7月に国立環境研究所で「ネオニコチノイド系農薬と生物多様性」という公開シンポジウムが行われました。この農薬は90年代から主力殺虫剤として広く使用され、農業生産に大きく貢献してきました。一方で、欧米を中心にミツバチ類など野生生物への影響が問題視されていて、国内の一般市民の間からもそのリスクを懸念する声が出されています。今回のシンポジウムは第一線で研究されている4人の研究者たちがこの殺虫剤に関わる問題の最低限の事実関係を整理し、生態リスク評価を考えるうえでの注意点を整理したいという趣旨で行われました。
わが家のナシ栽培でもネオニコチノイド系農薬は特にアブラムシ類の特効薬として使用しています。この農薬は昆虫以外の人や野生動物への影響がなく、①卓越した殺虫効果。②浸透移行性、③残留性のような特徴を持っています。たとえば、アブラムシは植物の生長点に取り付き植物の生育に悪影響を与えます。殺虫剤を散布しても植物が成長したら、またアブラムシが寄ってきます。ネオニコチノイド系農薬は一度散布すると、植物の中に浸透移行し、時間がたち新たに成長した部分に取り付くアブラムシにも殺虫効果があります。結果として農薬散布回数が減り、農業の現場では“21世紀農業の救世主”“理想的な農薬”と言われたこともありました。
ところが、この農薬が普及し始めた頃から昆虫の数が減少し、特に欧米からミツバチの大量死が報告されるようになりました。ネオニコチノイド系農薬の出荷量の増大と昆虫の数の減少に相関関係があるというのです。その後、この農薬がいかに悪かという議論が活発化し、EUでは2年間、この農薬の使用を禁止し、環境への影響を把握するという事態にまで発展しています。
このような現状に対して、4人のパネラーたちに共通していたのは、農薬悪者論のほとんどが科学的データのない中でリスク評価されている、論理的思考ではなく直感的判断にしか過ぎないという意見でした。
まず「毒性が強いこと」と「リスクが高いこと」は別のもの。ミツバチに対して毒性の低い殺ダニ剤の方がリスクの高いことは証明されている。ダニのいないオーストラリアではミツバチの大量死はない。昆虫の減少と携帯電話の普及率にも相関関係があるが、電磁波の影響はないのか…。科学的にはどの因果関係もまだ証明されていないといいます。
農薬を使用しないと農業生産量は激減し、減農薬を実現しているエコファーマーの半分はネオニコチノイド系農薬を使っているといわれます。たとえば農薬を使わずにナタネを作付けすれば減収し、収入が減ればナタネの栽培は減少。早春期の蜜源が減少することになれば、ミツバチにはさらにダメージになるという声もありました。全植物の3/4はミツバチ等の送粉者に依存し、それらの植物による農業生産額は一割弱のシェアーだが、ビタミンAの供給では五割を担っているそうです。
農薬は不可欠だし、重要な役割を果たしているミツバチが少なくなっても困る。要は、農業の持続性と生態保全性のバランスの問題。因果関係を解明しようにも実験室での行動と生態系のなかでの行動は全く異なり、科学的に判断することもたいへん難しい。ミツバチに影響を与えない殺虫剤の開発の方が早いかもしれないという意見もでました。ならば、それまでの間、どうすればいいのでしょうか。
玉川大学のN先生は、ミツバチたちのために蜜源植物を増やそうといいます。さいわい耕作放棄地が大量にあり、そこに花の咲く植物を植えれば地域の景観形成にもなる、と。
なあんだ、わが家で取り組んでいるヒマワリとナタネ(構想中)の地あぶらづくりと同じことじゃないか。生物多様性にも寄与できる仕事だと、専門家からお墨付きをいただいた気になってかえってきました。 (by mit)
(2015年11月)