のらやま生活向上委員会 suginofarm

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雷と草にはおもねずさからわず

2013年06月22日 | 農のあれこれ
雷雲の塊に3度見舞われる午後となった夏至の日に
NPO手賀沼トラストの農教室研修で栃木県の有機稲作の現場を見てきました

一件目は野木町のTさん
ちょうど田植えの真っ最中で
これから植えようとする田んぼに田植え機を置いたまま説明をいただきました
5月の連休ごろに田植えをしたまわりのイネは分けつを終え
中干しになろうかという時期の田植えです

Tさんの稲作りは有機栽培に取り組んで30年
アイガモ稲作やレンゲ稲作などいろいろな試行錯誤を経て
現在の雑草と共生する独自の方法にたどりついたそうです

秋から春にかけては耕さず、冬の雑草の繁茂するのを待ちます
スズメノテッポウなどが十分育った4月になって水を入れ、最初の代かき
この春草をすき込むことによって緑肥に
「冬水たんぼ」ならぬ「春草たんぼ」と呼ばれる所以です

一回目の代かき後は水を張ったまま夏の水生雑草の芽の出るのを待ちます
出そろったかなという頃あいに二回目の代かき
また水を入れたまま雑草の芽の出すのを待ちます
さらに雑草の芽が出てから三回目の代かき

3回も代かきをすると地表近くにある雑草の種はほぼ芽を出しつくします
そもそも6月になると雑草の種は時期的に芽を出そうとしなくなるそうです
秋までに次の種を作るまで成育できないと分かっているかのようだといいます

6月の声を聞く頃から田植えを開始
苗はポットで50日(!)ほどかけて十分に育成します
慣行栽培の2倍の期間です
イネは苗の状態で成育していますから
田植えが遅くなっても稲刈りも同じように遅れるということはありません

大きな苗を育てることは害虫や病気に負けないようにするための基本
50日も育苗期間を待てるのはポット苗だからこそです
ポット苗はたこ坪状に培土が区切られた中に種を2粒づつ落とし
覆土してから苗代用の田んぼに設置します
育苗中の肥料は基本的には苗代田んぼの土の方にあって
ポットの底にあいた穴から根をだして成育します
Tさんは苗代田んぼには米ぬかを播いているだけだそうです

箱一面に培土の敷かれたところに種を播くマット苗は
培土に肥料分が含まれていて
イネの根がそれを求めて互いに絡み合います
田植え時には絡み合った根を掻き取っていきますので
根が傷みます
ポット苗は根傷みが最低限で済みイネの活着がよいといわれます
マット苗の箱の中には限られた肥料分しかありませんし
苗密度が混んでいますから
あるところまで成育したら苗の成長は限界に達し“老化苗”に
それに対しポット苗は苗と苗の間隔は広いし
育苗中の肥料分は苗代田んぼの中に根をのばせばいいので
十分に苗が成長するまで待つことができます
多くの有機稲作農家がポット苗を採用している理由です

              

と、ポット苗の長所はあるのですが、欠点もいくつか
ポット苗を機械で植えるにはそれ専用の田植え機が必要
もちろん苗箱も播種機も専用となります
慣行栽培から乗り換えるには相応の再投資が必要になります
用水を自由に使える苗代田んぼも必要です
用水の通水が始まる4月中旬以降に播種をすれば対応できますが
Tさんの場合は自家用の田んぼの井戸があるので
育苗中も稲刈りが遅くなった周りの慣行栽培のリズムに合わせなくともよいとのこと

Tさんは害虫、とくにカメムシ対策に田んぼまわりの雑草はそのまま繁茂させ
カエルやクモが生息できる環境を維持していました
イネ科の雑草を残してエサを用意することで
カメムシが田んぼのイネに手を出さないようにしているとのこと
田んぼまわりはひと月に一度ぐらいの間隔で定期的に草刈りを行わねばならず
不安定な場所での作業ですからけっこうな重労働です
それが省けるなら願ってもないことですが
問題は周辺田んぼとの協調
有機圃場ではどこでも問題となります
雑草の種が飛ぶ、害虫発生の元となると周辺農家からのクレームが出ることも
この点、Tさんは10ha近くの稲作経営ということですが
何箇所かにわかれていてもそれぞれがある程度まとまった田んぼを管理しています

すべての田んぼが自家所有地というわけでなく
年数をかけて借用して管理地をまとめてきたようです
兼業化が進み田んぼを借りやすくなったとはいえ
家族も含め周辺から独自な稲作技術を認めてもらうまでは
大変な努力をされたのであろうと推測します

                

田植えを終えたらあとは収穫を待つだけ
3回もの代かきで地表付近の雑草の種を駆逐し
緑肥とした春草が分解するときに発生する有機酸が発芽した雑草の芽を焼きます
さらにこんなふうに水面をウキグサが覆うようになれば
雑草対策は完成
田植え後は一切田んぼには入らないそうです
かえって田んぼ中を歩いたら
土の下の方から草の種が表に出てきて芽を出させることになります

ふつうは田植えをしてから
やれ除草剤だ、やれ草刈りだ、やれ追肥だといろいろな仕事があるのですが
Tさんは田植えでおしまい
あとは水を常時張っておくだけ
なくなったら水を入れるだけ
田植え時も含めて田んぼから水を外にまったく流さないとか
田んぼの肥料分を流出させないうえに周辺の水路を汚染することもない
まったく小コスト、小ダメージの稲作です

できた米はすべて年間契約の“生消提携”
価格も有機米としての流通
肥料は精米したときに発生する米ぬかだけ
農薬費もかかりません
燃料費は慣行栽培と変わりません
井戸ポンプを回す電気量がかさむといいますが
普通でも用水費を負担していますから余計にかかることもないでしょう

販売提携先は近在の方が多いといいます
直接受け取りに来てくれる場合も多いので運送費もかからないとか
一昨年の原発事故の際もキャンセル等の影響も少なかったそうです

自宅前の条件のよい田んぼで思い通りな稲作ができる
面白くてしょうがないだろうなあと羨ましいほどのTさんでした

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