■ Debussyは、「Chopin のマズルカ」から、 Bach の何を発見したか?■
2012.4.22 中村洋子
★桜が、風に舞って散りましたら、海棠、木蓮、八重桜、シャガ、
山吹、五色散り椿が、次々と、そして、躑躅、あでやかな牡丹も・・・。
しかし、肌寒い春です。
地球温暖化から一転して、寒冷化に向かう、
という真摯な研究成果も、発表されています。
ことしは、冷夏になるかもしれません。
★今週4月27日、KAWAI表参道で開催します
「 Bach 平均律・アナリーゼ講座」 では、
Johann Sebastian Bach バッハ ( 1685~1750 ) と、
Frédéric Chopin ショパン (1810~1849) の、
≪ Mazurka マズルカ ≫ との関係を、お話いたします。
★今日は、 Mazurka Op.33 の自筆譜を眺めながら、
久しぶりに、Samson François の CD を聴き、
Debussy が、この Mazurka にどのような Fingering を、
付けているのか、ピアノで実際に弾いてみました。
知的な、興奮に満ちた一日でした。
★Durand 社は、1914年から、フランスを代表する作曲家たち、
Saint-Saëns サン・サーンス (1835~1921)、
Gabriel Fauré ガブリエル・フォーレ(1845~1924) 、
Maurice Ravel モーリス・ラヴェル(1875~1937) などに、
「過去の大作曲家の作品の校訂」を、依頼しました。
★Claude Debussy クロード・ドビュッシー (1862~1918)は、
Chopin ショパン のピアノ作品全集 全12巻を、校訂しています。
★私も、この Debussy 校訂楽譜を数冊、持っていたのですが、
「あの Debussy が校訂した Chopin 」 という、興味から、
購入してみたものの、ほとんど、開いたことがありませんでした。
もったいない、飛び切りもったいない扱いでした。
購入当時、その校訂楽譜の真価が、まだ理解できていなかったため、
“ ツン読 ” になっていた、と思います。
★しかし、 Bach を継続して勉強し、さらに、
Bachの 「 Wohltemperirte Clavier 平均律クラヴィーア曲集 」 や、
「Inventionen und Sinfonien インヴェンションとシンフォニア」 に対し、
Bartók Béla バルトーク (1881~1945) や、
大ピアニスト Edwin Fischer エドウィン・フィッシャー (1886 ~ 1960) が、
考え抜いて校訂した楽譜の ≪ Fingering ≫ について、
それが 「 何を意味するか 」 を、学び、理解した後には、
この Debussy の校訂した Chopin の ≪ Fingering ≫ が、
“ どんなに、凄いものなのか ” くっきりと、胸に迫ってきました。
★これも、一重に Bach のお陰です。
Fischer 、 Bartók 、 Debussy の ≪ Fingering ≫ は、
≪ 曲の構造を、どのように捉えるか ≫ を、指示しているのです。
「 楽に弾く 」 ための 「 指使い 」 では、ないのです。
★Mazurka Op.33 Nr.1 gis-Moll の、自筆譜を見ますと、
最初に、目に飛び込んできますのは、その音楽のように美しい、
「 slur スラー 」 による、フレージングです。
曲の冒頭上声は、アウフタクト Auftakt dis 1 から、
第 1フレーズが始まり、2小節目の 1拍目 2分音符 gis 1 で、
第 1フレーズは、終わります。
★スラーは dis 1 から、始まりますが、終わりは gis 1 の符頭を、
飛び越え、2小節 2拍目 の真上まで、続いています。
2小節目 1拍目 は、2分音符ですから、
音は実際には 2拍目まで、続いています。
しかし、記譜の習慣上、 slur スラーの終着点は、
最後の音の符頭の上、です。
そのように記された箇所も自筆譜に、実際にあります。
★この話は、どこかで見た記憶がおありになるでしょう。
そうです、前回のブログ 「 Debussy L'isle joyeuse 喜びの島 」、
前々回ブログ 「 Beethoven 弦楽四重奏 」 で、指摘したことと、
同様の、記譜なのです。
★上声は、2小節目 3拍目の gis 1 から、
第 2フレーズのスラーが始まりますが、 Chopin は、gis 1 の符頭の
頭上に、たなびく雲のように、まるで、第 1フレーズのスラーが、
終わろうとして終わらず、書き足し、書き継いだように、書いています。
★そして、3小節目 3拍目の e 2 で終わるはずが、フワフワと、
3小節目と4小節目とを区切る 「 小節線 」 の方まで、
たなびいていきます。
1番目のフレーズの後に、言い足りなかったことを、
まるで、 「 つぶやいている 」 、かのようです。
★第 1フレーズを、もう少し詳しく見てみますと、
上声冒頭の開始音 dis 1 と 終止音 gis 1 にも、
アクセントが、付いています。
Chopin は、この二つの音を、どうしても強調したかったのです。
この二つの音とは、何でしょう?
そうです!
gis- Moll の dis は属音、gis は主音なのです。
★この間、下声 ( 左手 ) は、何をしていたか?
冒頭の Auftakt は、4分休符。
第 1小節目の 1拍目と 2拍目も、4分休符です。
1小節目 3拍目にやっと、奏される音が Dis 。
それが、2小節目1拍目 Gis にスラーで、結ばれています。
属音 ( Dis ) から、主音 ( Gis ) へと、進行しています。
★上声の Auftakt dis 1 から、 2小節目 1拍目の gis 1 が、
アクセントで強調され、それにより、この二つの音が、
Motiv を形成することが、分かります。
それを、下声の Dis - Gis の Motiv が、 Kanon カノンで、
追うことに、なります。
Kontrapunkt ( couterpoint 対位法 ) です。
★ Debussy は、≪ 上声 ( 右手 ) dis 1 を 2指、 gis 2 を 4指 、
下声 ( 左手 ) Dis を 5指 、Gis を 4指 ≫ と、指定しています。
これは、何を意味するのでしょうか?
講座で、詳しくお話したいと、思います。
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