のらやま生活向上委員会 suginofarm

自然と時間を、都市と生命を、地域と環境を、家族と生きがいを分かち合うために、農業を楽しめる農家になりたいと考えています

ブランドは誇りを形にした旗印(のらやま通信no.298 2019.11)

2019年11月24日 | 農のあれこれ
 先月と今月、ブランディングを考える機会がありました。

 先月はF社のNさんが講演。F社は「農業をデザインで活性化する」をコンセプトに、開拓者三代目としてのフロンティアスピリットを発揮されて北海道十勝が出発点。全国の農業者のブランディングだけでなく、ブランディングした生産物を食材にしたレストランを始めるなど、多方面から農業者を支援しています。

講演は戦国合戦の旗印から始まりました。ブランディングと聞くと、ロゴマークによる販売促進でどれだけの費用対効果があるのかというような発想になります。もちろん外向けの情報発信により、そういった目に見える効果はありそうです。ですが、もうひとつ、その旗印の下でいかに自信と誇りを持って仕事ができるかという内向きの効果が大事だといいます。
自分を奮起させるものは何か?日々、目の前のことに追われていると、自分は何のために仕事をするのか?自分とは何か?なんてなかなか思いも及びません。そこで、旗印が必要になるというわけです。

ついで今月は、M社のKさんの講演。Kさんは高知県の過疎地の出身。消滅していく故郷を前にただお金が回れば地域が継がれていくのかと疑問を感じ、地域の人たちが作り出してきた価値や誇りを100年先まで残していきたいと農業や地域のプロデュースを始めたそうです。

三人のレンガ積みの話がありました。一人目は指示されたままにただレンガを積む。二人目は稼ごうと一所懸命レンガを積む。三人目は街のシンボルとなるようにしたいとレンガを積む。「レンガを積む」という作業の目的は同じですが、三人の目標が異なる。ボーっと生きていなくとも、目の前のやらねばならない仕事や損得に追われがちです。ブランディングとはそれを見直し、事業や地域を継続されるための目標を見つけることだといいます。

具体的には……まず“発掘”。事業者や地域の持っている資源と社会ニーズを掘り起こす。次に“デザイン”。資源とニーズからビジネスデザインを構築する。ここで注意するのは既存の価値を深めるのではなく、価値を転換させること。そして“受け皿づくり”。Kさんの方法は一点突破といいます。①話題性を誘発するよう仕掛ける/②集客がある/③ちょっと手伝おうかという人が出てくる/④関わる人が増えたことでやれることが増える/⑤さらに集客する/⑥ここで初めて売り物が必要になる/⑦地域の中で交流が増える/⑧新たなコラボが始まる……。

たとえば香川県の「さぬきうどん」のプロモーション。うどんを目当てに多くの観光客が訪れ、売り上げもそこそこ。だけど、店の数がどんどん減っている。どうしたらいいのか。うどんは香川の食文化のひとつ。しかし、そのことが若い世代に伝わっていない。そこでうどんを使った食育玩具を作って話題を作ろうと、小麦粉と出汁の素をパッケージにしてうどんづくり体験のできる“うどん食育キット”を開発。すると面白いとマスコミに取り上げられ、資金調達のためのクラウドファンディングは三日で目標を達成。売り上げの6割は県外で暮らす孫向けのギフト商品になっているとか。うどんという地域文化を継承してほしいという県民の誇りを呼び起こした形です。

さらに、うどんを食べすぎなのか、香川県は糖尿病ワースト県とか。県内に青パパイヤの産地があって、その葉をお茶にすると小麦のグルテンを分解し、糖尿病予防に役立ちそうという話になって、中華料理には中国茶のようにうどんには青パパイヤ茶を飲もうというムーブメントをと、目下、画策中とか。資源と社会ニーズをつなぎ、新たな価値を創出しようとしています。

さて、わが家の場合はどうでしょう?わが家が農家として生まれて約90年。梨の直売を始めて30年以上になります。農産加工品まであります。その間、いろいろ模索をしてきました。直売ではものを売るよりわが家の姿を発信するということを重視してきました。しかし、わが家の誇り、自信、価値がまだ形にできていないと改めて気付きました。まだ二人目のレンガ積みのレベルのようです。そろそろわが家の旗印を掲げなければなりません。

 個々の農業生産者の旗印がそろい、さらに地域農業の旗印によって互いに切磋琢磨、陣取り合戦できるようになると農業も益々面白くなりそうです。

 そうだ、これからは「ブランド」と言わずに「旗印」と言おう。
(by 爺)