のらやま生活向上委員会 suginofarm

自然と時間を、都市と生命を、地域と環境を、家族と生きがいを分かち合うために、農業を楽しめる農家になりたいと考えています

地や動く天や動くのことわりもわれに要なしただ君を恋ふ(佐々木信綱)

2013年03月15日 | 農のあれこれ
正しく絶望したなら新しい希望の星を探さなければなりません
「ナリワイ実践家」という肩書の著者のこの本が眼にとまりました

“人生を盗まれない働き方”というサブタイトルは
「仕事は、自分の時間と健康を切り売りして、マネーと交換するものである」
という常識への挑戦メッセージです

中にナリワイ練習問題というのがあります

第一問
家のブロック塀が邪魔なんだけど、お金をかけず破壊する方法を考えなさい

ナリワイ的回答例
大きなハンマーで思いっ切り叩いてぶっこわす
あまりの楽しさに、自分だけでやるのはもったいないと
Twitterで呼びかけたら10人も集まった
だったらブロック塀壊しを請け負う
セミプロ集団「全国ブロック塀ハンマー解体協会」を立ち上げる
年に一回、全国大会を行うのもいい
古い塀は自身の際に危険だから社会的意義もある


第五問
家に鼠が出て困るんだけど、お金をかけない解決法は?

ナリワイ的回答例
駆除業者に頼めばお金がかかる
トリモチ粘着シートは後始末が面倒
毒薬が効かないスーパーラットという種類もいるそうだ
生き物には生き物、ネコを飼えばいい
飼えないならば借りてくればいい
そこで「ネズミハンター110番」
ネズミ狩りの能力に長けていて
知らない家にいっても人見知りしない好奇心旺盛なネコを貸し出すサービス

こんな色々な小さな仕事をつくって
組み合わせることで暮らし方をデザインすることをナリワイ的生活と呼び
「自分でつくれて人間に無理がないサイズで
やれば頭と体が鍛えられて技が身につき、ついでに仲間が増える仕事」を
ナリワイ(生業)と定義づけています

グローバル社会で生き残れるのはバトルタイプ(戦闘型)だけであり
一つの仕事だけに絞る専業化は競争が激しく
無理やり大きくする必要があって、努力の割には結果が出ない…

ランニングコストのための「ライスワーク」で稼いで
理想の仕事を「ライフワーク」で行うという考えは甘い
ライスワークの感覚がライフワークの感覚を鈍らせるから…

自分のできる範囲の労力で工夫し、考えて生活をつくる態勢を確保しつつ
必要とあらば市場経済の中に切り込んでいくのがいい…

日常生活の中で違和感をみつけ、
矛盾がある以上、それを解決することが仕事になる
違和感を見つける時、「なぜ」ではなく「そもそも」と考えることが大事
困ったことにはナリワイの種がある…


これからの時代は、一人がナリワイを3個以上持っていると面白い
という著者の提案はわが家の営みを勇気づけます

ナシもコメも農産加工も規模的には市場で生き残れませんが
それぞれ応援団がいてくれて
「やらされている仕事」ではないから、結構、面白い
毎日忙しいけど、もしいま倒れても悔いはない

これからも小さなナリワイを見つけていくことにしましょう

思ふともかれむ人をいかがせむ飽かずちりぬる花とこそ見め(素性)

2013年03月13日 | 農のあれこれ
タイトルは古今和歌集から
恋い慕っても花の枯れるように離れていった人をどうしたらよいだろう
見飽きぬうちに散ってしまう花と思ってあきらめよう
そんな意味のようです

梅の花が散りはじめたと思ったらもう桜の便りです
ナシの枝の剪定がまだ残っているのに芽がどんどん膨らんできて
もう尻に火がついた状態もあって、久々のブログです

先日の砂嵐を撮ってからデジカメのレンズが動かなくなりました
そこで本の紹介です

まずはタイトルに魅かれ
「全部、ウソです。」という帯のコピーに唖然
薄々気がついていた自分の欠点を他の人から指摘されたような
そんな気分です

農業の現場にはすでに耕作技能が失われているのに
「有機農業」だ、「農業は成長産業」だ、「六次産業化」だと
マスコミ、識者が持て囃す「農業ブーム」は虚妄に満ちている
宣伝と演出でごまかすハリボテ農業を再生するには
農家、農地、消費者の惨状に正しく絶望することから始めなければならない

こう主張する、この本の内容は全部、本当です

農業の課題というと耕作放棄地の存在と担い手不足がいつもの常套句ですが
地主である農家はいつでも処分できる財産としての土地を保持したいがために
返してもらう時に権利が発生しそうな熱心な農家には貸したがらず
だったら何も耕作せず放置しておいた方がいいと考えているのであって
農家はそんな現状が問題なんてちっとも思ってやしない、という指摘

農地の利用実態を正確に把握しているはずの「農家基本台帳」も抜け穴だらけで
補助金の不正受給をチェックできない可能性もある、という指摘

農業委員という立場にいてよく実感することで、耳が痛い

「日本の農産物は安全安心で高品質」なんて報道が氾濫しているが
今は高級農産物生産では開発途上国よりも優位に立っているかもしれないが
家電と同様、追いつき追い越されるのは時間の問題と考えるべき
狂牛病対策でも農薬や成長ホルモンの残留基準でも決して厳しいとはいえない
そもそも舌が愚鈍化した日本人に安全性だの品質だのがわかるのか、という指摘

カロリーベースの「食糧自給率」から
生産額でみる「食糧自給力」で評価しようという動きがあったり
ちょうどTPP参加が話題に上っているときでもあり
心して熟慮しなければならないテーマです

いわゆる篤農家は異口同音に「土づくり」の重要性をいうけれど
その肝心の堆肥をきちんと作れる農家がどれだけいるのか、という問題提起
家畜の糞尿処理を目的とした堆肥に納得してしまうのではなく
プロの農家なら肝に銘じなければならない根本的な課題です