も、カーテンの模様も、赤。


★それらの赤が、大きな漆黒のピアノを、

押さえこむかのように囲み、凄いエネルギーを、

生み出しています。

その緊張感溢れるせめぎ合いを、窓の透明なレースが、

軽やかに、愛撫しています。

完璧な、絵です。

 

★Caillebotte の 「 3D 」 は、まさに、

あの Paul Cézanne ポール・セザンヌ (1839~1906)が、

終生、追及した世界です。

「Young man playing the piano ピアノを弾く若い男 」 を、

鑑賞することは、≪ Cézanne への道 ≫ でもあるのです。


このような人が、印象派の誕生を、物心共に助け、

自身は後年、絵を書くことを、止めてしまう。

美術史の謎ですね。

この名画を、日本の美術館が選び、購入した。

そして、Tokyo 東京で出会えた。

幸せなことです。


★明日のアナリーゼ講座 (午後2時~) は、満席に近いため、

お出かけの際は、ご予約をお願いいたします。

 


                                   ※copyright © Yoko Nakamura
▼▲▽△無断での転載、引用は固くお断りいたします▽△▼▲

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